一匹狼くん、 拾いました。弐

「ねぇ、クレープ、食べに行こうよ! 駅前にあったでしょ?」

 楓が人差し指を立てて、大きな声で言う。

「ああ、いいかもな」

 岳斗が上機嫌な様子で、楓の意見に賛同する。

「でしょ? クレープ食べるだけなら、門限にも間に合うと思うし」

 本当に間に合うのだろうか。

「……絶対に間に合うか?」

「ああ、大丈夫だよ」

「わかった」

 俺達はカラオケに行くのをやめて、クレープ屋に行くことにした。

 リオンクレープなんて名前の駅前にある出店の前で、俺達は足を止めた。

 店員さんの前に置かれたガラス張りのショーケースには、三十種類ほどのクレープの見本が並んでいていた。

 クレープなんて食べたことないから、ついその見本をじっと見つめてしまう。

 薄黄色の、クッキーのような色をした生地の上には生クリームがついていた。

 生クリームの上にはいちごやバナナなどの果物に、チョコやケーキなどのスイーツが様々な組み合わせで乗っている。

 美味そう。でも、こんな甘いのを食べたら、父さんに叱られるかな。最悪、吐かされるかも。

 ……どうしよう。

 父さんは俺を商品として見ているから、俺が余計なものを食って体重を増やしたら、やたら不機嫌になる。

 人物画は、太っている人より、痩せている人を描いた方がいい絵になるから。

「ミカどれ頼む?」

 ガラスケースにある見本の中で一番気になったのは、『いちごケーキメルバ』だった。いちごと、ピンク色のいちごのアイスと、小さなチーズケーキが入ったクレープ。三つの甘いものを包むようにある生クリームの上には、チョコのカラースプレーが振りかけられている。

 ダメだ。こんなの食ったら絶対父さんに叱られる。

「……アーモンドチョコクリームでいい」

 生クリームの上に、アーモンドと、チョコソースがかけられただけのクレープを見ながらいう。

「アホ。お姉さん、いちごケーキメルバと、抹茶黒みつと、いちごチョコスペシャルお願いします」

 俺の頭を軽く叩いて、岳斗は注文をする。

「かしこまりました。千八百六十円です」

 いちごケーキメルバ?

「お前、なんで」

 カバンの中から財布を出そうとしている岳斗の腕を掴む。

「いちごケーキメルバの見本だけ長い間見つめてたのに、お前がアーモンドチョコクリームとか言うから」

「……ありがとう」

 岳斗の優しさが嬉しかった。でも、アーモンドチョコクリームよりいちごメルバの方がカロリーが高そうだし、父さんは、すごく怒るかもしれない。そう考えると、頭が痛くなった。
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