一匹狼くん、 拾いました。弐
その夢は誰のため。

仁side


「仁くん、ありがとう。これ、お駄賃」

 ミカのお母さんがそんなことを言って、ポケットから五千円札を取り出す。

「え、いいですよそんな」

「受け取って。本当に、すごく助かったから。仁くん、高校生とは思えないくらい料理上手くて、本当にびっくりしちゃった!」

 早口で、興奮した様子でミカのお母さんは言う。

「……ありがとうございます」

 おずおずと五千円札を受取る。

「いつも料理してるの?」

「……はい。料理はいつもしてます」

 あ、思わずはって付けてしまった。

「料理は?」

「……いつも料理してます」

 慌てて言い直すが、時すでに遅し。

「スイーツ作りは、いつもはしてない?」

「してないというか……できないです。スイーツは、さっきみたいに誰かに背中押してもらったりしないと、作れないです」

 ミカのお母さんにしか聞こえないくらいの声量で言う。

 俺と結賀のやり取りを見ていたからか、ミカのお母さんはその言葉を聞いて納得したように頷いた。

「そういうことだったんだ」

「…………はい。だから、スイーツは本当に実力不足で、……まだパティシエの卵にすらなれてないです」

「でも君はレストランのシェフとかじゃなくて、パティシエになりたいんでしょう?」

 ドキッ。心臓を叩かれたかのような衝撃が、俺を襲う。

「お、俺は……」
< 134 / 213 >

この作品をシェア

pagetop