きっと、月が綺麗な夜に。
金曜日まで、変わらぬ温かな日常が続いていたが台風は進路を変えることなく予報されていたより遅く上陸し、早く過ぎ去って行く予定のようだ。
嵐の前の静けさとはこのことを言うのだろうか。夕方までは本当に普通の、いや、普通より穏やかにすら感じる天気であったが、徐々に風が強くなってきた。
普段は遠くの海に長いこと出ていく漁師たちも全員島に引き返し、それぞれの家を守る為に各家族が家にこもり、静かに大きな渦をやり過ごす準備がされていく。
うちも例外ではなく、3人で協力しながらその所に出ている物をガレージに入れたり、庭の野菜や植物を守るバリケードを張ったり、雨戸を閉めたり。
作業中クロミが連れてきた野良達何匹かをガレージに避難させ、うちも準備が整った。
「あたし、こんなに大きな台風は初めて。あたしの地元関東だから、直撃って経験ない」
「大丈夫だよ。この島は台風に慣れている。どこの家も昔からそれに耐えうる作りになってる。朝が来たら、いつも通りの日常だ」
大分不安そうな美矢の背中をりょーちゃんがその大きな手でさすってあげると、美矢は肩の力を緩めて目を細めた。
気圧が下がって胃がむかむかする。台風はもう、島を飲み込みつつある。