嫁入り前夜、カタブツ御曹司は溺甘に豹変する
 まだ一歳だった杏太も可愛い弟ではあったが、やはり異性である女の子というのは別格で、花帆はまるで天使のように見えた。

 杏太と花帆は年が近いのもあって常に行動を共にしていたので、俺が親に代わってふたりを見守る機会は多かった。

 本当の妹のように思っていたし、俺を信頼してくれるのも、懐いて甘えてくれるのもうれしかった。俺を必要としているのだと身をもって感じられたから。

 当時の俺は小学生ながらにして大きな問題を抱えていて、心に闇というか、誰にもさらけ出せない鬱屈とした感情を抱えていた。

 はたから見れば花帆が俺につきまとっていたように感じただろうけれど、実際のところ、屈託のない笑顔に何度も救われ、いつしか心の拠り所にしていたのは俺の方だった。

 花帆から向けられるそれらの好意は、高校生になって、周りの女子たちが友情以上の感情を持った視線を送ってきたり、媚びたような猫なで声で寄ってくるのとはわけが違う。

 華やかなものが好きな彼女たちの目には、老舗和菓子屋の御曹司というブランドを持っている俺は無条件でよく見えたのだろう。

 人見知りをする性格だったし人付き合いが不得意な俺にとって、無遠慮にパーソナルスペースを侵害してくる同年代の彼女たちは、アレルギー反応を起こすかのごとく苦手な存在だった。

 次第に女嫌いが加速していったが、花帆だけは特別で。
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