イケメン従者とおぶた姫。
…何かがおかしい。
〜時は、12日ほど前に遡り〜


ベス帝国城、応接間にて


リュウキとハナは、ベス帝王と対面していた。

ベス帝王は、ほんわかとしていて優しそうで、とてもこんなギラついた国のトップとは思えなかった。

…が、それは表向きだ。

ただ、優しいだけでは国を治める事などできない。しかも、ベス帝国は世界屈指の富の国である。

それを維持し続けるという事は容易な事ではない。

カジノの国ならではであろう。
金持ちと貧乏、平和と治安の悪さの落差が激しい事。格差社会である問題点も目につくところではあるが。

つまるところ、見た目や雰囲気に流されてはいけない。相手は、功績のある国のトップなのだ。油断ならないどころか、ただならない相手に違いないのだ。

そこで、リュウキは自分の話に持っていくのだが…おかしい。


「我が娘が、この城で行方不明になったのはご存知かと思うが。話によれば、この城の中で行方が分からなくなったと聞いた。
娘と同行していた筈のヨウコウ、ミオ、ミミは見つかったというのに、どういう訳か娘と娘の護衛二人だけが見つからない。」


そう、何度説明した事だろう。

なのに


「それは大変でしたね。我々も報告を受け商工王のお嬢さんを全力で捜索しているのですが…。力になれず…」


肩を下げ、しょんぼりと見せるベス帝王。

それから、少しすると


「おい、どうしたんだ?話は終わっただろ?早く、城に戻るぞ。」


と、後ろから騎士団長であるハナが待ちくたびれたかの様に声を掛けてきた。

まるで、物事が全て終わったかの様な言い方だ。

……?話が終わってないどころか、今話し始めたばかりだろ?

リュウキは、何を言っているんだとばかりにベス帝王を見れば


「いやぁ、もっとおもてなしをしたかったのですが…急ぎの用事があるのなら仕方ないですよね?またのお越しをお待ちしてます。」


と、さも当たり前かの様にお別れの挨拶をしている。しかも、ショウの事について何も触れてこない。

ショウの話をしにきたのだ。
普通ならば、最後の挨拶で『何か進展があれば、すぐにでも報告する』など、何かかしら触れてくるはず。

後ろに控えているハナを見ても、どうしたんだ?早く帰るぞ。と、笑ってるだけだ。

それをおかしく思い


「…ハナ。何故、帰ろうとする?
今、話を始めたばかりだろ?目的を忘れたか?」


そう、問いてみれば


「…目的?……ん??
…いや、話し合いなら終わったろ?
だから、帰ろうという話になってなかったか?」


そんな、おかしな事を言っていたのだ。

なので、リュウキは再度
同じ事をベス帝王に繰り返し聞いた。

それを3度ほど繰り返した時だった。
引き下がらないリュウキに痺れを切らしたのか、ベス帝王はピクリと片方の眉を動かすとベス帝王の後ろに控えている青年に何やら合図をしていた。
お茶のおかわりを要求する何でもない動作に見えるが、これは何らかの合図だろうとリュウキは思い確認する為後ろをチラリと見ればこれにはハナもそれを感じとったらしく目で同意していた。

そして、時間も遅いと言う事もあり城に泊めてもらう事になったのだが。


またも、おかしな事が起きたのだ。


朝、起きて朝食をもらい、再度応接間にて話し合いをしたのだが昨日と全く同じやり取りになり挙げ句、あたかも今日初めてこの話をしたかの様な素振りを見せてきた。

話し合いの休憩中、ギンギラでゴージャスな趣味の悪い中庭でリュウキは、ハナと隠し言葉で会話していた。


「昨日、ここに泊まった時…」


そうハナに話しかけた時


「……何を言ってるんだ?昨日はここに泊まってないぞ。今日、来たばっかりじゃないか。
お前、どうしたんだ?ここに来てから、何かおかしいぞ。」


敵に怪しまれないようニコニコ表情を崩さないまま緊迫した内容を話す二人。
話してる内容も、周りの人達が聞けば何でもない日常的な話にしか聞こえない。しかし、これは二人にしか分からない隠語の内容である。


「いや、そんな筈はない。昨日、同じ会話を繰り返し時間ばかりが過ぎ、時間が遅くなったという事でここに泊めてもらった。」


「…リュウキ、お前…疲れているんじゃないか?ちゃんと眠れているか?」


ハナの心配する言葉に、リュウキは何だか自分だけ周りに取り残されているような支離滅裂にでもなっているかの様な気持ちになった。

…おかしいのは自分なのか?

