イケメン従者とおぶた姫。
「こちらです。」


そう、男の声がしたと思ったら布のドアが捲られ


「失礼する」


と、中に入って来たのは獣人ではない。ショウと同じ人間だ。

しかも、物凄く高価そうな軍服を着ている。マントもしてるし、バッチもたくさん付いてて偉い人に見える。

体も鍛え抜かれた感じがし、顔は強面でなんか怖いおじさんだ。

…え?こんな偉そうな人もホームレス狩りってやつするの?しちゃうの?

と、チィは頭を押さえ絶望的な顔でブルブル震えていた時だった。

強面のおじさんは、すぐさまショウの姿を見つけると驚いた顔をし近づいた。


「…ショウ。聞こえるか?」


ショウの名前を呼んだと言う事は、このおじさんはショウの知り合いなのだろう。

きっと、川に流されて行方不明になったショウを探しに来たのだろう。

見たところ、お金を持ってそうなおじさんだ。良かった…これで、ショウは病院に連れて行ってもらえる。

助かるかもしれない。

ショウとさよならするのは寂しいけど。


と、チィがホッとしていた時だった。


「…何か、病気にでもかかっているようだ。」


おじさんが、そう呟いたので

チィは


「アタシの家族もこの病気で死んじゃったの。早く、病院に連れて行ってあげてほしいの。」


と、おじさんにお願いした。


…え?私…死んじゃうの?

チィの声が聞こえ、ショウはショックを受けとても怖くなった。

病院に行ったら治るのかな?

しゅ…手術とか?

こ…こわいよ〜…怖いよ〜…


ぼんやりする頭の中でショウは恐怖で震えていた。



「…この病気で、お前の家族が死んだのか?」


おじさんはチィに尋ねてきた。


「そうなの。だから、早く…」


チィが言いかけた所で、おじさんは腰に掛けてあった剣を取り出すと


「…ショウ、お前が何者なのか分からない。
ただ、王がお前に依存している事が最近分かった。

お前次第で、王は自我を失ってしまう。

それはならない。王は我が国の宝!

お前が死ぬと分かった以上、王にバレる前にお前を始末し姿形とも消さなければならない。

お前に恨みはないが。王の為に死んでくれ。」


と、剣を振りかざした。

ショウは、このおじさんが何を言ってるのか分からなかったし
自分が重い病気かもしれないって恐怖といきなり剣をかざされ命の危機にパニックになって、ひたすら、助けて、怖い、どうして?と、声にならない悲鳴混じりの命乞いをした。

チィは悲鳴をあげ、パニックになりながら
あわあわとし


「…ま、待って下さいの!
お、お金…お金ならありますの!!」


そう言って、急いでボロボロの壺の中から
リュックを取り出し中からお金の束をおじさんに差し出した。


「これがあれば!これで、病院行けますの!だから…」


そうチィが言った所で、おじさんはパーンとチィの持っていたお金を払い落とし


「…この泥棒風情が。
そのリュックはなんだ?なんで、そこに隠してあった?その金は、お前の物ではないだろう。」


そう言ってくるおじさんに、チィは


「…こ、これはチィのなの。チィの…」


と、必死に弁解をしていた。


しかし、おじさんはそのリュックは見覚えがあった。ショウ達が旅立つ時、ショウが背負っていたリュック。

それを、わざわざあんな場所に隠すなんて普通はない。


「嘘はいかんな。嘘付きで盗っ人のお前も
ここで始末するか?」


ゲスを見るかのようにおじさんは、目を細めチィを見下ろした。

ブルブルと震えるチィ。そこに



「…本当だよ。それは…チィのだよ。
私を助けてくれたお礼に…あげたの。
…だから、チィを助けてあげて…?」



ショウはガタガタ震える手でおじさんの服の裾を掴み、そう言ってきた。

それには、チィもおじさんも驚いた。


「…ショウ…違うの、違うの…ごめんなの…。本当は、これがあったらショウはこんな所いる必要なかったの。
…そんな病気に掛からなくて済んだの。
…チィが…チィが、お金欲しくって…」


