きっと、月が綺麗な夜に。
美矢も初めての撮影で緊張している筈だが、彼女は気持ちを入れるため、家を出てからはずっとイヤホンを耳にさし、音楽の世界からは出てこない。

いつもと同じ無表情だけど、いつもより力が入っている。

顔の中にある2つのビー玉は漆黒のように感じて、彼女の闇が、いつもは透き通ったあのビー玉を黒く染めている。


そのビー玉とバチ、と目が合った。

吸い込まれそうだ。幼く膝を抱えた、無知で愚かな僕がまた、そこに留まろうとしてしまいそうな、果てしない闇。


ふと、家を出てから初めて美矢がイヤホンを取って、早足で僕に近付いてくる。

目と目が合ったまま、思考することも出来ずにじっと見つめる僕。


そんな僕に寄るだけ寄った美矢は、そのやわっこくて小さな体でめいっぱい、僕の比較的細くてひょろひょろな腰に抱きついた。


「泣かないで」

「……え?な、泣かないよ?」


だって、6歳のあの日から泣き方なんて忘れたんだ。成長した筈だった僕だけど、多分、泣くことだけは死ぬまで出来ないんだろうって思っている。

美矢はどんな気持ちで僕に「泣かないで」なんて言ったのだろう。僕は、どんな顔をしていたと言うのか。
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