きっと、月が綺麗な夜に。
「さあ、もっと酷くなる前に帰ろう!とらは貴人を抱えて。千明は俺が」

「そうだね、急ごう」


2人を抱きしめていた手を解き、りょーちゃんに千明を任せようとしたその時、僕の時間がスローモーションになった気がした。


あ……ダメだ、危ない。


なんて、頭でめちゃくちゃ冷静に思った時には、雨がっぱを再び2人に被せ、2人の頭を守るように体に引き寄せた。

右目の視界の端に、酷い雨風に飛ばされてきた木片がまっすぐ、僕たちに飛んでくるのがコマ送りで見えるのに、避けるほどのスピードが、僕の体では出せない。


「とら!」


りょーちゃんが僕を呼ぶのが聞こえたと同時に、右腕に強い衝撃が襲いかかった。

その衝撃は『あの日』に一度受けたものと似ていて、だけど全然違う。

だって『あの日』は愚かな僕が受けた罰のような、それでいて消失を具現化したかのような衝撃と痛みだったけど、今日のこれは、この先の人生が光で満ち溢れた子供たちを守った、栄誉あるものだから。


ああ……あの日の痛みを、雨風は溶かし流してはくれないけど、満ち溢れた光が塗りつぶしてくれる。
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