チィが泣きながら、そう白状すると


「…ううん。本当だよ?
私ね、チィに助けてもらって凄く嬉しかった…ありがとう…。」


ショウは、小さく首をふってそう言ってきた。そして、ショウはおじさんを見ると


「……わ…私の事、誰かと間違えてるよ?
…だって、私…王様なんて会った事も…見た事もないのに…。私、偉い人と知り合った事すらないのに…」


と、恐怖で引っ込む声を無理矢理引っ張り出し震える声で、おじさんに身の潔白を主張した。

殺されたくないし、まして王様なんて…
自分みたいな庶民とどう接点があるというのか。身分が違い過ぎるし、自分とはまるで
別世界の人なのに。

おじさん…将官と、王子と関わり合ったのも謎なくらいなのに。何かの間違いじゃないかと何度も思ったくらいだ。

なのに、どうして、このおじさんは自分と王様が関わってると思い込んでいるのか。

そのせいで、命の危機にあってるのだ。

何とか、誤解を解かなければ殺されてしまうとショウは必死だった。


「そんなはずは無い!
では、何故王は、一番優秀な王子のグループにお前のような底辺をつけメイドまで用意したのか。
他の王子グループには、一般市民の中で選び抜かれた優秀者がつけられているというのに!

通常、旅にメイドはつけないのだぞ?

しかも、王子にしかつけない隠密をお前にまでつけていたのか。

そもそも、お前のような者は間違っても選ばれるはずがないのに受かるというのもおかしな話だ。

そこまで、恩顧を受けてもしらばっくれるつもりか!

お前は、王の何なんだ!?

一体、王に何をしたんだ!!?」



ショウの話なんて聞く耳を持たず、再度剣を振りかざした。

もうダメだと、ショウとチィは


「…ひゃぁぁぁ〜〜〜っっっ!!!?」

「ピャァァァーーーーーッッ!!!?」


体調の悪さで声にならない声で叫ぶショウと

甲高い声で叫ぶチィの声が響いた。

そして、ショウの首目掛けて剣を振り下ろした。

思わず、ショウとチィはギュッと目をつむった。

次の瞬間、バギッ!「グゥァァァーーーッッ!!!」…ヴァサササ…ドッシャーン!!と、凄まじい音とおじさんの呻き声がし

何が起きたのかと、ショウ達は恐る恐る目を開けると家の天井が無くなっていた。

…え!?何、何!?

何が起きたの!!?

と、音がした方向を見ると…壁すらない!

それどころか

おじさんは、何故か吹き飛ばされお家ごと数十メートル先へ転がっていた。


二人はギョッ!!?っと、した。


しかも、おじさんは向こうに吹っ飛んで倒れてるのに…え…?何、凄く怖い。

さっき、おじさんがいた場所から人の気配がするんですけど…と、ショウは怖くて見たくないけど…けど…どうしても気になって

そこを横目でチラリと見た。


すると、そこには


…ドキーーーーッッ!!!?


な、なんで、こんな所に…?


「…お、お父さん…?」


ショウの父親であるリュウキがショウの前に立っていたのだ。

ショウはボンヤリする頭の中は「???」だらけで、ポカーンとリュウキを見ていた。

すると、リュウキはグシャリを顔を歪め


「…良かった…良かった…!」


と、ショウを抱きしめ体を震わせていた。

お父さんも寒いのかな?

でも、あったかいな。

気持ちいいな…


リュウキの登場に安心したのかショウは、
スゥ…と深い眠りについた。


目が覚めると


…見覚えのない天井。

なんだか、アルコールのような…薬のような独特の臭いがする。

しかも、腕に違和感。もう片方の手にも違和感がある。

嫌な違和感の方を見ると、自分の腕には細い針が刺さっていてそこから長い管…これ…点滴だと思った。

ぼんやりする頭で、もう片方の違和感を見る。


…え?


