嫁入り前夜、カタブツ御曹司は溺甘に豹変する
「足が痛いんだろう」

「どうして分かったの?」

「いつもより歩くのが遅かったし、体重のかけ方がおかしかったから」

 すごい。女性同士ですらそんな些細な変化には気づけないと思う。

「大丈夫。歩けるよ。こんな高価なもの買ってもらえない」

 好意はありがたいけれど、店員さんに聞こえないように声を潜めて訴える。

「それなりに稼いでいるから心配しなくていい」

 それは知っているけど! そういう問題じゃなくて!

 目で必死に抗議しても仁くんにはまったく伝わらない。

 女性しかいない店内で、ピカピカに輝く靴たちを背景に凛とした佇まいの仁くんは、ドラマのワンシーンを彷彿とさせた。

 店内の女性客がチラチラと仁くんを盗み見ている。

 やっぱりカッコいいよね? 見ずにはいられないよね?

 心のなかで彼女たちに共感を求めている私に代わって、仁くんが幾つかの靴を物色した後エナメル素材のハイヒールを手に掴んだ。

 靴自体はライトピンクで、アウトソールだけ赤色になっている。可愛らしさのなかに大人っぽさが隠れていてめちゃくちゃ可愛い。

 今日の服との相性も抜群だ。……って。

「ちょっと待って!」

 王子様のように私の足元に跪いて、靴を履かせようとする仁くんを全力で制止した。
< 161 / 214 >

この作品をシェア

pagetop