可愛らしさの欠片もない
「実は私……今、ちょっと、楽しみなことがあって」
「へぇー、何、聞いてもいいの?」
「はい。ぜん、ぜん、先の見えない、ただ喜んでるってだけのことなんですけど」
一杯だけ、つき合ったアルコールに少し饒舌になっていた。自分でも喋る口が止められなかった。内容的には今の大島さんに無神経な話になったかもしれない。
「最近のことなんですけどね、フフ」
「あー、随分、勿体ぶるね」
「そんな、大して内容のある話ではないんです。いいですか?」
「はい、いつでもどうぞ?ハハハ」
「フフ、勝手に恋、しちゃってるんです」
「ほ、お…」
「電車の中で見かけて、わっ、て、なんだか惹かれてしまって。でも、それだけの人だって。二度と会う人ではないだろうなって」
「うん」
「でも、でもですね、また見かけてしまって。もう、ラッキーって感じで。私的にはもう会えないと思ってたから、……もしかしたら、また会えるのかもって。段々、欲が膨らんできて。…どうなるんでしょう…」
「あ、それは…そうだなぁ…このままなら、このまま、なるようにしかならないんじゃない?見かけてるってだけの人なんだから」
そうなのよね。その通り。向こうは私の存在なんて無いものと同じ…。
「ですよね…そして会うことさえもなくなっちゃう…はぁ」
「あ。うん、まあ、そうなるかもね」
顔を押さえようとして手を動かした。グラスに手が当たって倒れそうになった。
おっと、と、大島さんが押さえてくれた。溢れるほどは残ってはいなかった。