俺様パイロットに独り占めされました
久遠……。
そうそうお目にかからない、珍しい名字だ。
もちろん、あの久遠機長のこと、だよね?
私が思考を働かせると同時に、低く鋭い声が耳に届いた。


「人聞きの悪い。俺がいつ、君を弄んだと言うんだ」


私が言われたわけじゃないのに、条件反射でビシッと背筋を伸ばす。
この、威圧感たっぷりで、聞くだけで肝が縮み上がる声。
間違いなく、久遠さんだ。


「一方的に纏わりついてきたのは、君の方だろ。俺は誘いに応じたことも、思わせぶりなことを口にした記憶もない」


蔑み混じりの冷たい声で、呆れ果てたように続ける。


「悪いが、俺は君に手間暇かけて準備を施してまで、抱く気にならない。他のパイロットを当たってくれ」


なんとも赤裸々な皮肉。
いつの間にか好奇心の方が勝って、物陰に隠れて『痴話喧嘩』している二人が見えるところまで、近付いてしまった。


やっぱり、久遠さんだった。
フライトを終えてすぐだから、無条件でカッコいいパイロットの制服姿。
白いパリッとしたシャツに、金色の四本ラインの肩章が、堪らなく神々しくて凛々しい。


いつもはしっかり被っている制帽を、今は小脇に抱えている。
フライト中はすっきりセットされている前髪も、業務終了間際とあって幾分乱れ、さらりと額にかかっているのが、なぜか妙に艶っぽい。
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