イケメン従者とおぶた姫。
オブシディアン。
オブシディアンは、呆れながらソレを見ていた。


『…毎回、思うんだが。
シルバーさんは、それは辛くないのか?重いだろう?次の日の仕事に支障がでないか?』


と、どう見てもシンドイであろうシルバーに声を掛ける。


…ぎゅ…


「…俺が好きでやってる。」


シルバーは超重量級のショウを胸に、大事そうに包み込むように抱いて横になっている。

キングサイズのベットではあるが、ショウが超おデブなのでシングルサイズと錯覚してしまいそうになる。
そこに、自分に用意されたベットには目も暮れず当たり前のようにショウのベットまで来ると床に膝をつき優しい眼差しでショウの寝顔を眺める。次に、そっとショウの頭にキスを落とすと愛おしそうに目を細め

ようやくショウのベットに入り込んだ。


「今日もお疲れ様でした。」


そして、ねぎらいの言葉を掛け
ショウの体を隅々まで丁寧にマッサージしつつ、隅々まで慎重かつ丹念に外傷などないか健康チェックをする。見て触れられるもの全てだ。もちろん、あんな所やそんな所も全てである。

それが終わると、まるで壊れ物を扱う様に大切にショウを抱き締め寝る体勢に入る。

それから恍惚とした表情でうっとりショウの顔を見つめながら、ソッと優しくショウの髪を手で梳くと
鼻、耳、鎖骨…唇へキスを落としていく。


「…できるなら、ショウ様の全てにキスしたい。…エッチしたい…」


と、己の欲望を口にすると、自分の気が済むまでショウの顔中にキスをし落ち着くとやっと自分も目を瞑るのだ。

これを毎日やっている。
野宿や安い宿に泊まる時なんて、ショウの体が出来るだけ痛まないように辛くないようにと自分の体をベット代わりにしている。

朝起きると、言わずもがな…シルバーは身体中痛めしばらくの間動けずいた。
ショウのあの巨体を、いくら鍛えていようがこの細身の体で受け止めるのだ。当たり前の話である。
むしろ、あの巨体の下になって潰れない事を褒めてあげたいくらいだ。

どうして、自分の体を痛めてまでショウに尽くそうとするのか昔からの謎である。

シルバー……、…まあ、旅の間だけだ。今はその名前に付き合っておくか。
シルバーさんは、ショウ様に面白おかしく、ただただぬくぬくとぬるま湯の中に浸かるような贅沢三昧、楽し放題、楽しい事だらけのだらけ過ぎる生活を送ってもらう事を望んでいる。

少しの苦痛も与えたくない、傷をつけたくない、不快な気持ちにさせたくないと言った感じだろうか。

その為なら、自分はどうでもいいといったところだろう。

だが、そんな彼にも一つだけプライドがあるようだ。それは、ショウ様以外にその身も心も許さない事。それだけは、いくらショウ様の命令でも断固として聞く事はなかった。

過去の話だが。

あれは、確かに酷いもので
それに関してはメイド長さえショウ様に対し激昂ししばらく説教が続き、数週間サク…いや、シルバーさんもショックで部屋に引きこもって出て来なくなるという事もあったな。

と、オブシディアンは思いだしていた。


…しかしながらとオブシディアンは思う…


『…シルバーさんが、ボクに隠すつもりが一切ない事に驚く。』


オブシディアンは苦笑いしながらシルバーに声を掛けると


「隠すも何も、俺があの家に住み始めてすぐにお前は俺の事を監視してただろ。ああ、その時はお前と“もう一人”いたな。」


なんて事もしれっと言ってきた。
もう一人…ボクがまだ見習いだった時の話だな。もう一人はボクの師匠。師匠から独り立ちを許されるまで一緒にこの任務を遂行していた。
まさか、当時5才だったシルバーさんに師匠の存在まで知られていたとは…驚きでしかなく理由を聞けば


