ふしぎ京都クロスライン―壬生の迷子と金平糖―
***

 冬めいて冷たい、けれども、雲一つなく晴れた朝だった。
 わたしは、お気に入りの水色の着物に白い帯を合わせた。

 壬生への道中は、わたしと沖田と切石と巡野、四人でどうでもいいことをしゃべりながら、からかい合ったりして、笑ってばかりだった。
 光縁寺の庭先で住職さんに挨拶をして、裏手の墓地へ回る。沖田がちょっと目を見張った。

「狭くなったもんだ」
「鉄道の線路を敷くために、区画整理があったらしいよ。山南さんの墓は、もとの場所に残ってるけど」

 山南さんの墓のそばには、幕末の死者を弔う墓がいくつか並んでいる。沖田には何も告げるまい。
 墓の下の人物の何割かは、沖田がもとの時代に戻れば、まだ生きている。彼らが京都で非業の死を遂げるなんて、沖田はきっと想像もしていない。

 沖田は山南さんの墓前に跪坐《きざ》をすると、微笑んだ。墓石の面に触れる。指先で、そこに刻まれた文字をたどる。

「ずいぶんボロボロだ。敬の字も助の字も、もう削れちまってるじゃないか。おれが知ってる墓は真新しいのにな。長い長い時間、ここにあるんだね」

 沖田は巾着袋から金平糖を一粒つまんだ。そっと墓前に置く。もう一粒つまむと、自分の口の中に入れた。

「おれと山南さんで、よく菓子を買いに行ったよね。子どもたちと遊ぶとき、配ってやった。饅頭や羊羹も捨てがたいって言いながら、金平糖がいっとう好きだったよね、山南さんは」

 ふわり、と。
 唐突に花の香りがした。甘いというより、すがすがしく爽やかな香りだ。

 切石がつぶやいた。
「サザンカや」

 沖田の手に、一枝の花が握られている。薄紅色の花は、あるかなきかの風に、重なり合った花弁を震わせた。

 巡野がささやいた。
「あのときの花ですね」

 沖田は立ち上がった。金平糖をもう一粒、口に放り込むと、わたしたちを見渡した。
「世話になったね。楽しかったよ」

 わたしはうなずいた。
「来てくれてありがとう。わたしも楽しかった」

「ゆうべ言ったこと、必ず守ってよ。おれも最後までちゃんと生きるから」
「うん」
 わたしはまた、うなずいた。その弾みに涙が落ちた。

 沖田は笑った。
「泣き虫だな」
 そして、わたしたちに背を向けた。

 沖田は歩き出す。一歩、また一歩。遠ざかるたびに、その後ろ姿が薄らいでいく。一歩、また一歩。花の香りは、もうわからない。
 やせた背中。ざっくりまとめた髪。二本の愛刀。沖田は振り返らない。一歩ごとに透き通っていく。

 一瞬、かすかに、声が聞こえた。総司、と呼ぶ男たちの声が。
 沖田が笑い、花を持った手を大きく振った。

 そして、沖田総司の姿は見えなくなった。

「行っちゃった」
 わたしは涙を拭いた。自分で自分をぎゅっと抱き締める。水色の着物。預かりものがなくなって、妙に軽くなった袂《たもと》。
 切石と巡野が、ぽんぽんと、わたしの肩を叩いた。

 わたしは山南さんの墓に向き直り、できる限りの笑顔を作ってみせた。
「ありがとうございました。お世話をおかけしました。また来ますね」

 沖田が供えた金平糖は、無数の小さな欠片《かけら》になっていた。かすかな風が吹いた。欠片は風に乗り、きらきらと、どこかへ消えていった。
 わたしは自分の巾着袋から金平糖の包みを取り出すと、一粒、山南さんの墓前に供えた。


【了】

BGM:BUMP OF CHICKEN「プラネタリウム」
< 48 / 48 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:0

