イケメン従者とおぶた姫。

やっぱりな、と、ショウは思った。


前の旅と同じく、ヨウコウ達はショウの事を疎ましそうに見て一緒に宿に泊まるも

ヨウコウ達は、旅の予算を考え四人一部屋の部屋に泊まり、ショウは素泊まりで雑魚寝する格安の部屋に泊まらされた。
床に直接寝て、風邪をひかれたら困ると掛けタオルと枕だけはお情けでレンタルで借りてもらった。


食べるものも、ヨウコウ達は予算の関係で質素ながらも栄養バランスの取れた食事をとっていた。

ショウのようなブタには、これで十分だと
一日にパン一つを渡された。

目的の場所にたどり着く間、やはりショウは
ヨウコウ達について行けず。少し休んでは歩き、また少し歩いては休みの繰り返しで
ヨウコウ達をイラつかせていた。

だが、前回の事があるので、ヨウコウ達は
ショウを置いて行く事もできず、前にも増してショウにイライラしていた。


しかし、運がいいと思った。


何故なら、前回ショウが居ない間
旅をした時、とんでもない悪天候と魔物達に見舞われ散々だった。命がいくつあっても足りないと思ったくらいに。

しかし、今はどうだろう。

天候の崩れが、前回に比べだいぶマシだし
魔物の遭遇なんて、ほとんどないどころか
出会った魔物はいささか大人しいように感じた。


前回のように、酷い状態であったらショウを
守るなんてできない。
自分の身を守るだけで精一杯だったのだから。ミミは、ミオが守り何とかその場を凌ぎ
助かっていたが。

ショウとミミ両方を守りながらは…とても無理がある。

もしもの時は、どうすれば…それが今考えなければならない課題だ。


なので、抱えるストレスは半端なものではなく、ヨウコウとゴウランは役立たずのショウをこれでもかというほど悪く言っては泣かせ
当たりが強くなっていた。

それを見て、ミミも一緒になって悪く言い笑っている。

そんな毎日が一週間ほど続いてきた。

ミオは、そんな一行を何とも言えない気持ちで見ていた。

確かに、ヨウコウ達の気持ちは分からなくはない。だけど、ショウは王族や軍人などではない一般人なのだ。しかも、一般人の中でも
とても非力で弱い存在。

それを励まし守りきってこその我々なのではないか?このありようは、まるで未来の自分達と市民を見ているようだと感じた。

これでは、ヨウコウとゴウランの器がしれる。この人達に国を任せられない、自分はこの人達を命掛けで守りたくない。
命掛けで守るなら…国を任せられる、この人について行きたいと思う人物に仕えたい。
ミオは心からそう思った。

少なくとも、ヨウコウはそれに値しないと思った。だが、今はヨウコウの護衛を任されている。下手にヨウコウの機嫌を下げられないし逆らえない身。

こんなチームにつかされて可哀想だとショウを哀れみ、それに手助けできない自分を悔しく思った。…一人泣いているショウに、
心の中で“ごめんなさい”と、謝るしかできない自分が情けない。


一週間も経つと、服も洗濯してもらえない
素泊まりでシャワーすら浴びる事もできないショウは薄汚れていき、とても臭くなっていた。

あまりの臭さに、我慢できなくなった
ヨウコウは、ミミに適当な川でショウを洗ってやれと命令していた。

ミミは嫌そうな顔をしながらも、王子の命令なので仕方なく浅い川にショウを連れて行き

「臭すぎっ!もう、私に迷惑かけないでよ!
ブタ!最悪っ!」

など罵声を浴びせながら、八つ当たりするように乱暴にショウを洗い
川でショウの服も洗い、歩いてる内に乾くからと濡れたままの服を着せ歩かせた。

ご飯を与えるにしても、デブスに近づきたくないとミミは地面に一つのパンを放り投げ

ショウは泣きながらそれを拾い、チビチビと食べていた。

だって、そのパン一つが今日一日のショウのご飯だから、一度に食べられないのだ。


それを見て、ヨウコウとゴウランは


「パン一つもらえるだけ、ありがたく思え。」


と、ショウを鼻で笑っていた。

…酷い扱いである。



「……え?なんなの…あれは。」



たまたま、それを見かけたコウ姫一行。

出発の場所も時間も同じな為、ヨウコウ達と行く方向を変えてみたのだが…会ってしまった。

会ってもおかしくないのだが、旅立って
一週間で見かけてしまった。

しかも、なんか酷い感じのものを見てしまった。

それを見て、セクシー美女のサラはあまりの光景に思わず声に出してしまっていた。


パン一つをメイドが地面に放り投げ、それを一般人の子供が拾い泣きながら食べている。
しかも、その子供は全身びしょ濡れであった。


「…マジ、どうなってるんだ?
何があったんだ?…え!?もしかしなくても、あのデブのお嬢ちゃん…めっちゃ、いじめられてね?」


タイガも、驚きそれを指差す。


「あれが、未来の我が国と思えば
あの光景は、どう思う?」


コウ姫が、二人に問いかけると
二人は、とても苦い顔をし


「…許せないわ。うまくいかないからって
あんなひ弱な子供に八つ当たりするなんて。」


「…ああ。アイツらは、あのお嬢ちゃんが
一般人の中でも底辺の出来損ないって知ってて自分から選んだんだよな。
…それで、あの扱い…。それでなくても、
あんな酷いイジメ…あり得ねーわ。」