ショウが行方不明になった事で正常でいられなくなったのだろうか?

…だが、しかし…!!!


リュウキは、物事を冷静に判断しようと気持ちを落ち着かせる。他の者には見えないものが自分だけ見えたり、いつの間にか終わっている話し合い。この城に泊まったはずなのに、泊まった事実さえ消えている。

自分の頭がおかしくなったのだろうか?混乱して頭の中がグチャグチャだ。

そんなリュウキをハナは内心心配でどうしたらいいものかと焦っていた。



その様子を二階のラウンジから、ベス帝王と側近は眺め


「…どうやら、商工王は幻術に耐久があるらしいな。耐久があるという事は、幻術魔導関連の能力があるという事。それも、術者と同等かそれ以上のレベルだという事になる。
この世界で、この特殊魔導の能力を持っているという事は俺の血筋でない限り極めて珍しい事。…商工王…一体何者なんだ?本当にこの世界の人間なのか?」


ベス帝王は、ゆったりと椅子に座り側近に話しを続ける。


「しかも、俺たちに会った瞬間に
俺が本物だと分かった様だった。なのに、あえてそれに触れず顔にも出さず物事を運んでいた。食えないやつだ。…流石というべきか。」


「…ええ。しかし、この状況で自我を保つ事は困難。徐々に、自分だけがおかしいのではないかと混乱し精神崩壊していくでしょう。
まさか、己の類稀な素晴らしい能力のせいで自滅するとは思わないでしょうな。
いつまで、自我を保っていられるか見ものです。」

側近は、優しそうなほんわか笑顔でベス帝王に紅茶を出した。

紅茶を飲みながら


「…で?あのブタ姫の方はどうなった?」


ベス帝王が側近に尋ねると


「はい。あの方に関する様々な情報や品など出しても一向に反応がありません。」


「…そうか。あのブタが来てからもう二週間くらいになるか。こんなに時間を掛けても何の反応もないって事はまた“スカ”だった様だな。」


「そのようですね。」


「…けどなぁ。目利きは確かなんだよなぁ。
しかも、たまたまかもしれないが、アイツがここに居るようになってから異常なまでに金回りが良いし魔物も大人しい。大した異常気象もなく平和だ。」


「…確かに、最近、国全体がとても穏やかになりましたな。いいタイミングに、あの者達はきたものです。とても、素晴らしい強運の持ち主達らしい。」


「…タイミングか。もう少しだけ様子を見てみるか。まだ、可能性が捨てきれない部分がある。
商工王は面倒で厄介ではあるが…仕方ない。」


「はい。仰せのままに。」


側近は頭を下げつつ応接間に向かい、ベス帝王は話し合いの時間を告げる為、リュウキ達の元へと向かった。






〜一方、ショウ達はというと〜



「楽しいね!」


ショウはゴージャスなソファーに座り、高級なお菓子を頬張っていた。

それを見ていてオブシディアンはふと思った。

ここに来てから何不自由なくダラダラと過ごす日々。

事情は分かる。ベス帝王の説明を聞く限り、
ここベス帝国の隣国にあるムーサディーテ国は、容姿で人を差別し性に奔放な国であるためまだ小学生であるショウの教育上良くないという理由から
ベス帝王の好意により、ヨウコウ達がムーサディーテ国を旅する間だけベス城に世話になる事になった訳だが。

…何か、引っかかるのだ。

何かが、おかしい気がしてならない。

深く考えようとすると頭の中に靄がかったようになり、考えている事が色々と曖昧になってしまう。


つい先ほどの出来事である。


三人で城の庭園の散歩から帰って来た時の事、目の前から微かに我が王の気配を感じたのだ。
目の前はただの壁であるにも関わらずだ。不思議に思ったが何かあると感じいつも通りを装い様子をうかがっていると驚く事に壁から手が出てきたのである。

その手には見覚えがあった。

厳つい指輪や腕輪などアクセサリーがたくさん付いた手…そのアクセサリーは商工王の特注品世界に一点ものばかり。

しかも、王と隠密の間でしか分からない合図をしてきたのだ。


『無事か?何かおかしな事はないか?』


そこで、ハッとした。

何をしていたのかと!