ショウは、驚いた。

だって、そこにはベッドの横の椅子に座り
ショウの手を両手で包み握っているリュウキの姿があったから。

ショウと目が合ったリュウキは

「…もう、大丈夫だ。」

いつもの傲慢な態度が嘘かのように
力ない声でショウに囁き、眉を垂れ下げる様に弱々しく笑い掛けてきた。
心なしか目元が赤い。

そこで、ショウは思い出す。


「…チィは…?」


ショウがそう聞くと


「今、チィに健康診断を受けてもらっている。お前が、元気になったら一緒に会いに行こう。
それに、チィはお前の命の恩人だ。何か、
チィにとって嬉しい事をしてやろう。たくさん、褒美をあげよう。」


リュウキが、そう言ったので


「うん!」


ショウは嬉しくて、満面の笑みで頷いた。

その姿を見てリュウキは一瞬驚いた顔をするとショウの手を包んでいた手をおデコをくっ付け…泣いていた。


「…お父さん…?」


どうしたものかと不安に感じたショウは、不安気にリュウキの名前を呼んだ。

だって、どう考えたっておかしい。

いつも、ムカつくほどデリカシーのカケラもなく傲慢で自信家で俺様なお父さんが…こんな…。

まるで、ショウの事を心配しているように見える。

私の事が嫌いなのに?

と、疑問もあるが


「…お前が川に飲み込まれたと報告があった時。俺は、お前に…お前に、何かあったらと…気が狂いそうだった。」


…え?お父さん…本当に、私の事心配してくれたの?

あの、お父さんが?


リュウキの反応に驚きが大き過ぎて、それに熱がまだ下がらないのか頭もぼんやりしてるから…これは夢なんだろうかとも思ってしまう。

同時に、あのリュウキがこんな姿を見せてくるという事は…と、ショウはチィと何かの勘違いで自分を殺そうとしたゴウランの父親でもあり将官のあのおじさんのやり取りを思い出していた。

…あ…確か、この病気でチィの家族は死んだんだっけ。

って、事は…私、死んじゃうの?

だから、お父さんもこんなに心配してくれてるの?


…ドクン…ドクン…!


そう思ったら、ショウは急に恐怖と不安が同時に襲ってきて思わず


「…私…病気で死んじゃうの?」


と、小さな声を漏らし涙を流した。

それを見て、リュウキは驚いた表情を見せ


「…どうした?具合が悪くて不安になってしまったか?」


そう不安気に声を掛けショウの頭を優しく撫でてくれた。


「大丈夫だ。お前は、食中毒になったらしい。まだ、症状が出始めたばかりだったからすぐに治ると聞いた。だから、死ぬ事も後遺症が出る事もない。安心しろ。」


「…そっか…」


リュウキの言葉を聞いてショウはホッとした。そういえば、あの時少しづつお腹が痛くなってきてたのはそのせいだったんだ。
まだ、そこまで気になるほどの痛みではなかったけど。

そう思ったショウだったが、ふとある事を思い出した。


「…あ…、旅は?旅はどうなるの?
私が退院してから、ヨウコウさん達と
どこかで合流するの?」


なんて、何気無しにリュウキに聞いた時だった。

その質問をした時、リュウキの顔は今にも
泣き出してしまいそうな表情になりショウの手を包んでいた手が震え始め


「…いいんだ。もう、それはいい。
お前が無知で何もできないのを知りつつ、外に出した俺が悪かった。まさか、こんな事態になるとは予測できなかった。
…浅はかだった。…俺の判断ミスだった…。…すまなかった…すまなかった…。」