「“聞こえる”んだよ。お前らの“言葉飛ばし”が。お前らだけじゃない。術を発動させてる本人か受け取る相手が近くにいると“勝手に聞こえてしまう”。」


驚く事に、シルバーさんは物心つく頃には言葉飛ばしの類を聞き取る事ができていたらしい。生まれ持って“波動に特化”した天才という訳か。

もし、彼の特殊な能力の話を聞かなければ、気配で自分達の存在がバレてしまったのかと立ち直れない程ショックを受けていたに違いない。
そこは、凄くホッとした。


そして、ボクがこの旅に参加する事になり、ボクとシルバーさんは互いに紹介された訳なのだが。そこでボクの正体を知ったシルバーさんは安心したのか

ショウ様が寝る時間になると、ボクは朝まで起きない様に医療魔導の一つである催眠術をかける。
すると、ショウ様に正体を隠している彼は
“普段通りの彼”に戻る。

普段、ショウ様を恐ろしい程に溺愛し依存する彼は、王であるリュウキ様の命令でショウ様に“自分の正体を隠し同行する”事になり

ショウ様の近くにいれば、直ぐにでも正体を明かしお世話したくなる事は本人も分かりきってる事なので、ショウ様からなるべく距離をとって行動しているようだ。
感情が昂りショウ様に触れてしまいたい衝動に駆られそうになった時は気持ちを落ち着かせる為に一人になりにいく。

就寝時間になれば、待ってましたと言わんばかりに“ボクの催眠術”で眠るショウ様に、今まで触れられない時間を取り戻すかの様にせっせと世話を焼きある程度満足すると

シルバーさんはボクに合図してくる。

その合図でボクは“ショウ様の意識の中とシルバーさんの意識を繋げる術”を発動させ、30分という決まった時間だけ“夢の中で二人を会わせる”のだ。

この“医療魔導”は難易度も高く魔力量も大きく消費する為、あまり使いたくない術であるが…王に頼まれている以上致し方なくほぼ毎日それを遂行している。



“王に頼まれて”…それは…


数ヶ月前


オブシディアンが任務で大失態し“特殊な”地下の牢獄にいた時の話だ。

そこは表に存在を知られてはならない者達が入る収容所。なので、それがどこにあるのか、どういう場所なのか分からない極一部の人しか知らない極秘の収容所である。

窓も音も無く真っ暗な場所。
その為、時間も朝か夜かも全く分からない。目を瞑っているのかいないのかさえ分からない。気が狂いそうになる。

灯りがつくのは朝、昼、晩の食事の時間。看守が質素な食事を運んで来る為、その時だけ看守の持つ懐中電灯の灯りで辺りが照らされる。その灯りだけだ。

それで、朝、昼、晩が分かる。オブシディアンはその時の灯りで壁に印をつけていく。これで、辛うじて日にちを知る事ができた。

何重もある特殊な扉を開ける音がする。

音からすると5枚の部屋の分厚い扉。恐らく5枚それぞれ違う役割を持っているだろう事は容易に考えられる。

そして、最後の一枚の扉の下には、10㎝×30㎝程の小さな扉が付いていてそこの鍵を開けると、その隙間から食事が差し出される。

看守が居なくなると辺りはまた暗闇へと戻っていく。オブシディアンは、まだ囚人でなくてもこんな扱いだ。これで、処分が決まり囚人となった時…そう思うとゾッとする。


だが、せっかくの食事にオブシディアンは手を付けなかった。…いや、付けられなかったのだ。


オブシディアンは、真っ暗な牢獄の中
今までの自分の生い立ちを思い出していた。


今回の自分の失態の理由はとても許されないもの。

オブシディアンは10才の頃からショウ専属の隠密だった。それがとても嫌だった。

幼い頃から隠密の訓練を受けて育ったオブシディアンは、周りが15才になってから任務に就くのに対し僅か10才でそれを許された。

オブシディアンは、商工王国隠密の中で歴代の天才と呼ばれた人物達の中でもトップクラスの逸材だ。

その為、驚く事にオブシディアンが10才になる頃には、実力者の大人達と互角に渡り合える力を身につけていた。

そんな、ある日の事だ。

オブシディアンは、隠密長に呼び出され最年少で“一人前”の称号を与えられた。
これには、まだ年齢が若過ぎるから早すぎるのではないかという意見もあったが。オブシディアンのあまりの天才っぷりに納得する者の方が多かった。

