イケメン従者とおぶた姫。
オブシディアンの術により、ショウの夢の中へと入っていたシルバーは時間になり夢の中から意識が戻ってきた。

シルバーは、ふと目を開くとショウの頬に手を添えジィ〜…っとショウの寝顔を眺める。

パッカリと口を開き小さくイビキをしている巨体は正直可愛いもんじゃないだろうが二人にとっては違うようだ。


「明日、ショウ様が起きたら紅茶に蜂蜜を入れてお出ししますね。」


シルバーは、イビキと口呼吸で喉を痛めさらに喉がカラカラになるであろうショウの為に毎日それを用意している。
もちろん、ショウの体の為にアロマの加湿も欠かさない。
それもショウの体調や気分に合わせ飲み物の種類もアロマの香りも変えるといった徹底ぶりだ。

だが、残念ながらシルバーのこの徹底したお世話っぷりを小さい頃からずっと見てきたオブシディアンは、それを大しておかしい事だとは思わなかった。それが、三人にとって“普通”なのだ。

しかし、シルバーが思春期に入ってから日に日に、お世話のスキンシップがあまりに激しく度が過ぎてきたので、そこはさすがのオブシディアンもお世話はお世話でも“別のお世話”になってしまいそうだと危惧し、それを垣間見た時は王に報告していた。
当たり前だが、いざという時は止めに入るが。それも自分の任務の一つなのだから。


それでも、これだけは言える。
シルバー(仮名)とオブシディアン(仮名)は
ショウに関してだけは色々とバグっているのは間違いない。(オブシディアンの場合は長い時間をかけシルバーに感化されての事だが…)


『…しかし、ベス王は何故、ショウ様に“あの宝石箱”を開けさせようと躍起になっているのか。』


高度な術を使い疲れを癒す為、オブシディアンは上質のソファーに腰掛けると水で喉を潤しシルバーに問いかける。
ほぼ間違いなく“強欲な醜女と絶美の宝石”の伝説が関わっているのだろう予測はできるが。そう考えているオブシディアンに


「ああ、あの空っぽのガラクタの事か。」


クッ…っと、一瞬だけ悪役の様な悪い笑みを浮かべシルバーは言った。

いつもながら、ショウ以外の者には口も態度も悪いなとオブシディアンは苦笑いする。
ショウの前では猫被りもいい所だ、なんて、
シルバーの豹変ぶりに呆れつつも疑問が生じた。


『…空っぽ?ガラクタ?どういう事だ?
何故、そんな物をショウ様に開けさせようとしているんだ?』


何かを知っている風のシルバーを不審に思い聞いてみた。


「さあな?さしづめ、あのガラクタの中に“絶美の宝石”が入っているとでも勘違いしているんじゃないか?もしくは、絶美の宝石を探す手掛かりがあると考えてるのかもしれないな。」


…なるほど。
確かに、その可能性は大いにある。大いにあるが…


『…シルバーさんは何故、その宝石箱が空っぽだと分かるんだ?』


そこが不思議でならない。
そもそも、この国に来て“強欲な醜女と絶美の宝石”の伝説を聞いてからシルバーの様子がおかしい気がする。
それに、妙に隣国のムーサディーテ国へ行く事を拒んでいるのも引っかかる。

しかし、シルバーの次の言葉にオブシディアンは驚きを隠せなくなる。


「絶美の宝石の体は“別の所”にあるし、魂は“ここにある”からな。」


なんて事をサラッと言ってきたからだ。
シルバーが嘘を言っている様に思えない。シルバーは嘘や冗談などを言うような人物ではないという事は、幼い頃からずっとシルバーを見守ってきたオブシディアンはよく知っている。


『…どういう事だ?シルバーさんは、絶美の宝石を知っているのか?』


謎だらけの答えをシルバーが知っているかもしれないと思ったら、オブシディアンは質問をぶつけ答えを導き出すしかない。


「…ああ。」


『絶美の宝石とは一体、何なんだ?』


「…存在してはならない悍ましいもの。
アレは絶対に復活さてはならない。」


絶美の宝石について質問していくと、シルバーの機嫌はどんどん急降下し段々と不機嫌そうに顔を歪ませていった。

…しかし、何故だろうと二人は思った。


「…おかしいな…」


『…ああ。何故だか、自分が思った事を何でも喋ってしまってる気がする。』


ここまで来てようやく二人はハッとした。


…しまった!!!


