旦那様は懐妊初夜をご所望です~ワケあり夫婦なので子作りするとは聞いていません~
差し出した手が持っていたのは、まぎれもなく今私が持っている文庫本だった。片手で受け取った景虎は、パラパラと中身をめくって飛ばし読みする。
『なんだか、子供っぽい内容だな』
『ちゃんと読んでください。人を愛することとはどういうことか、副社長にもわかってもらえるはずです』
力説している私。客観的に見ると、とても恥ずかしい。自分の趣味を他人に押しつけるなんて、普段の私ならしないのに。
『君は俺をどう見ているんだ』
『別に、みんなが言っているような冷血サイボーグだとは思っていませんよ。ただ、ちょっと人との接し方が雑なだけですよね』
仕事中の交渉や会議は丁寧なのに、と私は追加で呟く。景虎は苦虫を噛み潰したような顔をしていた。
『これ、貸してあげますから。温かい人間の心を取り戻してください』
およそ副社長と話しているとは思えない話し方。この時はもう私たちは付き合っていた?
散々な言われようの景虎は、何か言い返したいような顔をしていたけど、結局文庫本を受け取った。