嫁入り前夜、カタブツ御曹司は溺甘に豹変する
「まあそうだよな。俺はたまにしかやらないからいいけど、仁はさすがに飽きるよな」

 のらりくらりしている杏太だけれどすでに就職先は決まっている。朝霧菓匠とも昔から関わりのある、大手企業のパッケージデザインなどを手がける会社だ。

 芸術大学に通うだけあって手先も器用だしセンスもあるけれど、本人が和菓子職人になるのを希望しなかった。

 繁忙期など人手が不足しているときはアルバイトとして作業を手伝ったりしていたが、自分には向いていないといつも言っていた。

「そもそも食べきれないのにどうしてこんなに買うんだ?」

 何気ない質問だったが、花帆はかわいらしく首を傾げてはにかむ。

「だって、コロンとしたフォルムも、優しい色合いも、こうして寄り集まると可愛さが増すじゃない」

 俺に対して常に緊張感を持っているのに、たまにこうして不意打ちで気の抜けた顔になる。

 頭をなでたくなる衝動に駆られて、気を落ち着けるために湯呑みを手にした。

「写真撮ったんだよ」

 最近は写真に撮ってSNSに投稿するのが流行っているので、とにかく若い女性が好きそうな和菓子というテーマを掲げて考えた。

 おかげで朝霧菓匠の集客力も上がったし、花帆も気に入ったのなら頑張った甲斐があるというものだ。
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