最期の花が咲く前に
4章、マスクの青年
次の日、私は陽汰との帰る約束を断って、病院に向かう。バスに乗って、『奇病専門病院前』まで揺られていく。
~♩♩ 次は『奇病専門病院前』です。降りる方は、料金ー
いつもは、私一人が降りていたのだが、今日は違った。
白髪の綺麗な男性が同じ場所で慣れたように降りる。
マスクよりも白い肌が透き通っていて美しかった。
その人の後ろを静かについて行くと、やがてその人は足を止めて、くるっとと此方を振り返る。
「君は、何の奇病をもっているの?」
静かな声で、その人は私にも問う。
「わ、私は、花咲病です。まだなったばかりだけれど…」
「花咲病…?」
その人は不思議そうに、首を傾げて
「目から花は生えないの?」
「私は、前例のないタイプみたいで…」
「そゆことか。…君、と僕の奇病については聞かないのか。面白いね。」
唐突に面白いだなんて。聞いていいの、かな?
「なら、あなたの奇病って…?」
「俺は、白化病。」
「白化病…」
「よくわかんないよね。そりゃそうだよ、だってテレビであんまり取り上げてくれないからさ。」
「そうなんですか。」
「白化病ってね、どんどん体の色素が奪われて、その中で機能も低下してって、いずれか死に至るっていう病気なの。」
「機能低下で、死ぬ…」
「俺は、あと半年持つか分からない。」

「半年…。」
まだ三年の猶予がある私からしたら、かなり少ない日にちしか残っていない。
その事を考えると言葉が出なかった。
「でもね、まだ機能低下はしてないよ。って、知らない君にどれだけ話すんだって感じだよな。ごめん。」
マスクの下はきっと笑っているのだろう。細くなった目元の白い睫毛が笑うと光に当たってキラキラ輝く。
「い、いえ!私、マスクさんのこと、気になります!」
ん?私は今なんて言った?
「マスクさん…ね。初めて言われた。面白い。」
「ごめんなさい、勝手にあだ名みたいな…」
「いいよ。マスクさん。じゃあ俺は…」
と少し考えているマスクさん。何を考えているのだろうか。
「うん。じゃあ、君はおはなちゃんだね。」
「おはなちゃん…。あ、あだ名ですか!」
そういう事かと思わず笑ってしまう。
「やっと笑ったね。君、さっきから笑ってくれなかったから。笑ってくれてよかった。じゃあ、また会えたら。」
マスクさんはまたクスッと笑うと、手を振って
「おはなちゃん、これからよろしくね。」
とマスクを少し外して「よろしく。」と言われる。
見とれてしまった。とても綺麗だったから。
「あ、こちらこそ、よろしくお願いします。マスクさん。」
ヒラヒラと手を振って歩いていった。一瞬マスクを外した口元、唇も白く透き通るような色をしていて、綺麗だった。
「綺麗な人だったなぁ。」
「あら、咲那ちゃん。どうしたの?」
「っえ?あ、マスクさんと喋ってて」
「マスクさん?だあれ?」
「あ、白化病の人です。さっき、マスクさんて呼んだら喜ばれて?私もおはなちゃんって付けられました。」
「あぁ、葵君か!へー。あんまし喋らないって聞いてたんだけど、喋ったのね。」
ハル先生は嬉しそうに笑っていた。あの人は葵っていうのか。似合うなぁと考えつつ、ハル先生の笑顔を楽しむ。
この病院でしか見られないハル先生は夏帆先生と似ているけれど、また違う可愛さがある。
あれ、でも確か苗字が一緒だったような…
「あの、ハル先生って、新塚 夏帆先生のこと、知ってますか?」
「夏帆のこと知ってるの?」
「私の担任の先生で、さっき、病気のこと言ってきたんです。」
「あ、そうなの!夏帆は私の妹よ。可愛いでしょ。」
「え、姉妹ですか?!だから似てるんだ…」
「奇跡も身近にあるのねぇ。」
ほーっと感心するようなハル先生。落ち着いた笑みは私を癒してくれる。
この人が主治医で良かったなぁと心から思うのであった。

