一匹狼くん、 拾いました。弐

 ――バンッ!

 仁が葵の頬をものすごい勢いで殴った。

 殴られた衝撃で、葵は自分の背後にあったワイン瓶の棚に背中を打ち付けた。

「……いった。仁、俺……一般人だぞ。今の、一般人にやる強さじゃ………」

 葵が頬に手を当てながら、痛そうに顔をしかめてぼやく。

「うるせぇよ。これでもまだまだ足りねぇくらいだよ。お前がミカにやったことの残酷さには、まだまだ匹敵(ひってき)しねぇ」

仁が葵を睨みつけて、ドスの効いた低い声で言う。

「あ、葵……なんで」

戸惑った声を出す俺を見てから、葵は体勢を立て直して、口を開いた。

「……最初は少し気になっただけだった。学校の社会科見学で美術館に行った時に、制服を着てるお前が描かれた絵が展示されているのを見て、親父が俺の代わりに拾ったのがお前なんだと知って。……俺の代わりに拾われた子がどんな奴なのか知りたいと思った。それで何年かぶりに親父の家にいったら、そこからお前の耳をつんざくような悲鳴が聞こえて。……俺は怖くなって、直ぐにその場を離れた。

俺はお前が幸せな時間を過ごしてると思ってた。お前は俺と違って失敗作なんて言われてなくて、親父に散々可愛がられてて、すごい甘やかされてるんだろうなって思ってた。でも違った。お前はものすごい虐待を受けてた。

……俺は悲鳴を聞いて、どうにかしてお前を助けてやりたいと思った。でも警察に通報なんてしたら自分が親父に何かされそうだし、だからといってお前の代わりになるのなんて失敗作の俺には無理だし、どうすればいいのか分からなくて。

……馬鹿な俺には、友達になって話を聞いてやることしか思いつかなかった」

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