この作品の感想を3つまで選択できます。

  • 処理中にエラーが発生したためひとこと感想を投票できません。
  • 投票する

この作家の他の作品

デジタル×フェアリー

総文字数/95,776

ファンタジー77ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
ディスプレイ越しに、彼を見付けた。 人間そっくりにデザインされたCGの、 まるで天使のように美しい少年。 彼に名前を訊かれた。 あたしは、マドカと名乗った。 彼は、アイトと名乗った。 「妖精持ち」という、特異体質のあたし。 「あの女」と陰口を言われるばかりの毎日。 多忙な両親とも、すれ違いが続いて。 アイトだけがいてくれれば、 あたしは、 もうそれだけでいい――。 彼は何者? 本当にAI? それとも……? 逃避行の果てに出会う真実。 妖精がいる現実は、あまりに痛くて、 小さな希望の光がともっている。
表紙を見る 表紙を閉じる
少し体の弱いあたしにとって 病院は学校でもあり 出会いの場でもあるのです 遠野優歌【トオノ ユカ】17歳 でもね 異世界ゲームにログインすれば あたしは自由に駆け回れるの .:*゚..:。:.   .:*゚:.。:. オンラインRPG “PEERS' STORIES” 【ピアズ・ストーリーズ】 ミユメ(♀)as 優歌 【人気上昇中の歌姫】 × ラフ(♂) 【百戦錬磨の双剣戦士】 × シャリン(♀) 【伝説級の最強女剣士】 × ニコル(♂) 【補助系魔法を操る賢者】 時は幕末 鮮やかに咲いて散った新撰組の 儚い運命をたどりながら 沖田総司 【胸を患う天才剣士】 斎藤一 【謎めいた凄腕剣士】 アタシは“彼”の真意に迫る ☆.。.:*・゜ 「命の意味を唄に乗せて――」 近未来が舞台の 異世界系ゲームと 不治の病をめぐる SFファンタジー *゚..:。:.  ゚+..。*゚+  .:*゚:.。:. 西暦2052年:赤呪の章 西暦2058年:緑風の章 西暦2059年:青剣の章 西暦2059年:闇剣の章 *゚..:。:.  ゚+..。*゚+  .:*゚:.。:. ☆ご感想ありがとうございます ナキムシさま まひる◎さま 和泉りんさま ♡shion♡さま ☆レビューありがとうございます 和泉りんさま
表紙を見る 表紙を閉じる
「好きな人が2人いちゃマズい? ま、いっか♪」 恋に恋するお年頃! 今日も笑顔で絶賛邁進中! 甲斐笑音【カイ エミネ】17歳 .:*゚..:。:.   .:*゚:.。:. あたしの好きなタイプは ☆背が高い☆ ☆優しい年上☆ ☆声がステキ☆ バッチリ当てはまる人が2人! 現実世界では 風坂界人【カゼサカ カイト】先生 異世界ゲームでは 銀髪で緑の瞳のニコルさん .:*゚..:。:.   .:*゚:.。:. オンラインRPG “PEERS' STORIES” 【ピアズ・ストーリーズ】 ルラ(♀)as 笑音 【そこそこ上級魔女っ子】 × ニコル(♂)as ??? 【補助系魔法を操る賢者】 × シャリン(♀)as ??? 【伝説級の最強女剣士】 × ラフ(♂)as ??? 【魂の抜けた双剣戦士】 ゲームを超えた真剣事情 絶対に助けてあげなくちゃ! でもアタシはずっこけキャラ? ☆.。.:*・゜ いとこの瞬一【シュンイチ】 親友の初生【ウイ】 ☆ もつれちゃった恋模様 あたしが笑顔の理由 瞬一が必死な理由 ☆ 支えたい“挑戦”がある 風坂先生が背負う悲しみ 切ない歌詞の『リヴオン』 ☆ “生き続けて 信じてるから” 近未来が舞台の 異世界系ゲームと 不治の病をめぐる SFファンタジー .:*゚..:。:.  ゚+..。*゚+  .:*゚:.。:. 西暦2052年:赤呪の章 西暦2058年:緑風の章 西暦2059年:青剣の章 西暦2059年:闇剣の章 .:*゚..:。:.  ゚+..。*゚+  .:*゚:.。:. 野いちごGP2015 パープル賞 一次審査通過 ありがとうございました ☆ご感想ありがとうございます 祠さま 花城ゆめさま 樹里衛さま 抹茶ショコラさま 汐見 夏衛さま ◇天狐◇さま ♡shion♡さま ☆レビューありがとうございます 汐見 夏衛さま

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品をシェア

pagetop