イケメン従者とおぶた姫。
フウライの態度に嫌悪を感じつつ、ミオは


「…あなたは私達の実力を見に来たと言ってましたが、それは私達チームのみ視察しに来たのですか?」


フウライに“様”を付けるのが癪であえて“あなた”と言った。


「んな訳ねーだろ。お前らだけが“問題児”だと思うなよ?期待されてるチームから落ちこぼれチームまで旅に出たチームぜ〜んぶ対面してさ。12チーム全部だぜ?
かったるすぎんだろぉ〜。マジでぇ〜。」


それを聞いて、三人は…え?なんて…?なんて言った?コイツ…と、フウライの言葉に理解が追いつかなかった。


「…に、12チーム?6チームじゃなくて?」


思わず、ミオがポロリと声を漏らすと


「6チーム?なんだ?それ。知らねーなぁ。
俺が知ってんのは、王位継承権、地位、目指して王族の血を引く奴らを筆頭としたチームが旅に出たって聞いたぜ?
最初は50チームくらいいたけど、大怪我、精神的ダメージやらでリタイア者も多くてさ。今現在、残ってんのが12チーム。」


最初、自分達が聞かされていた内容と話が違う。そこで思い出すのは、ベス帝王の話。
確か、ベス帝王もそんな感じの事を言っていた気がする。その時、ヨウコウがもっともらしい事を言ってベス帝王の話を否定していたが。

ああ、ベス帝王は自分達に色々と忠告し注意もしていてくれたのかもしれない。それを自分達は、まともに聞く事もせず適当に話を聞き流していた。

旅に関して様々なヒントや忠告をもらっていたのかもしれないが、まともに覚えてもいない。

もっと、真剣に話を聞いていれば。
そう思っても遅いのは分かっているが少しだけ後悔した。


それに、自分達は少し浮かれた気持ちになっていた。副騎士団長がわざわざ自分達チームの様子を見に来たという事は、そのくらい自分達は期待されてるという事だと。

しかし、コイツは言った。

『お前らだけが問題児だと思うな』と。

…問題児…

つまりは、そういう事なのだろう。
もの凄くショックな話である。


「…あなたから見て、優秀なチームや人材はいましたか?」


優等生で品行方正な筈の自分達を問題児発言したコイツ。そもそも頭がイカれてるコイツが認めるチーム、人材なんているのだろうか?


「それ聞いてどーすんの?まあ、いいけど。
俺から見て優秀だと思ったチームは今のところ、3チーム。気になる人材は、7人。」


フウライは、考える素振りを見せながら指で数え答えた。

コイツが認めるとか、きっとどこかのネジがぶっ飛んだ奴らだろうとゴウランとミオは思い


「…優秀者達の名前を聞いても?」


そう聞くと


「…ったく、どいつもコイツもそんなんばっか。面倒くせ〜。」


なんてブツクサ文句は言ってたもののベッドにゴロリと寝転ぶと素直に答えてくれた。


「チームは、大樹(タイジュ)、月(ルナ)、ダイヤ。」


ゴウランとミオは、その名前を聞いて納得してしまった。他チームは分からないが、ダイヤ達なら知っている。
彼らのチームは、結束力が強く向上心、相互補完の関係が成り立っている。
あまりにフレンドリー過ぎて上下関係の境が無いのはどうかと思うが。

彼らをいいチームと言うあたり、この男…少しはまともな判断ができるのかもしれない。

…たまたまかもしれないが…


「気になる人材は、
蒼(ソウ)、レオン、ルーク、ピピ、ペケペケ、ダイヤ、ハルク。」


…ドキ!!?


三人は、驚いた。チームだけでなく個人的にも注目されているダイヤに。しかも、一般人のハルクまで名前が出ている。ハルク、もの凄く弱そうに見えるが…。

しかし、あんなに強いと噂のコウ姫の名前が上がってこないし。
蒼(ソウ)といえば、グータラで寝てばっかりの落ちこぼれと噂のダメダメ王子だ。

やはり、この男の目は節穴だなとゴウランとミオは思った。

そんなゴウラン達の様子をシラ〜っと見ながらフウライは


「…お前ら運いいよな。」


と、末梢的に呟いた。
何の事かとゴウラン達は、休日の親父のごとくゴロリと緩んでるフウライに内心苛つきながら首を傾げていた。


「どういう訳か、お前らのとこに“アイツら”いるし。今のコードネーム、オブシディアンとシルバーだっけ?
アイツらの強さも異常だぜ?マジで別次元。
アイツらが一緒に居たお陰で、お前ら旅続けられてるんだぜ?分かってる?