と。まんまとハメられた!
そう、二人は感じたが


「……クソッ!!俺の計画が!!!
ここに居れば、少しの間だけでもショウ様に何不自由なく過ごしてもらえると思ったのに。
あのクソ外道共と離れる事ができると安心してたのに!
ムーサディー……ンググ……!!!!!」


シルバーは、次々と出る自分の言葉に焦りながらもショウからソッと離れ丁寧に布団をかけ直すと両手で自分の口を塞いだ。
こんな状態にも関わらず、ショウ第一の姿勢にはオブシディアンも恐れ入ると思った。


『…ボクはまんまと相手の術中にハマってしまっているのか。……情け無い……
これが、何の魔導なのかも分からない。ただ、特殊な魔導だって事は分かる。…医療魔導の一種?…いや、それとも違う!』


と、二人が焦っていた時だった。


…ガチャッ!


いきなり、扉が開く音がした。

自分とした事が気配を感じ取る事ができなかった!と、二人は驚き、ドキッと飛び上がる心臓を何とか抑え

そこを見ると


…な…なんで、こんな所に?


二人は、目をまんまるくしながら、そこを見た。


「…ククッ!天才二人が揃ってるってのに情けないな。」


と、憎まれ口を叩きながら意地悪そうな笑みを浮かべこちらを見る王と


「アッハッハ!!驚いたよ。マジだった。
お前の目は、一体何でできてるんだ?特殊装置でも仕込んでたか?」


なんて豪快に笑いながら王に冗談混じりに感嘆の言葉を掛けると、すぐにこちらを向き


「待たせたな!もう、大丈夫だぞ。
…って、言っても分からないか。アッハッハ!!とにかく、もう大丈夫だ。安心しろ。」


と、よく分からない事を言っている、騎士団長がいた。この人は何にも考えてないようなバカに見えるのに、何故か安心してしまうのはどうしてだろうか?

どうしてだか、この二人さえいれば安心だ、大丈夫だと思ってしまうのが不思議だ。



「これは“幻術魔導”の一種らしいな。
…ほぉ。ある程度気を許している相手でなければ喋れない仕様になっている感じか?

つまりは、こういう事か。

安心できるような環境を用意し、安心し気が緩むと気の許せる相手に自分の考えてる事を会話として“普通”に喋ってしまう。自然と口に出してしまう。

あまりに自然に話すから、多くの者達は自分が隠していた事も何もかも喋ってしまっている事に気づかない。

この魔導の弱点は相手の警戒心。
警戒していると、相手の心の隙間に上手く入り込めない。入り込めないと騙す事ができない。

相手の警戒心を解かなければ、発動できない魔導といったところか。

人の心理と錯覚を上手く使った戦法だな。

“普通に見せかけたまやかし”

それが、この城にかけられた魔導なのだろう。」



と、リュウキは自分の考えを口に出した。



「私は難しい事は分からないが。
まあ、トリックとかマジックみたいなもんか?
…ああ!あの壁も“トリックアート”みたいでビビったな!アッハッハ!!」


「…驚いた。…ハナ、お前がトリックアートという言葉を知っていたのか。」


「アッハッハ!リュウキ、お前はアタシの事をバカにし過ぎだ。戦場でよく使われていてな。よく、アタシはそれに引っ掛かりそうになってはフウライを怒らせてたよ。アッハッハ!」


リュウキは、おバカで何の考えも無しに
“いけいけ!GO、GO!!イヤッホーイ!”と、元気良く突進して行くハナを必死に止めるフウライの姿が容易に想像できてしまい
…今までおバカなハナが無事でいられたのは苦労人フウライのおかげだと考えた。
フウライにこんなバカのお守りをしてもらい苦労させてる事に、王としてハナの親友としても申し訳なさを感じ頭を抱えた事は数えきれない。


