嫁入り前夜、カタブツ御曹司は溺甘に豹変する
「駅前に新しくオープンしたカフェ知っていますか?」

「syusyuって名前のところか?」

「そうです。さすが朝霧さんお詳しいですね。そこのホイップボンボンを食べてきたんですけど、かなり美味しかったですよ」

「そうか」

 いつも通りの淡泊な返事。でもどこか機嫌が悪そうに見えるのは気のせい?

 仕事で疲れているのかな。今帰ってきたんだろうし。

 ふたりのやり取りを黙って見守っていると、不意に仁くんが私に向き直った。

「帰るんだろう? 行くぞ」

「えっ?」

 ガシッと腕を掴まれて思考がストップする。

「それじゃあまた明日」

 仁くんに挨拶をされた阿久津さんは目を点にしながらも、きちんと頭を下げていた。私はというと引きずられるようにして仁くんに連行される。

「仁くんちょっと待って」

 呼び止めても仁くんは振り向かない。

「おーい!」

 ちょっと間抜けっぽくなった声にも無反応。

 いったいなんだっていうの。

 口裏合わせをしたわけではないけれど、私たちの関係は結婚式を挙げるまでは内緒にするつもりでいたし、仁くんもそのつもりでいると思っていた。

 それなのにさっきの仁くんの態度は、誰がどう見ても私たちが親密な関係だと言っているようなもの。

 阿久津さんには、私たちは幼馴染でもそこまで仲がいいわけではないと最近説明したばかりなのに。
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