最期の花が咲く前に
3章、腕に咲く桜
「おはよ〜。」
既に来ていた二人に挨拶をすると、少し驚いた表情をされる。
「来ないと思った。」
と陽汰が。
「来るよ!まぁ、包帯巻いてたら少し遅くなっちゃったんだけどさ、」
「そゆことか。時間かかってたのね。」
とほっとしたような真菜。
「いつもは遅れてこないから、来ないのかなって思ったのよ。待っててよかった。」
「ごめんごめん。あ、あとさ職員室行っていい?」
「?いいけど、なんで?」
不思議そうな顔で問われる。
「花咲病のこと、話さなきゃなって。さっき電話したら、時間あるからいいよーって。」
「そうなの。かほっち先生はやはり優しいねぇ。」
「かほ先生ありがたや。」
私達は馬鹿みたいに手を揃えて拝むようにする。
「ふは、馬鹿みたいだって(笑)」
あはは、と笑う私達。いつも通り過ぎるからこそ、病気の事を忘れてしまう。
そんな時に、腕はズキリと痛む。
「っ、」
顔をしかめたのに気づかれて、心配される。
「大丈夫?!痛いの?」
「う、ん。なんか痛い…」
スルッと包帯を解くと、桜の花に変化が起きていた。
「あ、れ?」
増えていた。一輪だったのが、二輪に増えていた。
「増えてる…」
痛い訳だわ…増えてるってことは、皮膚から生えてきてるのだ。それは痛い。
「ちょ、増えてるけど…咲那、大丈夫か…?大丈夫じゃないよなぁ、」
「そ、そんな心配しないで。大丈夫だよ。少し痛かっただけだから。」
「でもさぁ、綺麗だけど、怖いんだからな?こっちは、慣れてないし…」
「私は慣れてるけどね。ママも、そうだったからさ。」
「…そうだったな。ごめん」
「いいんだよ〜大丈夫。それを活かしてさーちゃんを支えるって決めてるから。」
頼もしい子だ。本当にこのふたりと一緒でよかった。
学校前に着くと、そこにはある人影があった。
「あれ?…かほっち先生!」
かほ先生だった。まさか外にいるとは思わなかった。
「あぁ、咲那ちゃん。おはよう。あと、真菜ちゃんと、陽汰君も。」
いつもと変わらぬニコニコとした笑みで。三人とも癒された。
「お、おはようございます!先生、暑かったですよねごめんなさい…」
「私が好きに待ってただけだから、大丈夫よ。」
「先生、中行きましょ、差し入れ持ってきたんです。」
真菜ちゃんはそう言って中へと入っていく。
「差し入れ?!俺にもある〜?」
後を追って入っていく陽汰。あいつの笑顔はこの暑い日差し並みにキラキラしている。
「ふふ、陽汰くん、元気ね。」
暑さなんて感じないんじゃないかって思うほど涼しい顔をしている先生。汗ひとつかいていないような気がする。
「先生、お話中でしますね。わざわざありがとうございます。」
「いえいえ。中行こうか。」
*☼*―――――*☼*―――――
中では真菜が先生達にお菓子を差し入れしていた。
「あ、さーちゃんちょっとまってて〜!配り終わったら行くね!」
「はぁい。少し話しておくね。」
「了解ー!」

「それで、話って?」
「…私の病気についてです。」
「病気?咲那ちゃん何かあったかしら?」
「最近、発症?しまして、」
「なんて言う病気なの?」
「花咲病です。」
先生はびっくりしたように、黙ってしまった。
「花咲病って、目に咲くんじゃなかったかしら…」
「知ってますよね。…私、症状が違ったみたいで、」
「そうなの…花は、どこに咲いてるの?」
「ここに、」
と私は腕に咲いた桜を見せる。
「あら、桜なのね。綺麗…なんて言ったら嫌よね」
「いえ、そう言って貰える方がうれしいです。」
「話してくれてありがとうね。ニュースで話してくれない子もいるって見たから…」
「私は、先生には伝えます。真菜も、その方が安心してくれますから。」
「そうね。言って貰えた方が、安心するわ。」
「これから、休んだりしちゃうかもしれないんですが、よろしくお願いします。」
先生は、やっぱり優しかった。
「そんなの、いいに決まってるじゃない。先生達にはしっかり説明しておくわ。」
「ありがとうございます!」
「あ、あと、」
真菜を呼ぼうとすると、先生から一言
「桜、綺麗よ。あまりキツく花を抑えないであげて…?」
意外な言葉だった。私も、花が取れてしまいそうで怖かったので、それを提案されてなんだか嬉しかった。
体にとって、害しか無いのに。不思議な気分だった。
「はい。キツくしないでおきます。」
「頑張りましょうね。咲那ちゃんは、きっと乗り越えられるわ。」
「はいっ!」
真菜はそれを聞いていたみたいで、
「先生、ありがとうございます。理解してくれようとして。」
「あら、理解してるわよ?だって、先生の家族、花咲病の先生で、色々聞くのよ。」
初めて聞いた。
「そうなんですか…。なら、理解してますね。」
と真菜も安心したように言っていた。
「大丈夫よ。私も勉強するから。でも、分からないことだらけだから、真菜さんも、知っていることがあったら、教えてくれると嬉しいわ。」
「かほっち先生〜。本当に優しいです!」
「生徒にかほっち先生と言われるの恥ずかしいのよ?まったく。」
「えへへ。みんな呼んでますよ〜。」
私も隣で頷くと、その隣にいつの間にか陽汰がいた。陽汰も頷いていたので笑ってしまった。
「何やってんの(笑)」
「ん?かほっち先生って呼ぶなーって思って、頷いてた。」
「そゆことか。」
「まったく。みんなは…」
照れるかほっち先生も可愛かった。