同年代の子ども達に尊敬の眼差しで見られ周りからはもてはやされ有頂天になっていた。
そして、ついにオブシディアンの任務が決まったと知らせがきた。

オブシディアンは、自信たっぷりに意気揚々と隠密長の所に向かった。

そこで言い渡された任務に、オブシディアンは愕然とした。


「……え?
王の“隠し子”と隠し子の従者の見守り…?」


だが、初任務だし
短い期限付きだろうと思った。

…しかし…


「期限付きじゃない?…生涯…???
ボクの一生涯を王の隠し子の為に費やすって事ですか!!?」



外で普通に隠密業するか王子や姫達の専属隠密として任務に就くのだと思っていた。
そこで自分の力や能力を遺憾無く発揮し活躍してみせると意気込んでいた。偉業を達成してみんなを驚かせてやるんだと。


しかし、その高みも希望もこの任務で全て消え去ってしまった。何もかもに見捨てられてしまった気分だった。…もう、俄然やる気が出ない。

そう、思っていたのだが。

何故か、この任務のオブシディアンに指導者としてついたのは現隠密一の実力者と言われる人物であった。もうすぐ引退というが、自分の持てる全てをお前に託すと言われた時は胸が弾んだ。

やっぱり、自分は凄いんだと自信を取り戻した瞬間だった。

この人から色々学んで誰もが認める力を身につけてやる!
そしたら、こんな下らない任務にボクが就いてるのは勿体無いって、凄い任務を任せてもらえるかもしれないと心の中で野望が生まれた。


いざ、下らない任務へ!!

屋敷へ連れてこられて驚いた事が幾つか。


…………え…………?


…お人形さん?すっっっごく綺麗なお人形さんがいる。

…あれ?動いた??

…ん?

え…生きてる?あれは、人間なの!!?



それを見て、オブシディアンは息を飲み見入ってしまっていた。

なんて美しい…

雪の様に真っ白な肌に、絹の様な青みがかった銀色のキラキラサラサラの髪。
長いまつ毛も、少し気の強そうな眉毛も髪の色と同じだ。
目の色は…まるで青い空そのもの…

あの子は、天の使いか…女神様だろうか?


少年とも少女とも取れる姿で


あまりの美しさに、オブシディアンはついに息をするのを忘れてしまったほど。

名前は名前が無いから“ナナシ”。
性別は男で、この男の子こそ王の隠し子の従者である事が分かった。

ナナシに心奪われたオブシディアンは、ナナシの為に任務を頑張ろうと思った。

この時、自分の邪な気持ちと隠密として失格な事を考えてたのを指導者に見透かされ、こってりと説教をくらった。

そして、影から見守っていて
ナナシのショウに対する異常なまでの愛を知る事となる。

ナナシのショウに対するそれは

崇拝、狂信、執着、溺愛、盲愛…

とも取れる異常な愛のように見えた。
ショウのお世話を趣味とし生きがいにしてるように見える。それを見ている内に、徐々にナナシに対する邪な気持ちは大分消えていった。

しかし、ショウが羨ましくてしょうがない気持ちは消えない。こんな美しい美貌の塊に、全身全霊で無償の愛で愛され尽くされているのだから。
それが自分だったら…そう何度夢に見た事か。
その愛をなんて事なく存外に扱うショウには嫉妬してしまうし、時折憎らしくも感じる。

