嫁入り前夜、カタブツ御曹司は溺甘に豹変する
「そうそう。婚約者との時間を大切にする優しい男なんだと軽く考えておけばいいんだって。ていうか、婚約者になったからってかしこまりすぎ」

「別にかしこまってないよ」

「ふーん?」

「なによ、その言い方」

 おどけた様子の杏太に口を尖らす花帆。相変わらず仲がいい。

 軽口を叩き合うふたりの姿をこれでもかと目の前で見せつけられている間、ただ黙ってビールを飲んでいるしかなかった。

 それぞれが食事を終え、両親はすでにソファへ移動してテレビを見ている。

「あー、食った食った。ごちそうさま」

 さすが二十二歳。おかわりをして最後まで食べ続けていた杏太がようやく箸を置いた。

「もう食べる?」

 花帆の問いかけに「うん」と杏太は返事をする。

 阿吽の呼吸を続けるふたりを見ていると、俺より杏太と結婚した方が花帆は幸せになれるんじゃないかと思ってしまう。

 俺より先に杏太が見合い話を聞いていたら、杏太はなんと返事をしていたのだろう。

 俺が花帆と結婚する意思があると伝えたとき、とくに目立った動揺もなかったし、そもそも学生の俺が結婚とかありえないだろうって呆れていたけれど。
< 46 / 214 >

この作品をシェア

pagetop