旦那様は懐妊初夜をご所望です~ワケあり夫婦なので子作りするとは聞いていません~
「不審者に襲われたって? 大丈夫だったか?」
「あ、うん……」
「すぐ駆けつけられなくてすまない」
ベッドに近づいてきた景虎は、傍に置いてあった丸椅子に腰を下ろした。あの男ではなかったというだけで、体中から力が抜ける。
「警備員は不審者を取り押さえられなかったらしい。まったく頼りないな。受付もあっさり男を通してしまっている。再教育が必要だ」
「うーん……あんまり怒らないであげてね」
男が企業の名刺等を持っていたとしたら、受付の人に彼を疑うことはできなかっただろう。
「わかっている。今、守衛に防犯カメラの映像を確認させているところだ」
彼は一見穏やかそうに見えた。しかしその実、犯人に対する怒りを水面下に沈めているのが感じ取れる。
「その必要はないわ。不審者は、あなたも会ったことがある人だった」
形のいい眉が寄った。私は彼の目を見つめる。
「この前、道端で私に話しかけてきた、ちょっと軽そうな男の人。覚えているでしょ?」
尋ねると、彼は一呼吸置いてから慎重そうに答えを返してきた。
「……そう。あの男が……。わかった、警察に届けよう」