と、怒りをあらわにしていた。
しかし、タイガのこのあけすけな言葉…
悪気はないんだろうけど、もう少し言葉選んであげなよ…と、サラは思った。


「ヨウコウ殿が試験失格になった理由はそこにもある。それに、前の旅でもショウに対する扱いが酷かったと聞く。
前の旅では、ショウのあまりの体力の無さに
疲れ動けないショウを放置して自分達だけ先に進んで行ったと話を聞いた。」



コウ姫が、そんな話をすると


「…あ、ありえないわ…。
何の力もない子供を一人放置して、自分達だけで先に行くなんて…なんて、恐ろしい事を…」


「だな。いつ、どんな危険に見舞われるか分かんねーってのに…なんつー人でなしだよ。
アイツら、ヤバすぎだわ。頭ラリってんのかって思っちまうわ。」



とんでもないクズヤローを見るかのように、ヨウコウ一行の後ろ姿を見ていた。
そんな二人に



「その話を聞いて、私はこの試験に参加した。上に立つ者を見極める為。また、被害者の命を守る為に。」


と、コウ姫は言った。その言葉に、タイガとサラはコクリと頷いた。


「これは、ショウに限った事ではない。
もし、ショウの事が解決できたなら、次の
被害者の元へ行く。
まずは、今現在被害が大きいショウを何とかしたいと思う。

本当ならば、私にショウを預けてもらった方が良かったのだが。うまくいかなく、ショウには申し訳なく思っている。」



そこで、タイガとサラはなるほどと思った。

だから、一週間前の顔合わせの時
コウ姫は、ショウと旅をするのを望んでいたのか。

そして、ヨウコウ達が行った場所を把握し
ヨウコウ達からあまり離れない場所を選んで進んでいたのかと感服していた。
おそらく、今、ヨウコウ達の姿が見える場所まで来たのも計算あっての事だろうと思った。


「さて、今日はたまたま偶然に鉢合わせた
ヨウコウ殿一行と同じ宿に泊まるとしようか?」


コウ姫は、含みのある笑みを浮かべ
タイガとサラを見た。



さて、ヨウコウ一行は
ショウのせいで予定を大幅に遅れたが、何とか夜のうちに町へと辿り着き宿に入った。



「…最悪すぎるぜ!ブタのせいで、だいぶ
時間食っちまった。」


「一緒にいるだけで反吐が出そうだ。
今日もいつものところへ行け。朝、出発するまで余達に近づくなよ?」


「キモいから、コッチみないでよ!
デブス!」


「…………………。」



ヨウコウ達は、いつものように部屋に入って行った。今回の宿は二人部屋しかないらしく、ヨウコウとゴウラン、ミオとミミで部屋を分けたようだった。

ショウはいつものように、素泊まりで枕と毛布を借りにフロントへ行くと
なんと、今回の宿はサービスが良くて
薄っぺらく色あせていたが敷布団まで無料で貸してくれたのだ。なんという、ラッキー!


「やったー!敷布団っていうんだ、コレ。
敷布団も借りれるなんて嬉しい!」


ショウは、今日は直接床に寝なくていいと喜んでいた。なんだか、今日はいい事ありそうとルンルン気分で素泊まり部屋へ入った。

すると、またもラッキー!

