可愛らしさの欠片もない
「すみません。そそっかしくて」
「大丈夫、大丈夫」
「あ!明石焼き、食べたいです」
「…え?急に……本当に?食べられるのかい?」
「大丈夫です、好きですから」
「好きと、食べられるは違うよ?」
「…はい」
でも、メニューにあるなんて珍しいんだもん。ずっと頭に残ってたから。食べずに帰るなんて…後悔したくない。出汁にトプッと浸けて…あぁ…美味しいって解ってる…。
「やれやれ…あ、すみません、……明石焼きを、……半人前くらいで。
注文したよ?食べるまでは寝ないでよ?」
…すっかりいい気分だ。
「はい、大丈夫、です。酔ってはないですから。高揚してるだけです。コジマさん」
「フ、だから、大島だって」
「すみません、解ってます、調子に乗りました。…ハハ」
「いや、別にいいよ、構わないから」
「はい。……大島さん」
「何?」
「これからも、よろしくお願いします」
…あ、なんの挨拶なんだろう。もう口から出ちゃった。
「あ、いや、こちらこそ、よろしくお願いします」
「フフ。では…乾、杯!」
さっき倒しかけたグラスを手にしてつき出して見せた。もう、手が動いてた。
「はいはい、乾杯」
大島さんは急いでジョッキを掴み私に合わせてくれた。きっと私は酔ってると思われてる。話すことも纏まりがない。思いつくまま口にしてると思われている。それなのに決して面倒臭そうにはしない……いい人だ…。
「お待たせ致しました……明石焼きです…」
……ん?…シーッという声が聞こえてきた。…大島さんだ。どうやら私はテーブルに伏せてしまったようだ。
「これ、テイクアウトできます?それと会計…、お願いします…」
…そんな声も……小さくて…遠くで………聞こえたような気がした。