ショウの手に額をくっ付け、何度も何度も謝っていた。


「…え?でも、大丈夫なの?
旅が終わったら、お城からご褒美が出るんでしょ?ご褒美が出るから私を旅に出したんだよね?」


なんて、ショウが聞くとリュウキは思わず伏せていた顔をあげ酷く傷ついた顔をしていた。しかも、目からは大量の涙まで流していて


「…お父さん?どうしたの??
どこか、痛いの?お医者さん呼ぶ?」


ショウはリュウキを心配し声を掛けた。
すると


「…お前は…」


リュウキは、何かを聞きかけ、だが、それ以上は言葉に出さなかった。

そこに


「…サクラは?サクラはまだ来ないの?」


当然、サクラが来ると思い当たり前のように聞いてきたショウに、リュウキは更に傷ついた表情を見せ苦虫を噛み潰したような顔に変わった。

早く来ないかな?まだかな?今かな?
今かな?と、嬉しそうにソワソワしている
ショウに


「……ない……」


「…え?どうしたの?お父さん。」


「アイツは、来ない。」


リュウキは、さっきまでと雰囲気がガラリと変わり感情のない冷たい表情と声になっていた。いつもショウが見ている、いつも通りのリュウキの姿である。

ショウは、リュウキの言葉をイマイチ理解できずキョトンとリュウキの顔を見る。


「お前が旅に出る前に言っただろう?

お前がサクラの将来と幸せを潰してると。」


その言葉を聞いてショウはハッとした。

そうだ。その話を聞いて、ショックで衝動的に家を飛び出したんだっけ。

…じゃあ、ずっとずっともうサクラに会えないんだろうか?


「サクラはこれから、お前のような邪魔者から解放されて自分の将来の為に勉強や修行に打ち込めるだろう。

そして、お前のような醜く傲慢でワガママな存在から自由を得られ、今までなかった自分の自由時間ができお前のせいでできなかった遊びも恋愛もできる事だろう。」


矢継ぎ早に、リュウキは話を続けその内容の一部にショウはピクリと反応した。


…恋愛?

サクラが?


ショウにとってその言葉が不思議でならなかった。

だって、物心つく前からサクラは自分と一緒にいたし、サクラが側にいる事が当たり前なショウだ。

だから、どうしてだかサクラと恋愛、結婚が全然結び付かずそんな事など考えた事なんてなかった。

ただ、漠然と今もこれからも離れず側にいるものだと思っていた。変わらない関係だと思っていた。


…恋愛したら、サクラはどうなるのだろう?

恋人ができたら、サクラにとってその人は
サクラの特別になって…あれ?

じゃあ、私は…?

サクラにとって私って…どんな存在なの?


…ドクン…


ショウは、今まで感じた事のない言われようもない不安と孤独、寂しさが一度に襲ってきてもの凄く怖くなった。

怖くて怖くて、震えながらリュウキを見ると


「…ショウはサクラが大事か?」


リュウキがそう質問してきたのでショウは
コクリとうなづいた。


「サクラに幸せになってほしくないか?」


「…幸せに、なってほしい…」


当たり前だ。大好きなサクラに幸せになってほしいのは。どうして、そんな事を聞くのかと不安気にリュウキを見るショウ。


「…なら、サクラを思う気持ちがあるなら手放してやれ。もう、いい加減サクラから卒業しろ。

お前が今の言葉を理解できないなら何度でも言おう。

お前は、サクラにとっての厄介者。

サクラはお前なんて何とも思ってない。
誰が、好き好んでお前みたいなブサイクでデブで何の取り柄もない……」


そこまで言ったところで、ショウはボロボロ涙を流し


「…うん…。私がサクラの邪魔してたんだよね?サクラは、生きていく為にお仕事で私と一緒にいたんだもんね。
いっぱいいっぱい、我慢してたんだよね。
…もう、会わない。サクラが幸せになるんだったらそれでいい。」


そう言って、布団の中に顔を隠し泣いていた。


「…………。」


リュウキはしばらくの間、深く項垂れながらショウの側にいたが

ショウが眠りについたのを確認すると

ショウの頭を撫で


「…すまない…」


そう言ってショウのおデコに軽くキスを落とすと、気持ちを落ち着かせようとタバコを吸いに病室を出た。

病室を出ると


「…どうして、しょんなにショウしゃまと
サクラしゃまを引き離そうとなさりましゅか。そんな事をしても…」


と、お婆がゆっくりリュウキに近づき話しかけてきた。

おそらく、親子の時間を邪魔しないよう
リュウキが出てくるまで、ショウの病室前の長椅子に座って待っていたのだろう。
証拠に長椅子には、お婆が用意したと思われるお見舞いが転がっている。

