嫁入り前夜、カタブツ御曹司は溺甘に豹変する
 ガラガラッと音を立てて椅子を引き、どすっと豪快に私の正面に座ったのは阿久津さんだった。

「あれ? どうして阿久津さんが?」

 キョトンとすると、阿久津さんが「ええっ」と目を剥いた。

「ごめん!」と萌が顔の前で両手を合わせる。

「阿久津さんも誘ったって言い忘れてた!」

「あっそうなんだ」

「俺来ちゃいけなかった?」

「いえいえ、とんでもないです! 一緒に味わいましょう!」

 慌てて否定すると、阿久津さんは気にした様子もなくホイップボンボンをスプーンから落ちそうなくらいすくってかぶりついた。

「なにこれ! 美味しい!」

「ですよね!」

 阿久津さんと萌がキャッキャと騒ぎ始める。

「和菓子もいいけどやっぱり洋菓子もいいよねぇ」

 阿久津さんの言葉に萌は大きく頷いてご機嫌な笑顔を浮かべた。

 美味しいものを食べるだけで幸せな気持ちになるけれど、こうしてスイーツ好きの同士と共感しながら食べた方が何倍も心とお腹が満たされる。

 仁くんは甘いもの好きなのかな。

 和菓子を作っているからといって好きとは限らない。ましてや仁くんは家業を継いでいるわけだから、自らの意思で和菓子職人を志したここにいる三人とは違う。

 杏ちゃんに聞いても『よく分からない』としか言わないし。

「またぼーっとしてる」

 隣に座る萌に肩を小突かれた。
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