「…お前…フウライに感謝しろよ?」


フウライの心労と気苦労を考え、呆れ混じりにハナに忠告すれば


「お?いつも感謝してるぞ?アッハッハ!」


なんて、豪快に笑うハナを分かってるんだか分かってないんだかとリュウキは益々頭を抱えるのだった。

そんな話をしていると


パチパチパチ


「さすが、商工王。ご聡明な方だと聞いていましたが、これほどまでとは恐れ入りました。」


拍手をしながらニコやかにベス王が、いつもの部下の青年を引き連れやってきた。


「これはこれは、ベス帝王。手厚い招待、有り難く存ずる。ところで、我が娘も大変世話になったようだ。」


急に現れたベス帝王に、何事もなかったかのようにリュウキは後ろを振り返り笑みを浮かべ
ベス帝王に毅然とした態度で挨拶した。

これには、オブシディアンとシルバーは伊達に王はしてないなと敬服した。

意外な事にオーバーリアクションすると思われたハナだが、表情を変える事無く笑みを浮かべたままリュウキの後ろに控えた。
ぎこちない動きではあったが、一応これでも騎士の頂点たる人物である。最小限の礼儀と長としての威厳は守っているように見える。


「いえいえ。商工王の娘さんですからね。当然の事ですよ。少々長話になりそうだ。」


ベス帝王は自分達に非があるにも関わらず悪そびれる風も無くそう言ってのけながらも
自分達が気配を消し、急に姿を現したにも関わらず少しも驚く素振りも見せず全く動じていない風な二人に内心驚いていた。

ベス王は城全体に幻術魔導を掛けており、相手の心理を上手く利用し自分の気配も思いのままに消す事が可能。…やはり、商工王は自分と同等かそれ以上の“幻術使い”だと確信していた。

それだけではない。様々な幻術の種類がある中で、ここにかけられた幻術を言い当てた。更に弱点まで…噂では聞いていたが、ここまで頭が切れるとは恐れ入ると心の中で感服しながらリュウキ達にソファーに座るよう促した。

実際、ソファーに座ったのはリュウキとベス帝王だけだが。
オブシディアンとハナはリュウキの後ろに控え、ベス兵の青年はベス帝王の後ろに控えた形だ。シルバーは、我関せずといった感じでショウを抱き締めたままベットに横になっている。
それをチラ見してリュウキは「…無礼は承知だが、あれは気にしないでもらえるとありがたい。」と、ベス帝王にシルバーの無礼を詫び承諾を得ると本題に入った。


「…さて。これ以上、ベス帝王に迷惑はかけられない。それに、こう見えて俺も忙しい身。
だから、娘を連れて今すぐに帰る。娘を預かってくれた事に礼を言おう。」


これは、ベス帝王の悪辣かつ無礼に目を瞑り穏便に済ませようというリュウキの寛大な計らい。

ところが


「残念ながら、まだ帰す訳にはいかない。」


と、ベス帝王の後ろに控えていた部下の青年が口を開いた。すると


「…ほう。それは何故か?ベス帝王殿。」


リュウキは、青年に向かいそう言った。


「やはり、気付いておいでか。流石だ。
まあ、それはさて置いてだ。商工王の娘には少々手伝ってほしい事があってな。」


青年…本物のベス帝王は眠っているショウをチラリと見るとそんな事を言ってきた。


「ああ。“強欲な醜女と絶美の宝石の伝説”か。」


「…そこまで、分かってるとは。さすがだ。」


よくぞ言ってくれたと言わんばかりに、家臣と場所を代わり本物のベス帝王はソファーに腰掛けると


「それについて、どこまで調べられたのかは分からないが。実は、それで困っている。」


と、ベス帝王は困った表情を浮かべ目の前のリュウキを見た。


「貴方の事情は分かりかねないが、こちらには関係の無い事。貴方の問題で我々まで巻き込まないでいただきたい。
まして、恥ずかしながら我が娘は、この通り出来損ないでな。貴方達の希望に添えるとは到底思えない。」


「しかし、どうやら貴殿の部下であるシルバーはこの伝説について詳しく知っている様に見える。現に、この宝石箱を“空っぽのガラクタ”と言い、更には絶美の宝石は“体は別の所にある”“魂はここにある”と言っていた。
どうも、それは適当な事を言っているように思えなくて引っかかっている。」