そして、嫌々仕事をしていたが、ショウとナナシ…後のサクラに対し、本来隠密にはあってはならない“情”も湧いてしまっていた。

なにせ、ショウは赤ん坊の頃から。サクラは5才の時から、オブシディアンは二人の事を見守ってきたのだから。


そんな中、ショウのだらけっぷりにキレた
リュウキの提案でショウの旅が決まりオブシディアンはずっとショウを影で見守っていた。

しかし、ショウの旅は散々なものであった。
ヨウコウ達の酷いイジメが度重なり怒りで何度突撃しヨウコウ達をフルボッコにしようと思ったか。何度、ショウに手を差し伸べようと思った事か。
間近でヨウコウ達のイジメを見ていたオブシディアンは未だにヨウコウ達を許してないし、何なら痛い目をみろと思っている。


そして、あの忌々しい出来事が起こる。

ビーストキングダム。

遅い、邪魔だという理由からヨウコウ達に置いてけぼりにされたショウ。ヨウコウ達に指定された宿を目指し大泣きしながらヨタヨタ歩いていた。

大雨でずぶ濡れのショウはこのままでは風邪をひいてしまうし、精神的にも限界がきている。ここが引き際だなとオブシディアンは判断し、王にショウはこれ以上旅は続けられない主旨を伝えた。

そのうち徐々に天候は荒れ始め、気がつけば近くの川が増水していた。ここで外の任務経験の乏しいオブシディアンは自然災害の恐ろしさを目の当たりにする。

勉強や実習で習った天候のあれこれ。
その知識で、まだ大丈夫だろうとたかを括っていたのだ。優秀な自分の計算は間違ってないと。

しかし、オブシディアンの予想を遥かに上回るスピードで川は増水し氾濫していた。突風や大雨の大嵐となり、ハッと思った時にはショウのすぐ側に勢いよく川の水が迫っていた。

それに焦り、オブシディアンはショウを助ける最善の策を考えようとした。考えようとして思ってしまった。

…このまま、ショウ様が川に飲み込まれたら自分はショウ様から解放され、まともな任務に就けるかもしれない。
ショウ様を失ったサクラ様は、もしかしたら自分を見てくれるのではないか。

そんな事を一瞬の内に考えてしまい

僅かの間だが、ショウを救助する足がピタリと止まってしまったのだ。


自然災害なんだ…どうしようもなかったって事にすれば…。
そうだ。…王子や姫達も、何らかの理由で追放されたり死んでしまっても、その専属の隠密達には何のお咎めも無かったじゃないか。


など、脳内でぐるぐる色々と理由付けしていた、その時だった。ショウの悲鳴が聞こえハッと我にかえりショウを見れば、足を滑らせ転び川に飲み込まれる寸前だった。


なんて恐ろしい事を自分は考えていたんだ!と、オブシディアンは、ショウを助ける為に焦りと戦いながら本来出す事の許されない地声で必死になってショウの名前を呼び続け焦りで上手く発動できない魔導で懸命に自然災害に抗う。

もう、何が何だか分からない。

何をやっていたかも覚えていないくらい焦り混乱しながらもショウを助けようとガムシャラだった。ガムシャラになって、最後に見たのは苦しそうにもがきながら川の中に消えていくショウの悲惨な姿。

ショウが見えなくなっても必死に捜索し、救助を試みたが…どうあがいてもショウの姿は見えず、あるのは物凄い勢いで氾濫する川とどんどん悪化する天候。

…そこには絶望しか残っていなかった。

オブシディアンは、なんて事をしてしまったんだと脱力し膝から崩れ落ち、ただただショウが飲み込まれた川を呆然と眺めていた。


その時のオブシディアンの頭には、苦しそうにもがき助けを求めるショウの姿…そして、赤ん坊だった頃の可愛らしいショウの笑顔。やっと、寝返りができた事、あんよできた事……ショウの些細な小さな小さな成長に喜んでいる自分がいた事。

それを、ずっと成長を見守っていた子どもを自分の欲で……今更ながらに、自分の過ちの大きさに気づき罪の意識でどうにかなりそうだった。そんな自分を叱咤し、隠密最後の務めを果たす為に王に言葉飛ばしをした。


その後は、よく覚えていない。
あまりの激痛で我に返った時、泣き叫びながら自分を殴る蹴るをする王の姿が目に入った。


…泣いている?我が子にさえ、冷たく無慈悲なあの王が…?



