嫁入り前夜、カタブツ御曹司は溺甘に豹変する
「年頃だからねぇ」

 フォローしているのか、阿久津さんがお姉っぽさ全開の口調で言う。

「いっぱい悩みなさい。そうやって人は成長していくんだから」

「阿久津さんまだ二十三歳なのに達観していますね」

 萌が笑いながら言う。

「社会に出たのが早い分、同年代より酸いも甘いも知っているつもりではあるよ。とか言いつつ今は相手がいないんだけどね」

 阿久津さんと付き合う女性ってどういうタイプなんだろう。阿久津さんよりも中身が乙女の人なのかな。

「ぼーっとしているといえば、朝霧さんも最近様子がおかしいよね」

 阿久津さんの口から仁くんの名前が飛び出したので、私の心臓も危うく飛び出そうになった。

「どんなふうにですか?」

 萌がクランチを突きながら聞き返す。

「いつもクールなのに、ここ数日は険しい顔つきなんだよね」

「新作発案中だからじゃないんですか?」

「俺も最初はそうかなって思っていたんだけど、明らかに様子が違うんだって」

「よくそんな微妙すぎる変化に気づきますね。もしかして阿久津さん、本気で朝霧さんを好きなんじゃ……」

 萌の声がどんどん尻すぼみになって消えた。顔には悲愴感を漂わせている。

 そうか。阿久津さんの好きになる人が、必ずしも女性とは限らないんだよね。
< 107 / 214 >

この作品をシェア

pagetop