で、なきゃ、お前らみたいに弱っちい奴らとっくにオジャン。」


と、フウライは自分の首に親指を立て横にスライドさせた。

それを聞き、ゴウラン達はゾッとした。


「…つーか、え?マジで、なんで?
なんで、お前らのとこに、アイツらついてるの?意味不過ぎるんだけど。
アイツらが了承してお前らと旅してんのも謎すぎるし。」


コードネーム?と、いう事はオブシディアンとシルバーは素性を隠して特別な何かを遂行しているという事になる。

彼らの強さはあまりに規格外だと思っていたが…。なるほど、納得だ。

それにしても、そんな極秘情報を簡単に喋ってるコイツはただの馬鹿だ。本当に何をやってるんだと思う。騎士団の…いや国の厄介者そのものではないか。このおしゃべりヤロー。

そんなお飾り副団長に、自分達がこんなにボロクソ言われる筋合いはない。

…が、どうやらフウライは特殊な能力の持ち主らしく自分達の目では見えない何かで攻撃をする。

その正体さえ分かれば、こんな奴になんかに絶対負けないのに!と、ゴウランとミオは思っている。


そんな考えを見透かすかのように、フウライは呆れ笑いで口を引くつかせ


「…マジ、ムカつく。ズッタズタに痛ぶって、ブッ殺してやりてぇ〜。でもなぁ〜。ここで暴れたら、後であのクソゴリラにどつかれるし。」


なんて、物騒な事を口に出していた。


「えぇ〜?コードネームとか言っちゃってぇ、大丈夫なぁ〜んですかぁ?」


怖いもの知らずのミミは、ズケズケと自分の気になった事を聞いていた。だって、質問したらフウライは何でも教えてくれたから。


「流石にマジモンだったら、ンな事口にする訳ねー。アイツら、下らねー事でコードネーム使って動いてるから。
マジ、勿体なさ過ぎて俺が泣けてくる。宝の持ち腐れってヤツ?」


「あとぉ〜、オブシディアンさんやシルバーさん達に詳しいみたいですけどぉ。どーしてでぇすかぁ?」


「シルバーとは同じ学校、同じクラス。
オブシディアンは…俺らの間じゃ、天才って騒がれてた有名人だ。」


驚いた。シルバーは、自分達と同い年。
しかも、フウライとシルバーも学生。

だが、フウライのこの美貌とシルバーの異次元級の強さならば他校であろうと噂の的になっていてもおかしくない。

何故、噂にすらなっていないのか。

美貌といえば
ある有名高校に“サクラ”というあまりにも美し過ぎる男子生徒がいると噂がある。
フウライが“サクラ”という偽名を使い高校生活を送っている可能性が高い。

では、シルバーは?
もしかしたら、何らかの理由で学校で実力を伏せているだけかもしれない。


しかし、気になるのが



「…何故、ダイヤ王子が気になるのですか?
私達は旅に出る前にダイヤ王子は、王位継承実力三位と聞いていました。ヨウコウ様は一位です!あからさまに、ヨウコウ王子の方が実力が上でした。
私達はトップクラスの集まりだと。
優秀なチームだと送り出されました。
なのに、何故こんなに罵倒されなくてはならないのですか?
私達が一番優秀だからこそ、ヨウコウ様が特別な存在だからこそ特別にメイドがつけられたんじゃないんですか?」


もう我慢ならないとばかりに、ミオは自分の思ってる事をフウライにぶつけた。

すると、フウライは体を起こし再度ゴウラン達に向かい合うように座り直した。


「特別、特別ウッセー、ウゼー。
勘違いも甚だしいし。
王位継承実力一位なんて、旅って聞いて怖気付いて逃げ出さない為のデタラメに決まってんだろ。家族もそのデタラメ聞きゃ、自信持って激甘っタレのクソボンボン達を送り出せるしな。