この宿は、他の宿に比べ少々値段が高めだったので素泊まり部屋には2、3人程度しか泊まり客は居なかった。

ショウは、さっそく布団を敷き
疲れた体を休める為、眠りについた。



その頃、ヨウコウ達は

夕飯を食べる為、食堂へ向かっていた。

食堂へ入ると



「…あれ?ヨウコウ様達じゃん!
めっちゃ、偶然じゃん!」


と、いつぞやの黒い肌に赤髪の男タイガが、カツ丼と牛丼の大盛りを食べながらヨウコウ達を指差した。

男のすぐ隣には、あのセクシー美女サラが
白身魚のソテーセットを食べていて

サラの向かいで、コウ姫がビーフシチューを頬張っていた。


ヨウコウ達に気づいた、コウ一行はヨウコウ達を見て


「ヨウコウ殿。久しぶりだ。」


と、挨拶しヨウコウ達も挨拶を返した。
まさかの偶然に、ヨウコウ達は驚きつつも


「では、我々も食事をしたいので失礼する。」


用意された自分達の席に座ろうとした。
すると


「…あら?四人だけ?
もう一人、いなかった?」


と、セクシー美女サラが、ヨウコウ達の人数に疑問をもち話しかけてきた。

ヨウコウ一行は、それにギクリと体を硬直させたが


「もう一人なら、疲れたから先に寝ると部屋で休んでいる。」


ゴウランがナイスフォローした。だが


「…えぇ〜?おかしくね?」


赤髪のタイガが、ヨウコウ達を見て不思議そうに首を傾げ


「確か、この宿さ。食事は予約制で時間指定もあるし席も用意されるはず。
なのに、あんたらの席さ。四人分しか用意されてなくね?」


なんて、指摘してきた。

それには、ヨウコウ達もバツが悪そうにしていたが


「それは、我々仲間の問題であり、あなた方には関係のない事。あまり、こちらの事情に首を挟まないでいただきたい。」


ヨウコウは、ピシャリとそう言い切り
食事をはじめていた。

それに、サラはイラッとし何か言ってやりたいと口を開こうとしたが、目の前のコウ姫に
目で“やめなさい”と、無言で止められた。

タイガを見ると、額に青筋を浮かべながら
必死に耐えていた。


ヨウコウ一行をチラリと見ると、ヨウコウ達と違い一人浮かない顔をし食事もあまり喉を通っていない様子のミオの姿が見えた。
しかし、ミオは根っからの武人なのだろう。
無理矢理に食べ物を口に入れ流し込んでいた。


一方、ショウはというと

空腹で眠れずいた。疲れのあまり眠くてウトウト自然と眠ってしまっても、あまりの空腹に目が覚めてしまう。

空腹を誤魔化そうと、無理に目を瞑るんだけど…


その時、不思議な感覚がした。


……え?

なに、なにっ!?

なんか、ただならぬ気配がするんですけど!


さっき、顔のところを風のようなものが何度か擦り抜けて…だんだん、その感覚が強くなってきてる気がする。

…気のせい…だよね?


だが、

……あれ……?

うっすらとしか感覚ないけど、やっぱり触れられてる感覚するぅ〜!


なに、これ!??

もの凄く、怖いんだけど!!?


ショウは怖くて、寝たふりしておこうと思ったが

ソレを確かめたくて、何かにバレないよう
薄目を開けチラリとその正体を確かめた。


すると、やっぱり


何故か自分に抱きついている物体が!!!?



「……ヒャァァァッッ!!!???」


あまりに驚いたショウは、声にならない声で悲鳴をあげ跳び起きた。


すると、その物体はすぐにショウの口を塞ぎ


「…申し訳ありません。周りの者に気付かれたくないので。」


と、ショウの腰を抱きショウの耳元でそう囁いだ。


…ドッキン、ドッキン!


突然の事に、ショウの悲鳴は「ヒャー!ヒャー!」と、止まらず
心臓も驚き過ぎてバクバクが止まらずいた。

しかし


「大丈夫ですよ。落ち着いて下さい。
大丈夫、大丈夫。」


と、優しく耳元で囁かれ

背中を撫でてくれる物体に覚えがあった。



…あ、あれ?


この声に喋り方…この感覚…



「…さ、サクラ?」


まさかと思いつつ、顔を上げると
そこには、会いたくてたまらなかった人物
サクラの姿があった。


…ドキン!


何がなんだかよく分からないが、サクラに会えてあまりに嬉しくなったショウの胸は飛び跳ね、今まで沈んでた気持ちも体の疲れもどっかに吹き飛んでしまった。


嬉しいっ!嬉しいぃぃ〜〜〜っっ!!


だが、久しぶりに会ったせいか
…おや…なんだか違和感があるぞ?


「…どうして、サクラがここにいるの?」


そうだ。そうなのだ。
だって、サクラはここにいるはずはない。

しかも、いきなり現れたのだ。

…あれれ?そういえば…



「あ、あれ!?か、か、髪、どうしちゃったの?」



なんか、すごい違和感あるって思ったら…

エェェーーーッッ!!?

サクラのキラキラサラサラの長くて綺麗な
髪がなくなってる!!?

ボーズ頭になってる!!


ショウは驚き、思わず両手でサクラの頭を挟み見た。

そんな様子のショウに、サクラは



「…このような頭では、お気に召しませんか?」


と、シュンと肩を落としていた。
なので、ショウは


「そうじゃない!そうじゃなくって、今までサクラのボーズ姿なんて見た事なかったからビックリしちゃっただけだし、ボーズ姿もよく似合ってるよ。
…でも、私はサクラは髪が長い方が好きだけど。」


慌てて、サクラにそう説明すると
サクラは驚いたような顔をし、それから嬉しそうにはに噛んでいた。

それから、あと…違和感は…

…あ!ああっ!!?


