旦那様は懐妊初夜をご所望です~ワケあり夫婦なので子作りするとは聞いていません~

 落ち着いた私は部屋着に着替え、我が家の書斎に足を運ぶ。薄暗い部屋の灯りをつけ、読書用のソファに座った。

 紙やインクの独特の香りが私を取り巻く。それだけでとても心地いい。

「なにか読んでみようかな……」

 退院した日、初めてここに来たときのことを思い出す。彼が教えてくれた、私が推薦した本を手に取った。

「そうそう、これ大好きなんだよね」

 高校生の時に出会って、今まで大切に何度も読み返した、泣けるラブストーリー。映画化もドラマ化もされたけど、やっぱり小説が一番好きだ。

 最初のページを開く。ソファに座って文章に目を走らせた。

 内容が進むにつれ、脳裏によみがえる懐かしい場面たち。それに紛れて、不思議な光景が心の中に浮かんだ。

『副社長』

 私が名前を呼ぶと、景虎が憮然とした表情で、読んでいた本から顔を上げる。これは……会社の図書室での記憶?

『なんだ。読書中に君が声をかけてくるなんて珍しい』

『すみません。今日は私のおすすめの本を、是非読んでいただきたくて』

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