それに、護衛や一般で集められた奴らはみんな何らかの才能で選ばれた選りすぐり優秀者達ばかりだ。お前らだけが特別な訳じゃない。

普通、旅にメイドなんてつけねー。

何で、お前らだけにメイドが二人も付いてるのかは……お前らも薄々感じてんじゃねーの?
そういう事だよ。」


と、教えてくれたが
ゴウランとミオは崖から突き落とされた気持ちだった。

確かに、王子や姫に付いて旅をするという事は、皆それに相応しい実力や才能を持った者が選ばれるに決まっている。

何故、自分達だけが特別だと思い込んでしまっていたのだろう。


それに“そういう事”って何なんだ?分からない…


「お前ら、ダイヤ達に会った事あるよな?
どーだった?特別なヨウコウオージは、ダイヤより強かったか?特別なお前らは?」


馬鹿にする様に、ククッと悪い笑みを浮かべるフウライに怒りが湧いてくるも、それよりも今は羞恥の方が大きい。

ダイヤ達に会って思った事。
…強い!自分達より圧倒的に強かった。
どうして、自分達より劣るはずのダイヤ王子達がこんなにも強いのか不思議だったのを覚えている。


「ダイヤに関しちゃ、お前らの言ってた事もあながち間違いじゃない。
旅だった当初、ダイヤのステータスは後ろから数えた方が早いくらい低かったからな。
…けど、あいつは…

…………。」


『あいつは…』続きは?どうしたというのか?
どうして、いきなり黙ったんだ?コイツと、ゴウラン達が、フウライをジッと見ていると


「……飽きた……
喋り過ぎて、口疲れた。」


そう言って、欠伸をしながらフウライはゴロンとベッドに横になると一瞬でスヤァ〜と寝てしまった。

これからじゃないのか!?
大事な事を話そうとしてたよな!?
自由過ぎるにもほどがあるだろ!!?
と、イラッとしながら寝てるフウライの顔を見た。フウライが寝てるという事もあり、おかげでさほど緊張せずその顔をしっかり拝む事ができた。


…ドキリ…


しかし…ムカつくが、このイカれヤロー
見れば見るほど美しい…

こんなに美しい人がこの世に存在するとはと驚きしかない。

フウライが美し過ぎて目が離せなくゴクリと生唾を飲むゴウランとミミ。ミオは彼のあまりの美貌に直視できず気持ちを落ち着かせる為部屋の外に出た。
それを追って、ゴウランも出て行ったので

部屋には、ミミ、秒で寝てしまったフウライと気絶中のヨウコウしかいない。


「…フウライ様の奥さんってぇ、何系美人さんですかぁ?」


ミミは、うっとりフウライの顔を眺めながら、答えるはずもない質問をする。


「いつ知り合って結婚までしちゃったんですかぁ?まだ、17才なのにぃ、一人に縛れれるなんて可哀想ぉ。」


そう言いながら、ゆっくりとフウライに近づき
ベッドの中に潜り込もうとした時。


パーーーーンッ!


「…ギャンッ!!」


ギッシンッ!!


ミミの片方の頬に衝撃が走り、気がつけば先ほどまで自分が座っていたベッドの上に倒れていた。

歯が折れたのではないかというほど痛む頬を押さえミミは


「…いたっ!痛い!痛いっ!!どうして!!!?」


と、大泣きしえずき震えた。
だが、誰も助けに来てはくれず

代わりに



「…お前、調子乗りすぎ。死にてーの?」



と、いつの間にかミミの隣に立ち、ブチ切れた恐ろしい表情で見下ろすフウライの姿が…



「……ヒッ……!」



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-数時間後-


ゴウランとミオが部屋に戻って来た時、かなり驚いた。

だって、そこには


ヨウコウと同じベッドに寝かされ縄でグルグル巻きに縛られているミミの姿があったから。
しかも、顔面蒼白でガタガタ震えが止まらなくなっている。

真ん中のベッドには、大量の黄色い水溜りができていた。アンモニアの臭いがするから、そういう事であろう。

ゴウランとミオはおおよその予想がついてしまった。

おそらく、これはミミが悪い。

そして、フウライはやり過ぎだ。


ゴウランとミオは、大きくため息をつき何事もないかのようにスヨスヨ眠るフウライを見ると

よく、これで眠れるなとある意味感心した。



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「…終わった。ああ、あんたの命令通り
質問には答えといた。」