ベス城に来てから色々と不自然な事だらけで、何か怪しい事がないかと探り考えようとするだけで頭が曖昧になり気がつけば、その考えていた事すら忘れ何でもないような日々を送っていた。

理由は分からないが、おそらく自分達は何らかの理由でこの城に軟禁されているのだろうと分かった。

チラリとシルバーの様子を見ると、微かに驚いた様子が見受けられた。…が、すぐにいつも通りの彼に戻っていた。
彼には少し違和感を感じる。もしかしたら…。
ならば、彼は全く当てにならない。むしろ、自分の邪魔をしかねないだろう想像がつく。

それにしても、ベス帝王は何の為に自分達を軟禁しているのだろう?

ベス帝王が話した物語が関係しているのは確か。
思い返せば、そうとしか思えない様な事が毎日のようにある。

例えば、何かにつけて物の価値を聞いてくる。
あの“絶美の宝石と醜女”の物語に関する話をしてくる。

そして、毎日のように持ってくる手のひらサイズの古びた小さな宝石箱。

それを自分達の前に持ってきては、開け方が分からないと自分達に開けさせようとする。

結局、自分達もその宝石箱を開けられないまま終わるのだが。


今までは、それすら何の違和感もなく毎日、同じ事を繰り返し過ごしていたが、頭がハッキリしている今なら分かる。

絶対的におかしいという事が。

そして、おそらくこの城全体に何らかの術がかかっている事が。

自分達は、まんまと相手の術中にハマってしまっている。

おそらく、時間が経てばまた自分は頭の中が曖昧になり相手のいいように動いてしまう事だろう。

相手の思う壺で不甲斐なく悔しい気持ちでいっぱいだ。

城の外へ出たらこの術から抜け出せるだろうか?

…こんな時、あの人がいてくれたらと思う。
世界でもたった三人しかいない魔導Sクラスの実力の持ち主“我が国の英雄の相棒”である彼がいたなら。

そう思わざる得ない危機的状況である。


だが、幸いな事にそれ以外何も害がない。
むしろ、待遇が良過ぎるくらいだ。だから、シルバーは……ああ、まずい…また、頭がぼんやりしてきた。

それから、オブシディアンは酷く酔っ払ったかのように頭の中がグニャグニャし始め記憶が曖昧になり

…そうだった。
今から部屋に戻るところだったな、ん?何か…大切な事を思い出していた様な?……気のせいか。と、先ほどの出来事はすっかり忘れ、ショウ達といつもの様に部屋へと戻って来たのだった。

それから、何か引っかかりはあるものの何も思い出せずモヤモヤした気持ちを抱えたままいつものようにショウ達と過ごしている。

そんなオブシディアンの様子を見てシルバーは、誰にも見られない様に俯くとニヤリとするのだった。

しかし…しかしな事態が起きてしまった。

それには、オブシディアンもシルバーも焦りどうしたものかと戸惑っていた。それは…


「…お家、帰りたいよぉ〜!…お父さんに会いたい、お婆に会いたい……サクラに会いたい…」


旅に出て定期的に起こすショウのホームシック。ショウがぐずり出すとオブシディアンは


『良かった。では、帰ろう。』


と、喜び、シルバーも嬉々とした様子でさっそく荷造りを始めた。その様子を見てショウは慌てた。


「…ま、待って!お願い、待って?まだ、帰らないから…」


二人を必死に引き止め、オブシディアンとシルバーはショウの言葉にピタリと動きを止めた。


『無理しなくて大丈夫だ。
それに、ヨウコウ王子達の心配はいらない。
ショウ様がチームを抜けても代わりの者は直ぐに用意できる。何の問題もない。』


オブシディアンは、ここぞとばかりにショウを説得し始め、更には


「旅は危険で辛い事だらけです。あの愚者達とも離れる事ができます。嫌な思いをする事もない。家に帰れば、今まで通りの平和な生活に戻る事ができますよ?」


普段、滅多に喋らないシルバーさえも饒舌に帰るといい事だらけだと丸め込もうとしてくるのだ。

これは、二人と旅に出てからいつもの事である。それで慌ててショウが思いどどまる。

思い止まるショウを何度もしつこく説得しても意思の変わらないショウに『…嫌になったら、いつでも言ってほしい。』と、あからさまにガッカリした雰囲気でオブシディアンとシルバーはショウの気持ちに折れてくれる。

