一匹狼くん、 拾いました。弐

「……それで嘘か。なんでよりによって、元カノの兄なんて嘘をついたんだよ」

 仁が葵に睨みをきかせたままの状態で、低い声で言う。

「……そう言えば、信頼してくれると思ったからだ。俺は母親からお前の学校を聞き出して、お前がどんな生徒なのか探ったんだ。そしたらお前には付き合って間もない彼女と、岳斗っていう友達がいるのがわかった。俺はそれを利用した。楓の兄だって嘘をついておけば、俺が銀の友達なのが親父にバレないと思ったんだ。……バレたら終わりだと思ってた。バレたら、『俺から俊平を奪おうとしてるのか!』って言われて、殴られると思った。

 でも、そうならなかった。
 ……華龍の幹部とミカと俺で刑務所にいった時、親父は俺が自分の子だと分かってなかった。俺と、目すら合わせなかった。俺は、顔すらも忘れられていた」

「……あ、葵」

「ごめんな、銀。今まで隠してたのは、本当のことを言ったら、お前が俺から離れると思ったからだ。……俺はお前が苦しんでるってわかってたのに、親父を説得しようともしなかった。ただ虐待の話を毎日のように聞いて、お前を励ますことしか俺はしなかった。……俺は華龍が現れるまで、親父を逮捕するために警察を呼ぶ気なんて微塵もなかったんだ。……本当に、ごめん」


 大粒の涙を流しながら、弱々しい声を出して葵は言った。


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