フウライはゴウラン達が寝たのを確認すると、自分の宿泊するホテルに戻り直属の上司に今日の報告をしていた。


『アッハハ!普段、無口なお前がな。
きっと、アイツらはお前の事何でもかんでも喋るお喋りさんだと思ってるだろうな!
お務め、ご苦労さん。』


偶然を装い各チームに近づき、1チームにつき一日かけチームの様子を見て回った。

ここまで残ったのだ。
今さら、面倒だとか怖気付いて旅に出たくないだの駄々をこねはしないだろうという判断と、事実を知りどう冷静に判断し行動ができるかを見定める試験でもある。抜き打ちテストみたいなものだ。

少々可哀想が過ぎる事、多少騙していた部分があった事への謝罪も込めて、代わりに答えられる範囲全ての質問に答えてやれと上から命令された。激甘なボーナスである。

12チーム全てだ。おかげで12日掛かってしまったが、良いものから…反吐が出るほど胸糞な事まで知る事ができた。

ムカつく奴は全員軽く殴っておいたが。

今のチームで最後だったが、全てにおいて中途半端なチームだった。
そんなチームに、何故アイツら二人が?とも思ったが理由は簡単だった。
…それには少々呆れるが、それを承諾し行動を共にしてるアイツらの心情が分からない。

まだ王の命令が絶対のアイツならまだ分かるが、アイツが分からない。
アイツは、どんな相手だろうと言う事を聞くとは思えない…絶対聞かないだろう。きっと、ズル賢い王に、何か弱味でも握られたに違いない。…気の毒な奴。

それは、さて置きだ。


「…ああ。あんたはどうなの?
また、あんたが無茶してねーか心配だよ、俺は。」


『無茶なんかしてないさ!ただ、こっちは、もう少しかかりそうだよ。』


「……そうか。」


フウライはこの会話で感じとっていた。
長い付き合いだ。隣で、ずっとコイツを見てきたからこそ分かる。

今、コイツはとても苦戦している。かなり焦っている。もはや、パニック状態だろう。それを何とか誤魔化し平静を装っている事だろう。



「そういえば今回の仕事、今日で何日目になるっけ?」


『……ん!?今日でって、今日仕事始めたばかりだろ。どうした?お前までおかしな事を言うな?リュウキの奴もそんな事聞いてきたが。』


「…ああ、思い出した。俺の仕事は今日で12日目だった。あんたは、仕事初日なんだな。」


『……!!?』



…だと、思った。

多分、今のでコイツは何となく察しただろう。
…多分…いや、コイツ、スッゲー馬鹿だから心配になるが、それ以上に野生の勘が鋭い。
それに期待するしかない。

それにしてもだ。

どうやら、相手は一筋縄ではいかない相手らしい。自分も感じる。
何故なら、携帯でコイツと話してる今も、向こうからヒシヒシと嫌な魔力が伝わってくるから。この類の魔力はきっとアレだろう。
ならば、厄介極まりない。

何故なら

相手の得意とする魔導とアイツとの相性は最悪。下手をすれば……

最悪のイメージが頭に浮かぶ。


「……早く帰って来てよ。
俺のホイップちゃん。」


『…んんっ!?いきなり、どうしたお前!!?
頭でも打ったか?アッハハ!』


「…………。」


仕事とプライベートは、スッパリと割り切ってるフウライだ。
それにも関わらず、プライベートでしか言わない甘ったるくて人に聞かせられない様な恥ずかしい言葉を掛けてきた。

隠していたつもりがフウライにはバレバレだった様だ。苦戦を強いられ崖っぷちに立っている事が。
…今、どうしようもない状況で不安で押し潰されそうな気持ちになっている事が。