「……何でお前に見守りを託したか分かるか?
あれは、俺のたった一人…唯一の子どもだ。
俺の命より大事な…。なのに、何だこの様はっっ!!?お前は歴代隠密きっての天才なんじゃなかったのか!?

……ふざけるなっっ!!!!!

お前を信じて、お前に俺の一番大切なものを託した。それをお前は…………!!!!?

何て事をしてくれた!!?
どう落とし前をつけるつもりだ?

…なあ?返せよ…返せよ、俺の子どもを…かえせぇぇぇぇぇーーーーーーーー!!!!!!!」



王に殴られ罵られている間、激痛が過ぎるのか耳鳴りも酷く…意識が時折ブツリブツリと途切れる。殴られる音も肉が潰れ鬱血した肉に何度も打ちつけてくるので、殴られる度にグチャ!ベチャッ!と、悍ましい音が聞こえる。オブシディアンは、朦朧とする頭の中、激痛の中
ショウの事を考えていた。

もう、この身などどうでも良くなっていた。いっそ、このまま殴り殺してくれ…そんな気持ちだった。

…ああ…。あんな小さな子どもが苦しそうに…激流に飲み込まれそうになった時、飲み込まれた時…どれほどの恐怖を感じたのだろうか?
…溺れた時、どんなに苦しかっただろうか?

オブシディアンにとって、ショウは幾つになっても小さな小さな子どものように感じる。

川に飲まれたショウの事を思えば涙が止まらない。リュウキの周りの者達は、オブシディアンのその涙を痛みから流す涙と勘違いし


「あんな大失態を起こしておいて、涙など隠密として恥ずかしくないのか。…情け無い…」


と、呆れていた。

リュウキに見る影もないくらいに痛めつけられたオブシディアンは、リュウキに髪を掴まれ引きずられ何処かに連れて行かれた。

その時には、オブシディアンの意識は途絶え…気がつけば病院の集中治療室にいた。


…自分は生きていたのか…

全身に恐ろしい程の激痛が走り息が詰まるが
そんな事よりも、何であのまま殺してくれなかったんだ。そればかりだった。


それから、最高峰の治療魔導と科学などのあらゆる治療を施されオブシディアンは自分の意思とは関係なく驚異の早さで回復させられ退院とともに収容所へと連行されて行った。

収容されている間、オブシディアンは罪の意識で苛まれ眠れぬ日々を送っていた。
川に飲み込まれるショウの姿が頭から離れない。


それから、2ヵ月程経ったある日の事。


オブシディアンは目隠しをされ、何処かへ連れて行かれた。もう、どうでも良くなっていたオブシディアンは何を聞くでもなくただただされるがまま動いていた。

そして、目的の場所へとついたのだろう。
連行人が足を止めた。オブシディアンは目隠しを外され、久しぶりの外の光に目が潰れるのではないのかという程眩しく目と頭に痛みが走った。だんだん慣れてきて目を開けると


「久しぶりだな。」


と、驚きの人物が自分の目の前にいた。

だが、何をされるのかと思いながら、どうでもいいやと虚ろな目をするオブシディアンに目の前の…王、リュウキはそんなオブシディアンの様子などまるでお構い無しに自分の話を始める。



「まず、報告だ。ショウは生きている。」


その言葉を聞き、オブシディアンは大きく目を見開いた。そして、一気に心に感情が溢れてくる。


…ショウ様が…生きている?