その繰り返しである。

きっと、二人はこの旅が嫌で早く帰りたいのだろう。本来の自分の仕事に戻りたいに違いない。けど、二人には申し訳ないがショウは、まだこのままではいけない。もっと、世間を知らなければならない気がするのだ。

旅をしなければ気がつけなかった事が多くて。

それに、今まで何かをやり遂げる事をするという経験がなかった。いつも、嫌だ、面倒だと直ぐに挫折して投げ出してしまう。

今回の旅を通してショウは、この旅を達成してみたいと思ったのだ。
…と、いうか、理由は何であれ
(父親のリュウキに強制的に旅に出された。ヨウコウ達が怖すぎて逆らえずリタイアもできず渋々など…)
ここまで続いた事がなかったというのも理由は大きい。

何より、旅に出なかったら一生見る事のない景色や人との出会い。特に、チィとの出会いは凄く素敵な事だと思うし友達ができてとってもとっても嬉しい。

この旅では、メンバーとは全く上手くいかないし、超絶苦手な人との関わりや大嫌いな動くという動作、ひもじい野宿などなど…。
自分にとって嫌づくしであるが、それ以上に何か希望の様な、これからどうなるんだろうというワクワク感もあったりする。

こんな気持ち、今まで全然知らなかった。

何より、自分に対する父リュウキの気持ちを少し知る事ができたのが嬉しかった。
自分が旅に出なかったら、知る事もなく知ろうという努力もしないまま、ずっとずっと仲違いしたままであっただろうと思う。

そこで何が大きく変わるとか考えてはないが、今まで感じた事のないやる気や希望に満ち溢れていた。

あと、何故だろう?
何かに呼ばれてる気がする。自分はそれを何とかしなくてはならない気がするのだ。
よく分からないが…。


そして、だいぶ時間が経ち
いつも通り、あの青年がショウ達の部屋に3時のオヤツを持ってくる。
ここは、ショウが屋敷にいる時の様に朝の10時と夕方の15時にオヤツタイムがある。
食べる場所は、庭園だったり中庭だったり部屋の中だったりとその時のショウの気分で決まる。

今回は、庭園の散歩が疲れたという理由から部屋のオヤツタイムとなった。

ここの料理もオヤツも、見た目が派手で味も驚く事ばかりのもので最初こそ、ずっとこれでいい!なんてはしゃいでいたが毎日こればかりだと疲れてしまうし飽きてしまう。
…やっぱり、少々地味でも馴染みのある故郷の味が恋しくなる。

なんて贅沢な悩みをオブシディアンに話しながら、ショウはモグモグとゴージャスに作られたカヌレとクッキーを高級な紅茶でどんどん流し込んでいった。

しかし、ある程度食べるとシルバーが「これ以上はやめておきましょう。」と、ストップをかける。全然食べ足りないと思うショウだが、
心の中でもの凄く文句を言いながらも渋々従った。

ショウはシルバーの事が苦手なのだ。無口だしあの何とも近寄りがたい雰囲気が怖い。
怖くて文句もいえないので、ショウはブスッとした顔をし不機嫌ですオーラを出しちょっとした抵抗を見せるだけだ。

ショウの気持ちを察してか元々ショウの事が嫌いなのか、シルバーはいつもショウから一定距離以上滅多に近づいてこないし会話なんてない様なものだ。
目すら合わせてくれず、必要以上関わるなという雰囲気を出している。

そんなに私の事が嫌いなら私の護衛辞めちゃえばいいのに、と、ショウはいつも思っている。


ベス城で過ごしショウは楽しく日々を過ごしているが、やはり他人の家なのでリラックスできないし旅に出ている時のような緊張感もない為、時が進むにつれて余計な事ばかり考える様になっていた。

旅の事、いじめっ子ヨウコウ達の事、意地悪なメイド達やクラスメイト達、チィ、リュウキ、お婆、オブシディアン、シルバー…そして、サクラなどなど。

どの内容もマイナス思考な事ばかりだ。
おそらく、城に籠ってばかりで精神的に鬱々としているのだろう。

それを配慮しオブシディアンは、動くのを嫌がるショウを何とか説得し1日に一度は庭園や城内などの散歩に連れ出してはいるのだが。

いつ如何なる時何が起こるか分からないので、
オブシディアンとシルバーは日々の鍛錬を怠りたくはない。なので、ショウの護衛とトレーニングは午前と午後の交代で行っている。