その気持ちを汲み取り、敢えてその言葉を掛けてきたのだろう。


「俺のホイップちゃん。“俺の事だけ信じて”。
いい?王は確かだよ。」


これで伝わってくれる事を祈るしかない。
詳しく話してやりたいが、この会話も相手に聞かれてる事だろう。
現に、この人にしか聞かれないように防音魔導を使っているにも関わらず邪魔され…僅かに漏れ出している感覚がある。

…相手は、相当な魔導使いだという事が分かる。

そして、勝手な行動をして無駄にコイツを危険に晒してる王に怒りが込み上げる。
そんな王の為に、王の気持ちを汲んで身一つで乗り込んでしまうコイツにも。コイツの危機的状況にも関わらず隣にいない自分にも。


…ムカつく!

お前、覚えてろよ?

この件が片付いたら
甘え下手なお前をデロッデロのトロットロに
クソほど甘やかして愛してやる。

お前が恥ずかしがろうが拒もうが絶対やめてやらないから。



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次の日の朝。



ゴウランとミオは、本当はミオとミミが使うはずだった部屋に泊まる羽目になった。
…これは仕方ない。

だって、ヨウコウとゴウランが使うはずだった隣の部屋にはベッドが3つあったものの窓側のベッドは昨日のあのクソヤローが寝てるし、ドア側のベッドはヨウコウと縄でグルグル巻きに縛られたミミが寝ている。

極め付けは、ミミの失禁でビチョビチョに濡れた真ん中のベッド。なので、ゴウランが寝る場所がなかったのだ。

何より、ミミのお漏らしでアンモニア臭が漂っていてとてもじゃないがあの部屋には居られなかった。
臭い移りも嫌なので、ゴウランは自分の荷物とヨウコウの荷物をミオ達の部屋に移した。

しかし、フウライはあんな臭い部屋でよく寝られるなとゴウランとミオはある意味感心していた。嗅覚が無いのだろうか?


それはさて置き、こんな状況であっても二人にとっていい事もあった。

ミオ達の部屋に移動したゴウランとミオはお喋りヤローから聞いた事について色々語り、互いの考え、これからの事、様々な思いなどを話し合う事ができたからだ。

いつもは、独裁的なヨウコウに気を使うばかりで自分の意見は愚か話し合う事さえできなかったから。

そして、思いの丈をぶつけ合い話し合った二人は互いに苛つきソッポを向く形で横になったが色々と思う事がありあまり眠れぬまま朝を迎えた。

朝も早いが、モヤモヤが収まらない二人は居ても立ってもいられず何をするでもないが、とりあえずヨウコウ達のいるアンモニア臭漂う隣の部屋に入った。

すると、自分達と話をしていた“試験監視係だという商工王国の兵(お喋りヤロー)”が、いつの間にか居なくなっていた。

太々しくも、自分達のベッドの一つを占領し勝手にグースカ寝ていたアイツが。

ヨウコウとミミは同じベッドで寝ている。ミミがグルグル巻きにされてた縄もない。

“あの兵”は、中間報告を言う為に自分達と接触してきた。その内容は散々だったものの、“馬鹿なお喋り兵”のおかげで色々知る事ができた。

そこで、自分達の自惚れも曝け出され穴があったら入りたいくらいに赤っ恥もかいたが…。

…しかし、あの兵の姿が思い出せない。何度思い返しても顔が浮かんでこないのだ。
きっと、印象にも残らないくらいにつまらない容姿をした人だったのだろう。

“たいした自己紹介もなかった”為、商工王国の兵であるという事以外、あの兵の事については分からない。

ただ、態度や素行が悪くこんな奴が商工王国の兵だという事実に腹が立ってしょうがなかった事だけは覚えている。
きっとあの兵は、下っ端もいいとこで自分の不甲斐なさを周りに当たり散らしてストレス発散してるクズだろうと思う。

そして、ヨウコウは何故気絶したのだったか?
そこのところが曖昧で記憶にない。


…何だっけ?

気のせいだろうか?
何か…色々忘れている気がする。

ゴウランとミオは、そう頭を捻りながらもヨウコウとミミが目をさますのを待った。

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