旦那様は懐妊初夜をご所望です~ワケあり夫婦なので子作りするとは聞いていません~
記録を残すことに執着がない人もいるんだろうけど、私としてはもし誰かと恋愛をしたなら、写真を残したいと思うだろう。
たとえば、一緒に行った場所や、食べた物とか。
別れた後は処分するだろうけど、付き合っている間はそういう記録が積み重なっていくものだとイメージしていた。
「やっぱり、政略結婚だったの?」
ぽつりと口から寂しい単語が滑り落ちた。
医療機器メーカーの御曹司との政略結婚。父は喜んで私を彼に差し出したことだろう。それが私の幸せでもあると信じて。
愛のない政略結婚で、お付き合い期間もなかったなら、写真がないことにもうなずける。
彼は病院で、私を愛していると言った。
でも、口先だけなら何とでも言える。
「違う。俺が君を好きで、結婚前提の交際を申し込んだ。一年前に」
私の肩をつかんだ彼の眉間に、皺が寄っていた。
切羽詰まったような表情に、胸がかき乱される。
「社内で内緒で付き合っていたんだ。だから、スマホに証拠を残したくなかった」
彼はゆっくりと私に言い聞かせる。