そのお婆の言葉に、リュウキは苛立ちを隠せず


「…サクラ、サクラうるせー。
…クソッ!」


近くにあった自販機を殴り付け破壊し、どこかへいなくなってしまった。


「…旦那しゃま…」


お婆は心配そうに、リュウキの後ろ姿が消えるまで眺めていた。


お婆は知っているもの。


リュウキの仕事は忙しくなかなか家に帰っては来れない事。

そんな多忙の中、少しでも休みがあれば
どんなに疲れていても離れた場所にいても
必ず、ショウのいる家に帰ってきていた事を。

けど、会話したくても、抱きしめたくても、側にいたくても

いつもいつも、サクラがべったりくっ付いていて。しかも、ショウもサクラにべったりで。

少しの間しか一緒にいられない
リュウキは二人の間に入る事ができず

まして、それをサクラは許してくれなかった。

せめて、ショウの寝姿だけでもと部屋に近づくだけで、警戒したようにサクラが部屋の前にいて門前払いしてくる。

そのうち、リュウキとショウの間に徐々に亀裂が広がっていき

リュウキが帰ってくる度、ショウは他人行儀になっていった。

それも仕方ない。

会えない時間が多いせいか、なかなか懐いてくれないショウに対し
日頃の親子の関係がうまくいかない苛立ちと焦りに…つい、“ブス”だの“デブ”だの悪態をつき酷い態度をとってしまう。

そのせいで、懐くどころか距離を置かれる
一方なのは自分でも分かっている。
毎回、それに凹み反省し次こそはと意気込むのだが…。

そして、ショウの為に用意したお土産も毎回渡す事ができずゴミ箱行きである。


そんなリュウキとは正反対に、サクラは
日を増すごとに絆が強くなっていき仲が良くなっていく。

まるで、仲睦まじい家族のようだ。
夫婦、兄妹、親子…そのどの役もサクラが位置づけている。
それに加え、世話役、護衛…恋人…

まるで、リュウキなんて必要がないかのように、サクラさえいれば他の誰もいらないかのような。


…おそらくだが、サクラはそれを望んでいる。


何故、そこまでしてショウを自分に依存させようとしているのかは分からないが。


とにかく、リュウキは親子の修復改善がしたいのだ。

父親としてショウに甘えてほしい。
頼ってほしい。もっと、感情をぶつけてほしい。

…家族として認めてほしい。

何より、自分の子供としてずっと側にいてほしい。

実は、魔法や武器術だけでなく
呼吸術を極め、波動も使えるリュウキは商工王国では非常に珍しく

老いるスピードが周りの人達よりも大分遅い。おそらく、寿命の長さも全然違うのだろう。

なので、実年齢は35才であるが

見た目や肉体年齢は20才前後で止まっている。

だから、おそらく
ショウはどんどん老けていき80才のおばあちゃんになったとしてもリュウキの見た目や肉体年齢は大して変わらないだろう。

それでも、自分が若いままで
ショウがシワシワのヨボヨボなおばあちゃんになっても自分にとっては可愛い子供。

最後、息を引き取るまで自分はショウを見守り続けその時が来たら…とまで大切に思っているのに。

どうしても、うまくいかない。

自分の気持ちが伝わらない。


サクラという邪魔な存在がショウの側にいる限り。


あの時、サクラにショウを預けなければ!
そう何度、後悔した事か。

だが、それでも今まで世話をさせていたのは、サクラほどショウを大切に思い行動してくれる人物は他にいないからだ。

自分が職務でショウの側に居られない間、任せるには優秀過ぎるほど優秀だったから。


しかし、もう我慢の限界だ。


おそらく、リュウキはそう思ったに違いない。

現に、そういった悩みを何度か呟いていたのを聞いている。


だから、今回こんなバカな行動をしているのだろう。


お婆はそう感じ取っている。




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