本来の目的は、花咲病について調べること。
図書室で、何か文献がないか探ろうという考え。
図書室はこの学校の誇るポイントで、とても広く様々なものを扱っている。
もちろん、奇病もその一つ。本校で出てはいなかったが、校長の意向で奇病の本も扱っていたらしい。
「役立つ図書室で良かったよな。」
と陽汰の一言。本当にその通りである。
この学校に無いとなると、だいぶ探さなくてはならない。
まぁ、陽汰のお父さんに情報を貰えばいいけれど、調べられるなら調べた方がいいだろう。

「つ、かれたぁ!」
私達しかいない図書室で大声を出す陽汰。
「うるさい。ってなんか見つかった?」
「花咲病は、治し方はなく、回復例も無いため、なってしまえば死に至る、との見解が示されている…。えぇ。嘘だろ。」
「それは、知ってる…。うん。」
「そっかぁ。」
「暗いわっ。まったく二人とも、当の本人はいい物みーつけた!」
「なんだよ〜。」
「えっとね、花咲病患者に咲いた花一覧」
その内容は、体に咲いた花の種類を書き連ねたページだった。
薔薇、桜、秋桜、紫陽花、向日葵、すみれ、ハナミズキ、アネモネ、朝顔など、知っている花もあれば、
知らない花も多かった。
「こんなに咲くんだって。それでね、最後には、綺麗な花に包まれて眠るように亡くなるんだって。」
眠るように死んでゆくだなんて、儚く優しい病だと思ってしまう。
「私、この本借りようかな。なんだか素敵な本だし。」
二人はなんとも言えぬ表情で。
「美しく死ねるなんて。まだ良かった。これで、無惨な姿じゃ、悲しいもの。」
本音だった。まだ二輪しかない花は、これから増えていくのだと思うと恐ろしく思うけれど、楽しみでもあった。
「不謹慎だけどね。ごめん。」
真菜は私を見て、微笑むと
「この病気は、優しい人しかならないんじゃないの?」
そんな事を話し始めた。
「私のママも、同じことを言ってた。綺麗に死ねるならいいよ。って。ほんとに嫌だよね。
同じこと言わないでよ。もう。」
思い出させてしまった。
「ごめん、泣かないで…」
「大丈夫、ごめんね。まだママの話すると泣いちゃうの。」
「俺さ、綺麗に死ねるにしても、何にしても、咲那が死ぬの、すっごい嫌だからな。」
「意外な言葉だった、そんな事言わない雰囲気じゃん。」
思わずおばさんみたいになってしまう。
「だって、さ。うん。」
顔がほんのり赤い気もしたけれど、、こっちを見ないし放っておくことにした。
少し落ち始めた時間、私達はその病の怖さと、美しさを知った。
私は長くないという事を実感し、二人は私が生きても治ることなく、死んでしまうことを理解してくれた。
残酷で、悲しい結末を迎える私達の物語は、まだ始まったばかりなのだ。