「じゃあ、ここに居てね。呼ばれたら一通りの検査をして、ここまで来て?」
「はい。わかりました。」
その部屋の前のソファに座っていると、その部屋から一人、見覚えのある人が出てくる。
「ありがとうございました。…あれ、おはなちゃん。」
「あ、マスクさん!さっきぶりです!」
「うん。さっきぶりです。」
ははは、と笑うマスクさん。いつも笑ってる印象になった。
「君も検査?」
「はい。マスクさんもですよね。お疲れさまです。」
「ありがとう。そういえば、名前聞いてないんだ。教えて貰ってもいいかな?
俺は、東堂 葵。」
「私は、姫崎 咲那です。」
「さなちゃんか。どうに書くの?」
「えーと、花が咲くの咲に、那覇の那で咲那です。葵さんは、草冠に、発みたいな字ですか?」
と、スマホで出した名前を見せると、
「そうだよ。当たり。よくわかったね。あと、咲那っておはなちゃんにピッタリだ。」
いや、綺麗すぎるから。と脳内でツッコミを入れていると
「咲那さーん。姫崎 咲那さーん。」
と名前を呼ばれる。
「呼ばれちゃったね。じゃあ、また会えた時に話そ。あ、スマホ見せて。」
「あ、はい。」
マスクさんもスマホを出すと
「はい。Lime。勝手に登録しました。」
「Lime、ありがとうございます。いいんですか?」
「うん。奇病のわかんないこととかあったら少しは教えられるから。
これからよろしくって意味も込めて。」
「ありがとうございます!じゃあ、また会える時に。」
今考えると、会ったばかりの人のLimeを貰うとか、少しヤバいやつだなぁと思ったが、
優しそうな人だし、いいか。と解決させるのだった。

「疲れた…」
「お疲れさま〜。はいお茶」
「じゃあ、結果はいつも通り、書類で送るわね。
変わったこととかある?」
「えーと、花が増えてます。」
「増える?桜が?」
「はい。これです」
腕を見せると、驚いて腕を掴まれる。
「なんで、もうその症状が出てるの…?」
「え、なんて言いました?」
「あ、いやなんでもないわ。。桜が増えるの初めて見たから、びっくりしちゃって。」
「そういうことですか。」
「次に咲く花は、多分大きいのが咲くと思う。隠せないと思うから、周りの人に伝えなきゃになってくるでしょうね。」
「そう、ですか。」
伝えるタイミングはもっと遅いと思ったのに、案外早かったな。
「でも、それがいつかは分からないからね。これから一ヶ月先かもしれないし、もっと先かもしれないし、もしかしたらもっと早いかもしれないし。」
「分かりました。覚悟はしておきます。」
「えぇ。そうしておいて。」
「じゃあ、今日は終わりですか?」
「そうね。また次の検診で。あと、夏帆に言っておくわね。私が担当医だったわ!って。」
任せなさい!と自信ありげな姿に笑ってしまう。
「ちょ、笑わないでよ〜。まったく。」
「す、すいません。可愛くて」
「ほら、帰りなさい!もう!」
「はーい。じゃあ、失礼します。」
「はい。またね、咲那ちゃん」
次に咲くであろう花は一体何なのだろう。
私は借りてきた本を見ながら考える。薔薇、牡丹、向日葵、色々ありすぎて絞りこめない。
「薔薇とか、綺麗だろうなぁ…」
と、少しだけ次に咲く花の種類を願ってみたりした。
「叶ったらいいなぁ。」

この病気になってから、日記を付け始めた。
些細なことを描き留めた日記。私が死んだ後に見てもらおうとしている。
今日も日記をつける。
『九月 二十日
今日は検診に行った。そこでマスクさんに出会った。
白化病の綺麗な人だった。これからまた会えるのかな?
おはなちゃんと私は名付けられた。なんだか嬉しかった。
次に咲く花は、桜か、大きな花だと言われた。
薔薇がいいなぁ。綺麗な花がいい。これくらい願ってもいいかな?
でも、もし咲いてしまって、それが隠せなかったら私はみんなに言わなければならない。
私は花咲病なのって。どんな反応をされるかな。驚かれるだろうなぁ。
あ、今日は月が綺麗でした。
陽汰に、好きだよって言いたいのに、これじゃ言えないね。
君はどう思ってるのかな?知りたいけれど、怖くて聞けないね。
これを君が見た時に、なんて思うかな。嬉しいって思ってくれたらいいなぁ。
明日、目が覚めて、花が咲いていたらと思うと少し怖い。
でも、今日は寝ます。おやすみなさい。』
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