「…なんで、裸なの?」


そう、サクラは今、裸なのだ。

今まで、一緒にお風呂に入ったりしていて
サクラの裸は日常的に見慣れたものだったので大した気にならなかったが。

だけど、今はお風呂でもなければ着替えをするでもない。

なのに、服を着てないなんておかしいのだ。


ショウが、その疑問をサクラに投げかけると
サクラも何か異変に気づいたのか自分の体を確かめると


「…す、すみません!お見苦しい姿を見せてしまいました!!」


と、自分が裸な事に今気づいたのだろう。慌てて、近くに転がっている毛布を取ろうとしていた。だが…


…スカッ…!


「……っ!?」

「…???」


サクラが掴もうとした毛布を、サクラの手がすり抜けて掴めない。

何度、掴もうとしても同じだった。


「…も、申し訳ありません。…実は、今、私はおかしな現象が起きていまして…」


毛布を掴む事を諦めたサクラは、そんな事を言いはじめてきた。

おかしな現象?と、ショウが首を傾げていると



「…はい。今、私は屋敷に居た筈なのですが、とても嫌な事があり気がついたらここに居たのです。
どうやって、ここに来れたのかも分からないのです。ただ、気がついたら…。」


…え?

サクラ、とっても嫌な事があったの?
かわいそうだな。

…助けてあげたいな。



「それに、集中しないと物に触れられない様なのです。ショウ様に触れられるのも集中しているからで、少しでも集中がブレるだけで触れられなくなってしまうのです。」


エェェーーーッッ!!?

なに、それ!?

一体、サクラに何が起きてるの?
それって、大丈夫なの?



「それに、今、私達の姿や声が周りに見えないよう聞こえないようバリアーも張っているので…こちらに完全には集中しきれず
ショウ様に触れる事さえ不完全な状態なのです。」



…んんぅっ???

バリアーって、何?

まあ、とにかくサクラが何かの魔法で
私達の姿を隠してるって事?

サクラって、そんな事できちゃうの?

…いやいや!その前に、集中しないと触れられないとか…

ああ、だから

サクラに触れても中途半端な感触しかしないんだ!

なるほど、なるほど。


…でも、何にしても有り得ない現象だよね?

これって、もしかして

もしかしなくても……



「…仕方ないよね。だって、これは夢なんだから。」


そう、ショウが呟くと

サクラは一瞬だけ驚いた表情をし


「…そうか…なるほど。
確かに…そうか、夢か…。」


と、少し考えるそぶりを見せ納得していた。

だけど、夢にしたって…


「…サクラ、大丈夫?」


目の前にいるサクラは、ガリガリに痩せ細り
可哀想なくらいにアバラと骨盤がくっきり
ハッキリ浮かび上がっている。
肌もカサカサで唇なんてひび割れている。目の隈も酷く目が少しくぼんで顔も青白い。

心配のあまり、ショウはサクラの頬を両手で包みサクラの顔を心配そうに見た。

すると


「…私なんか、どうでもいいのです。
私は、ショウ様が心配です!なぜ…なぜ、こんなに痩せ細っているのですか?
こんなに汚れて……こんな汚い場所に……」


と、サクラはポロリ…ポロリと涙を流し
壊れ物を包み込むかのようにソッとショウを抱き締めてきた。

抱き締めてきたサクラの体が小刻みに震えている。


けど、ショウは思った。

…痩せ細ってはないよ…サクラ。
確かに、少しばかり痩せたって実感はあるけど…ズボンにほんの少し余裕ができるくらいしか痩せてない。

大袈裟すぎる…と。


「…例え、夢の中であろうとショウ様の
この様な姿は見たくなかった。」


泣いて震える声で、そんな事を言ってくる
サクラの腰にショウは腕を回し


「…私もだよ?私は、サクラに幸せになってほしいから。
だって、サクラは世界で一番大好きだし。
私にとって、大事な存在だから。」


そう、声を掛けた。すると、サクラはギュウっとショウを強く抱き締めてきて


「…ショウ様…こんな恐れ多い事、夢の中でしか言えない…ショウ様、私は……」


緊張したように、声を震わせ言葉を発していた。



…あれ?

なんだろう?この何とも言えない不思議な気持ち…


…え?え?


何で、こんなにドキドキしちゃってるの?

私、どうしちゃったの??

…誰か、教えて!?

なに、これ?



ドックン、ドックン…!



ひぇぇぇ〜〜〜っっっ!?


心臓が…心臓が、飛び出そう…!!?




ドックン、ドックン…!!


< 21 / 119 >

この作品をシェア

pagetop