二週間後、学校が始まった。
様々な気持ちを抱えた私達は二学期をスタートさせる。その頃には桜の花が増えて、腕の広範囲は包帯が巻かれていた。
少し、隠しにくくなっていた。
いつも通りの日常を送るはずなのに、それは出来なかった。
大好きな体育は、一時間動けなくなってしまった。動く事で早くエネルギーがまわってしまうからと、できる限りとめられた。
周りの目は、疑いが日に日に増えていくように感じた。
そりゃ、仕方ない。一学期までは普通に動いていた人が、二学期になって病弱のようになってしまったから。
それ以外は普通に過ごしているのだが…。
お昼休みの場は、苦しい教室から逃げ出して屋上に向かう。
本当は立ち入り禁止なのだが、開け方を知っている私は、二人を誘ってそこでお昼を食べたりする。
この病になってから、私はお弁当を作るようになった。
『花嫁修業』と名付けて。
本当は二十歳を過ぎてからのはずだったけれど、予定変更。
できる限り料理をできるようにしよう!と言う考えで。
ママは楽しそうに毎朝料理を教えてくれる。それが楽しいの。
「今日の弁当なーに?」
陽汰はお弁当を覗いて一言、
「お、美味しそ…一つ、その美味しい卵焼きくだしゃい!」
思い切り噛んだな、と笑ってしまう。
「ねぇ、今噛んだでしょ(笑)陽汰やばいー。」
手を叩いて笑う真菜。写真撮ろっと。隠し撮りのアルバムは二人でいっぱい。
死んだ後にバレるんだろうな〜。と思いつつ笑ってしまう。
「さーちゃん、私にも一つ、ウインナーをください!」
「ふふふ、よかろう。二人にそれぞれ卵焼きとウインナーを授ける。とくと召し上がれ?」
「「わーい!いただきまーす!」」
お弁当の時間は最高に楽しい。
食べ終わったあとは、陽汰から花咲病の話が始まる。
「なぁ、大丈夫なのか。皆から、咲那はサボる人って認識になってる。」
「そうだね。でも、仕方ないよ。」
「いい加減むかつくから、言ってもいいと思うんだけどなぁー。」
「私は、隠せない花が咲いたとき、言おうかなって思ってるから。」
「ならいいけどさぁ。無理だけはしないでよ?ストレスも良くないんだから。」
「分かってるよ〜。」
といいながらも、実はストレスが溜まっていた。十分に動けないのはかなりキツかったし。
「じゃ、戻ろっか。次は、現代文だ〜眠いぞ〜。」
なんて言いつつ、結構張り詰めていたんだよね。

帰り道、私は陽汰と帰っていた。久しぶりに少し遊びに行きたくて。
「ねぇ、映画行こ。」
「お、いいよ?何見る?」
と電車に揺られながら考える。ただ、眠くなってしまって、
少しうつらうつらしてしまう。
「っと、眠いの?ほら、寄っかかれよ。」
と、陽汰は自分の肩を叩く。
「お言葉に甘えて。」
眠くて仕方がない。そんな中、少しだけ眠る。
温かく、優しい彼の肩に頼って。
私は、陽汰が好きだ。
でも、それが叶わないことはもう分かっていた。だって死んでしまうから。悲しくも、死んでしまうから。
諦めたいのに、諦められない気持ちがあって、どうしようもなくなった私はその暗い空間に一言
「ごめんね。」
と呟くのだった。
*☼*―――――*☼*―――――
咲那が俺の肩で眠ってしまった。映画館のある駅まではまだしばらくあったが、ドキドキしてしまう。
すると、隣にいる君は透明に輝く涙を流して、
「ごめんね。」
と呟くのだった。俺は、誰に向けてかも分からないし、寝言だとわかっていたが、
「いいよ。」
そう返したのだった。君を、愛せたらいいのに、と邪な考えを浮かべながら。

映画館、ここは何度も二人で来ている言わば思い出の場所。
「ていうか、ごめん!長い時間肩借りてしまった!眠くて、眠くて…」
「いいよ(笑)俺がいいって言ったんだし。」
優しいなぁ。本当に。
「ありがとう〜。じゃあ、映画、映画みよ!私コレ見たいんだよね〜。」
私達は一つの映画を見る。
楽しい時を残すように。
映画の帰り道は、すっかり日が落ちていて。
「なぁ、咲那?咲那は、俺の事どう思ってる?」
唐突な質問。迷った。正直に伝えれば、可能性があるかもしれない。けれど、私はもう長くないのだから。
「優しくて、面白くて、馬鹿で、、本当に、良い奴だよ?」
好きとは、言えなかった。臆病な私を、許して欲しい。
「おれ、優しい?やったー。でも、馬鹿はない。馬鹿じゃない。」
「バカじゃん。(笑)」
ただ、他愛も無い会話が好きだった。

その日の夜、私の主治医から電話がかかってきた。
「もしもし、」
「あ、咲那ちゃん。明日の学校帰り、来てくれる?検診とか、色々しなきゃなのよ。大丈夫かしら?」
「はい。大丈夫です。」
「じゃあ、明日の学校帰り、待ってるわね。」
プツンと、通話が切れる。途端に溜息を吐く。
あの場所はまだ好きになれない。
真っ白な館内で明るいのに、人のもつ悲しさのせいで暗く、澱んでいるから。
「やだなぁ。」
と、思いつつ、腕の花を見る。桜は今も尚美しく咲き、それどころか生命力を増していた。
人の腕からエネルギーを吸い取って育っているとは考えにくい。
片腕の桜は、私を苦しめるように、痛みを出す。
「っ、ぁあっ、い、たぃ…」
跳ねる鼓動を感じた。そして、また一輪、桜の花が開いていた。
「いつ、死ぬのかな…?私は」
桜の花に問いかける。桜は外から入る風で揺れるだけ。
まだ死なないよ。と首を横に振る様に。
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