だが、ショウはシルバーと二人きりになるのを極端に嫌がる。オブシディアンはそれを何とか宥めトレーニングに行かなければならないのは、散歩に連れ出す事よりも困難であった。

今日は、午前中オブシディアンがトレーニングの日。


オブシディアンが『トレーニングに行ってくる』と、ショウとシルバーに声を掛け部屋を出て行こうとした時


「…ムリ、ムリ、ムリッ!シルバーさんと二人は…ちょっと…。だから、オブシディアンさんのトレーニングに着いて行きたいの。」


いつもの如く、ショウはシルバーの存在をチラチラ気にしながらヒソヒソと小声でオブシディアンを引き止めようとしてきた。

オブシディアンも、ショウの気持ちは何となく察している。

確かに、あんなに無愛想だととっつき難いのだろう。しかし


『トレーニング中、ショウ様に怪我をさせてしまう可能性が高い。それに、ずっとトレーニングを見ているだけではショウ様は飽きてしまうだろ?
だから、連れて行きたいのは山々だが無理だ。』


と、理由を述べるが


「…だって…」


駄々を捏ね始め、どうしようものかとオブシディアンが困っていると



「あんまり、オブシディアンさんを困らせないで下さい。」


窓際の椅子に腰掛け読書をしていたシルバーがピシャリとショウを声を荒げる事無く静かに叱りつけた。


「…ピャッ!!?」


ショウは声にならない声で怯えとビックリを含んだ間抜けな声を漏らすと、「…ごめんなさい。」と、小さな声で謝るとしょんぼり肩を落としてスゴスゴと自分の定位置へと戻って行った。

すると、シルバーは深いため息をつく。
それを見てショウはますますションボリするのだった。


オブシディアンは何とかならないものかと不器用な頭で考えるものの…人付き合いの苦手なオブシディアンはいい案が思いつかずいた。
こんな事があるなら、スパイの訓練も受けておけば良かったなと困った顔をしながら部屋を出て行った。

戦いにおいての心理戦ならば少々自信はあるが、普通の女の子の心は繊細過ぎて気持ちもコロコロ変わるし…なかなか難しいとオブシディアンは少々げんなりしていた。


だが、オブシディアンの気持ちが通じたのか、その機会はいきなり訪れた。


午後、シルバーがトレーニングに出た時だった。ショウとオブシディアンは二人、庭園の散歩をし中休憩していた時だった。
大きな庭園に所々設置されている椅子に二人は腰掛けショウの何でもない話を聞いている途中、ショウは少し顔を俯かせるとまごまごし始めた。


『どうした?何かあったか?』


と、オブシディアンが声を掛けると


「…あのね。シルバーさんの事なんだけど…」


オブシディアンはドキリとした。
今まで、シルバーの話をあまりしてくる事のなかったショウがシルバーの名前を出してきたから。


『シルバーさんが、どうした?』


「…うん。やっぱり、私の事嫌い…だよね?」


勇気を振り絞っての質問だったのだろう。声が震えている。


『何故、そう思う?』


「…いつも、私と距離空けて行動してるし。
話しかけても素っ気ないし、いつも厳しい事ばっかり言ってくるの!
私が、何か失敗したりシルバーさんが呆れる様な事言えば、嫌そうなため息ついて何処かに居なくなってしまうし…長い時間帰って来ないから。
私の事が嫌い過ぎて一緒にいるのが嫌で嫌でしょうがないのかなって思ったの。」


『…なるほど。ショウ様にはそう見えるのか。』


オブシディアンが少し困った様に苦笑いすると


『…シルバーさんは、決してショウ様を嫌ってなんかない。私から見れば、むしろその逆。
ショウ様が大好きで大切過ぎてそんな行動をしている様に見える。』


「…シルバーさん…、さすがにそれはないかなって思う。」


ショウは慰めでそんな分かりきった嘘をつかなくていいとプクリと頬を膨らませ俯いてしまった。


『分かった。シルバーさんには悪い事をしてしまうが…ショウ様にこっそり教えよう。』


「…?」


『…あまり、気乗りはしないが仕方ない。』


オブシディアンは、ちょっと微妙そうな顔をしながらショウに言ってきた。

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