ショウ様が……


「……ショウ様はお元気で?」


ここで、オブシディアンは二つばかり本来許されない事をした。

隠密として地声は出してはならない事と、王の許可なく勝手に質問するという無礼。しかし、そんな事など気にする素振りを見せずリュウキは返事を返した。



「見つかった当初は食中毒で入院したが、今は回復し元気に過ごしてる。」



…食中毒?何故、そんな…

けど、元気なのか…そうか、そうか…


ショウの生存と安否を確認でき、その安堵からオブシディアンは知らずに涙を流していた。
その姿に、リュウキは驚いた顔をしていたが。

そして、オブシディアンが見守れなかった期間のショウやサクラ達の出来事を教えてもらった。

一通りの事を聞き終わるとリュウキは、オブシディアンの顔をジッと見て言った。



「サクラの動向を監視し、細かく報告をしてもらいたい。

サクラについて、色々知りたい事があり確認したい事もある。

サクラは、ショウが側に居ないと廃人になってしまうようだ。多少でもショウとの触れ合いが無ければ精神異常者になって何をしでかすか分からない手遅れのショウ中毒者のイカレヤローだ。

だから、面倒なのは重々承知だが頼めないだろうか?

人間嫌いのサクラだが、お前には多少だが心を開いている節がある。そんなお前にしか頼めない事だ。」


と。あんな大失態を犯した自分に、こんな重大な事を頼んでくるなんてとオブシディアンは驚きながらもリュウキの話を聞く。



「それと同時に、サクラの師となり面倒も見てほしい。
サクラはあらゆる才能の塊だ。様々な分野において優秀が過ぎる程のポテンシャルも持ち揃えている。それ故に、サクラに指導できる者は…まず居ないだろう。
我が国ではお前かフウライくらいしか、サクラの師となれる者はいないと断言できる。
…しかし、フウライはサクラと同い年。プライドのクソ高いサクラは同い年のフウライは師というよりライバルとしてしか見ないだろう。
そうなれば、お前しかいない。

サクラは、将来的に我々の想像を超える恐ろしい力を手に入れるだろう。

その力をコントロール出来なければ、制御できず力を暴走させ周りに多大な被害をもたらす危険性がある。

正直、サクラの能力や力は未知数で計り知れないところがある。本人でさえ自覚していない部分も多い。

…サクラは、血の繋がりはないが家族の一員だと思っている。無理矢理例えるならば、年の離れた生意気な弟といったところか?
付け加えるなら、俺の一人娘を狙う悪い虫だ。

それはさておき
それは、アイツも同じで血の繋がりはなくともお婆や俺、そしてお前の事も家族の一員だと認識しているように見える。

だからこそだ。

きっと、世界一高い山より深海より深いプライドでショウ以外、誰の下につく事も許さないサクラだ。
しかし、間違いのないよう道を導く者がいなければ、サクラはとんでもない事態を起こすだろう。

それを防ぐ為にも、サクラを真っ当な道に導いてほしい。

それができるのは、サクラより実力も力もあり家族の一員であるお前にしか頼めない事だ。

…頼めるか?」



王が直々に、オブシディアンに頼み事をしてきた。しかし、こんな自分がそんな大事な任務を請け負っていいものかと悩み、答えが出せずいた。…が、



「サクラの事もそうだが、
一番に頼みたい事はショウを守ってほしい。
あれは、俺にとってはかけがえの無い大切な一人娘だ。お前のあの大失態は許せない。
だが、いくら考えても娘を託せるのはお前しかいない。俺は、怒りや憎悪よりも娘の安全を優先する。
だから、癪だがお前に頼む他なかった。
やれるな?」



脅しとも取れるリュウキの命令に



『御意。』



と、オブシディアンは即座に返事を返し深々と頭を下げたのだった。



ーーもう、間違えてなるものかーー




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