可愛らしさの欠片もない
先輩は知ると負担になるからと言った。私に気遣って教えないという意味だ。
…生む、ということだろうか。それより先に、相手の人は誰なんだろう。話さない理由の一つの、その部分が、知れば私の負担になるからってことだ。…そんな人…。
結婚はしないのだろうか。いずれするのだろうか。それともシングルのまま…。先輩なら覚悟を決めてそうするかもしれない。
あぁ…こうやって考えを巡らせるから、教えないってことだ。先輩が妊娠した…相手って…。
チラッと目線が来た。
「仕事、仕事。集中しなさい」
「あっ…はい…」
毅然としている。
そうでなければ………あ、また…思い出した。先輩にとって、妊娠は、…嬉しいものではなかった?というか、タイミングの問題?…だって、昨日のこと、落ち込んでいたって。だからメールも返せなかったって。確かそう言った。では、シングルだとしても、望んで妊娠したのではないってこと?
妊娠は…そうなろうとしたのではなく、してしまったって、こと?
「……咲来さん、この程度のことをずっと考えないの…」
「ぁ…はい…」
強い。この程度のこと。
すみません。私は当事者でもないのに。そして、きっと、何かあったとしても頼りにもならない。
「……話せるときが来たら話すから。今は急に詰め込むように話しても。私のことに煩ってる場合ではないでしょ?
あなたはあなたの、自分のことだけに向き合っていた方がいい。よそ見はしないこと………決して、何も負担がない、そんな恋愛ではないのだから」
…はい。…響いた。…涙が出そうになった。先輩は体だって大変なときなのに。こんなに配慮してくれて。
「無理のないときに、美味しく食べられるものを選んで、ご飯に行きましょう、言ってください」
こんなことくらいしか言えない。
「そうね、…お酒も飲めなくなっちゃうし、これでご飯まで辛くなったら、ストレスだけ増えそうね」
あ、ストレス……。だから、余計な心労、噂話なんて、もってのほかだ。
「大島さんには、今はまだ内緒ね。しばらくは体調不良、それでいいわ」
「はい、そうしておきます」
「咲来さんとは……繋がりができたから、前よりもっと近くなった感じがする。私の独りよがりかな」
「そんなことないです。私は……凄く心強いです。尊敬してます。先輩のようになりたいです」
甲斐さんとのことは抜きにして…、先輩のことを尊敬していることに変わりはない。なれはしないだろうけど。少しでも近づきたい。人として、こうなりたい。
「有り難う。私も頼りにしてる、弱音は吐きたくないけど、助けてね?」
「はい、私に出来ることなら」
「さあ、仕事しよう?」
先輩の手は元々止まっていない。話に集中して疎かになってるのは私だけ。