嫁入り前夜、カタブツ御曹司は溺甘に豹変する
「好みじゃないか?」

「めちゃくちゃ可愛いよ!」

 だったらなに? とでも言いたげな瞳に射抜かれて卒倒しそうになった。

「ヒールが高すぎるか? 俺に掴まって歩けばいいと思うんだけど……」

 仁くんにエスコートされて歩く姿を想像して、今度はぶわっと体温が急上昇した。

「こ、これ、何センチありますか?」

「八センチです」

 そばに控えている店員さんがすぐさま答える。

 それなら今履いているのとさほど変わらない。

「ひゃっ!」

 急に足首を掴まれてバランスを崩す。そのまま倒れ込むようにしてスツールに腰を下ろした。

「俺はこれが花帆に似合うと思う」

 問答無用と言わんばかりに足先を靴に入れる。

 私の話も聞いてくれないしすごく自分勝手なんだけど、いつもと違って強引な仁くんもいい。

 うつつを抜かす私の両足にパンプスを履かせると、生き生きとした色を顔に浮かべた。

「可愛い」

「……うん、可愛いね」

「花帆がね」

 仁くんの爽やかな笑顔がはじけた。

 これだ。

 遊茶屋を利用されるお客様にスイーツ王子と呼ばれる由来となった、女性を虜にするスマイル。

 このままでは部屋に到着するまでに、いい意味で気力を削ぎ落されてしまう。これ以上仁くんに魅惑されないようにしないと。
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