嫁入り前夜、カタブツ御曹司は溺甘に豹変する
 転びそうになりながらなんとか家の前までやってきて玄関の中に放り込まれた。

 こんなに雑な扱いをされたのは初めてで困惑する。

「仁くんどうしたの? というか、私がなにかしたのかな?」

 靴を脱ぐのもはばかられるなかで、これ以上刺激しないようにできる限りやわらかな口調で聞く。

 知らず知らずのうちに機嫌を損ねるような行動をしたのかも。

 仁くんはおでこに手をやって細く長い息を吐き、よく分からないことを口走った。

「花帆はなにもしていない。俺の問題だ」

「仁くんの問題?」

「そうだ」

 私に対して不機嫌になっているわけではないんだよね?

「えっと、とりあえず中に入らない?」

 いつまでも玄関で話をしていないで、疲れているのならリビングのソファで休んでほしい。

 靴を脱ごうと片足を浮かせたところで両肩を掴まれて「わっ」と声をあげた。つもりだった。

 気づいた時にはもう唇は塞がれていて、熱くてやわらかな感触が時間差で伝わってきた。
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