そう言った後、すかさず


「…だが、惜しかった。
シルバーもオブシディアンも優秀が過ぎるのか警戒心が強過ぎるのか。
普通ならば、一旦この術にハマったら自分でも気が付かないまま思った事をペラペラと喋ってしまうし抜け出す事が困難な筈なんだがな。
時間をかけて入念に術に掛かるよう仕掛けていたつもりだったんだけど…。
もう少し、術に引っかかってくれたら有り難かったんだが…非常に残念だ。」


と、ベス帝王は悔しそうに顔を顰めていた。

この為に、相当な労力を使った事が伺える。
しかも、シルバーはベス帝王の知りたかった事について知っている風だ。
それが、オブシディアンとシルバーが自分達の頭の回転の良さと優秀さを存分に発揮し、更にはリュウキとハナの登場でベス帝王の計画全てが水の泡となったのだ。

しかし、ここまで来たなら。伝説について何か知っていそうなシルバーを前にして逃せる訳がない。ベス帝王にとってシルバーは、一筋の希望なのだ。みすみす逃す手はない!何が何でも聞き出してやる、と、リュウキ達に古びた宝石を見せながら引き下がらない姿勢を見せるベス帝王。

だが、そこはリュウキも引っかかっていた。
出会った当初から謎だらけのシルバー。何故、こうもショウに執着するのかずっと不思議でならなかった。

もしかしたら、ここでその謎が解けるかもしれない…そう考えた時、少々癪ではあるが少々ばかりベス帝王の話に乗っても損は無いかもしれない。
そうリュウキは考え、一刻も早くショウを連れ帰りたい気持ちを抑えベス帝王と話す時間を設ける事にした。

そして、横目でシルバーを見れば


よほど知られたくない事があるのだろう。
妙に焦り青ざめているシルバーはショウに縋るように抱き締めなおすと


「…くだらない。あれは俺が適当に言った言葉だ。」


あくまで、自分は何も知らないというていを貫きたいようだ。

よく見れば、シルバーはカタカタと体を震わせている。何が何でも、ショウにくっ付いて離れる事はないのだけは分かる。


「いつも冷静沈黙なお前が、そんなに取り乱すなんてショウの事以外考えられない。
今さら、何をそんなに隠す事があるんだ?
お前自身の秘密か?

……それとも、俺達が知らないショウの秘密があるって事か?」


リュウキが質問を投げかけてもシルバーはショウの首元に顔を埋め無言を貫こうとしている。

これは、もうショウの秘密を知っていると言っている様なものだ。と、リュウキは苦笑いしてしまった。

どうも、シルバーは嘘をつけない性格らしい。
自分が興味の無いものには人であれ何であれ無関心で少しも気にする素振りもない。

お前に人の感情はあるのかと、問いたくなる程に背筋が凍る事も多い。

必要とあらば、罪の無い女や子供も何の躊躇も無く平気で殺すだろう。暗殺者向きなのではないかとリュウキは思う。しかし、自分に正直過ぎる性格なのでスパイは絶対的に向かないだろうなとも考える。

そんな冷血なサク…シルバーだが、ショウの事になると、どういったわけかとても感情豊かな人間味溢れた人間になる。
ショウと一緒にいる時だけ血の通った温かい人間になれる様に見える。
もっと言うなら、ショウ次第でシルバーは最強にもポンコツにさえもなってしまうのだ。良いも悪いもショウ次第。シルバーの全てはショウで決まると言っても過言ではない。

