嫁入り前夜、カタブツ御曹司は溺甘に豹変する
「あったかいお茶入れる? さすがにビールとは合わないでしょ」

「そうだね」

 テーブルに置いた化粧箱を広げながら杏太が気のない返事をする。

 さて、俺はどうしたものか。

 このまま居座っていいのかと思案していると、目の前に湯呑みが置かれた。

「仁くんもよかったら」

「ありがとう」

 俺の分のお茶があるのだからここにいていいんだよな。

 入れてくれたばかりのお茶を火傷しないように慎重にすすりながらホッと一息ついた。

「道明寺桜餅だけ食べたんだ?」

「そうなの」と言いながら、先ほどまで父親が座っていた場所に花帆が座る。

「じゃあこの桜餅は食べていい?」

 そう言いながら、杏太は何故か俺を見る。

「なんで俺に聞く?」

「え? 仁も食べるんじゃないの?」

 どうやら杏太は初めから三人で食べるつもりでいたようだ。

「ふたりが食べきれなかったら食べるよ」

 餡であれ求肥であれ、滅多に味見しないといっても、長年和菓子に触れていた身としてはあえて食べたいとは思わない。新作を考えるときは嫌というほど食べなければいけないし。
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