嫁入り前夜、カタブツ御曹司は溺甘に豹変する

 モニターで仁くんの姿を確認して鍵を開錠する。

 すぐに開いた扉から、髪を振り乱した仁くんが現れてずかずかと私の目の前まで歩いてきた。

 さっきまでの私のように息が上がっている。急いで駆け付けてくれたに違いない。

 仁くんは優しいから、すごく心配をかけたはずだ。

「仁くん、ごめん」

 頭を下げる。

「俺の方こそ悪かった」

 いつもの落ち着いた声に胸をなでおろす。

 仁くんは壊れものに触れるような手つきで私の頭を撫でた。

 仁くんの優しさに促されてゆっくりと顔を上げると、真剣な眼差しに捕まる。

「ちゃんと話をしよう」

 婚約を解消しようって言われるのかな。

 ぎゅうっと、心臓をねじり潰されたかのような痛みが走った。

「話をする前にひとついいかな」

 乾いた喉にごくりと生唾を飲み込む。朝霧の家を出てからなにも飲んでいないから、喉がカラカラに渇いている。

「お見合いをする前から、私はずっと仁くんがす」

 最後まで言えたのかどうか分からない。驚くべき速さで仁くんの手のひらで口を強引に塞がれた。

 息ができなくて力任せに手を押し退ける。

「な、なに?」

「びっくりした」

 言葉通り、感情をあまり表に出さない仁くんが珍しく目を丸くしている。

「びっくりしたのは私なんだけど」

 一世一代の告白を遮られ、やり場をなくした感情を持て余す。

 最後まで聞かなくても気持ちは伝わったよね? これって断られたのかな。
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