性格以外、完全無欠なこの男の取り扱いは本当に面倒極まりない。リュウキは少々気が引けるが、こいつの口を開かせるにはこれしかないなと一つため息をつくと行動に出た。


「…仕方ない。オブシディアン。」


と、リュウキはオブシディアンに手で合図をした。


「…御意。」


すぐさま、オブシディアンはリュウキの意図を汲み取ったのだが…これには少々気が引けたらしく少し反応が遅れた。が、王の命令なので遂行した。

何が起きているのだろうと、ベス帝王が首を傾げているところ


「…ふぁぁ〜〜…」


さっきまでグッスリ眠っていたショウが、眠い目を擦りながら目を覚まし


「…ん?……んん???ヒャッ!?
…え!??さ、サクラ?
どうして、サクラがここに!!?…え?
こ、これって、いつもの“夢”?」


と、自分を抱きしめている人物を見ると驚きでパニックを起こしていた。
だって、いる筈のない人物が自分を抱き締めているのだから。

それに対し


「…ああ、これは夢だ。夢だから気にするな。」


リュウキは、ニッコリ笑ってショウを見ていた。


「お、お父さんもいるっ!!」


ショウは、もうビックリが過ぎてガバッと大きな体を起こし、サクラとリュウキを交互に見て何がどうなっているのか混乱しポカーンとしていた。

シルバー…サクラは、ショウを起こしたリュウキを睨み何か言ってやろうと思ったが、ショウを怯えさせてはいけないと本当は言ってやりたい暴言の数々をグッと飲み込んだ。

これ以上ショウを混乱させては可哀想だと、サクラはショウの背中をさすり、ひたすら「大丈夫です。私がついています。」と、安心させようと宥めていた。

それを見て、不器用にも程があるだろと呆れながらリュウキは


「…ショウ、これは夢だ。
どうやら、俺達は悪い奴の魔法で夢の世界に入り込んでしまったみたいだ。」


と、ショウに説明した。


「…えっ!?悪い魔法使い!!?」


リュウキの説明にみるみるショウの顔は青ざめていき怖くて泣きそうな顔になっていた。そんな我が子をリュウキは馬鹿で可愛いと笑いを堪えられず


「…ブフッ!…クク…、いや、大丈夫だ。
俺が金の力で、世界一の魔法使いに頼んで
悪い魔法使いを兵に捕まえてもらった。
…クッ…!後は、夢の中から脱出するだけ…フフ…だ。
だが、それには色々準備があって時間がかかるそうだ。だから時間になれば、この夢から出られる。あはは!!」


笑い混じりに適当な嘘の説明をしているのに、それを真剣に聞くショウの姿が可愛くて面白くて、こんな誰も騙されない様なでっち上げをこんな必死な顔で…嘘だろ、おい。
馬鹿だ、なんて馬鹿すぎるんだ…なんて滑稽で可愛いんだと最後は我慢できず腹を抱えて笑っていた。

こんな大変な時に、どうしてリュウキが大笑いしているのか分からなかったがショウは、きっと助かって嬉しさのあまり笑いが止まらなくなったんだろうなと思った。

そう思ったら、ショウは凄く安心できたし
何より夢であっても大好きなサクラとリュウキに会えた事が嬉しくて嬉しくて堪らなかった。

だから、嬉しさのあまりショウはニッコニコだった。

その様子を見ていたハナは


「…素直というかバカというか…リュウキ、あの子は本当にお前の子か?」


思わず、リュウキに訊ねてしまっていた。


「バカに、うちの馬鹿娘を馬鹿と言われたくないな。…ブハッ!」


馬鹿にするなと言う割にリュウキは、可笑しそうに笑う姿にハナは驚きを隠せずいた。
長年の付き合いだが、コイツのこんなに緩んだ表情を見た事がなかった。
何より、ショウを見るその目は親そのものだな。と、感慨深い気持ちになっていた。

視線をリュウキからサクラに移すと、サクラはニコニコのショウをぎゅっと抱き締めたまま


「ショウ様を愚弄するな!それでも、お前は父親か!!ショウ様は馬鹿などではない!
少しばかり、頭の中が抜けているだけだ!」


と、プンスコ怒っていた。


「…ブァッハッハッ!!さ、サクラ。それ、もうショウの事を馬鹿と認めてる様なもんだぞ?」


リュウキは更に腹を抱えて笑い、そんなリュウキにサクラはますます怒ってフォローにならないショウのフォローを続けるのだった。

それをベス帝王と家臣は呆れて呆気にとられながらも


「…本題に入りたいんだが…大丈夫だろうか?」


と、リュウキに訊ねるのだった。
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