きっと、月が綺麗な夜に。
幸い、クリエイター班はまだ話に夢中でこちらの状況に気づいていない。

キョロキョロ、と辺りを見回した僕は、腰に巻きついた小さくてやわっこい美矢のその肩にそっと手を添えた。


「泣かないよ、僕」

「涙が流れるだけが泣くことじゃない。とらはあたしの前では泣いてばかりだ」


感性で生きてるみたいな美矢の言葉はたまに少し、難しい。
彼女にとって僕は『泣き虫』らしいが、僕には到底理解できないその言葉。

けれど、変だな。温かく染み渡る。小さいのに大きな美矢という存在が大きいのに小さな僕の全てに。


「とらはもう、温かいところにいて良いんだよ。……だって、何度でも押し返すから。この曲は、とらの為の歌なんだから」

「……っ!?」


そっと呟いた美矢は僕の体から離れ、顔を見ることなく背中を向けて歩いて行く。またイヤホンを耳に挿してしまったから、もう僕の声は届かない。


美矢はこの島の子たちや、まだ見ぬ子たちに向けて伝えたかったのだとばかり思っていた。

けれど、それは僕の勘違い。美矢は、たった1人、幼く膝を抱えた、無知で愚かな僕へ向けたメッセージだったというのだ。
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