旦那様は懐妊初夜をご所望です~ワケあり夫婦なので子作りするとは聞いていません~
胸の中がざわざわと音を立てる。
ただの交通事故の外傷だけでは済まないことが、自分の身に起きていると感じた。
「お母さん、萌奈さんは今おいくつでしたっけ」
「二十五歳です。ちゃんとお勤めもしていて……それなのに、それなのに……」
椅子に座らされ、ハンカチを目元に当てる母。
「本当の私は二十五歳で、五年分の記憶がどこかに行っちゃったってことですか」
言いながら、全く実感がわかない話だと思った。
ただ、クッキーが死んでしまってもうこの世にいないことが、悲しかった。
「そういうことだと思います。とりあえず今日は休んで、明日からもう一通り検査をしましょう」
「はい……」
「不安だと思いますけど、あまり考えすぎないように。お母さんも、落ち着いて」
先生が部屋から出ていくと、母も父を呼んでくるといい、病室から離れた。
うーん、困った。
五年間に出会った人たちやしてきた経験を忘れてしまったのは、ただただ不安だしショックだ。