イケメン従者とおぶた姫。

はじめての別行動。

さてさて、一日午前、午後二時間づつ、計四時間というショウとの別行動を旅のルールに組み込まれてしまったサクラとロゼは

別行動の時間帯は朝食、昼食後に別行動をする事で決定した。それは、せめて食事はショウと一緒がいいという気持ちからだ。

朝食を食べ終え、ショウの歯磨きやら身支度やら「知らない人に声を掛けられても着いて行ってはいけませんよ?」「危ない時は大きな声で助けてと叫んで下さいね?」「危険だと思ったら近くの大人に助けを求める、お店やなどに逃げ込み…ーー」など、別行動での注意事項の説明を入念にしている内に既に時間は9時を過ぎてしまっていた。


『…サクラさん。心配なのは分かるが、もう時間だ。それに、ショウ様は一人で行動するわけではない。ボクかシープどちらかが必ず付いている。』

オブシディアンは、心配のあまり別行動での注意をかれこれ一時間弱、言い方を変え同じ事をループし喋っている内に何か感極まってしまうのだろう。
時折、注意の合間合間にショウをギュッと抱きしめ沈黙の後、ゆっくりとショウから体を離し、また注意をする。これの繰り返しだった。

同じ事を繰り返しているのでキリがない。

ロゼはロゼで、ショウの首に両手を回し(…全然回しきれてないが。)ビッタリとくっ付き

「ヤじゃぁぁ〜〜〜!離れとうないぃぃ〜〜!!お主様ぁぁ〜〜〜!!!」

と、泣いて駄々をこねていた。

そして、時折感極まったサクラがショウに抱きつく事で二人の間に挟まれ

「…グェッ!!?」

と、押し潰されカエルの潰された様な声を出していた。原因がサクラだけなら、ぶっ飛ばしていたが目の前には大好きなショウがいる為、下手に動けなくて苦しそうにしていた。…なんか、ちょっと可哀想だ。

そんなこんながあり、サクラとロゼは断腸の思いでショウと別行動に出たのだった。

サクラは少しでも考える隙ができるとショウの事が心配で堪らなくなり気が気でなくなるので、それを振り切る為に仕方ないので別行動を使い午前中は勉学、午後はトレーニングをする事にした。

ロゼはショウと離れたら、何をしたらいいのか分からないし何にもやる気が起きないので、街の中で一番高い建物の上にゴロリと寝転がりボーと空を眺めたり、下を見下ろして人や動物達の様子を見て暇つぶしをしていた。

最初のうちは、一番高い所からのんびりとショウの様子を眺めてようかとも思っていたのだが、自分が居ない所で楽しそうにしているショウの姿を見るのが何だか嫌でワザとショウを見ない様にしている。

それでも、やっぱり気になって自分でも気がつかないうちに自然とショウの姿を追ってしまうのは仕方ないだろう。


「…ふふ。お主様が花を見ておる。お主様は可愛らしいのが好きなんじゃなぁ。」

なんて、ショウを眺めほっこりして視界の中にオブシディアンが入るとハッとし

「…い、いかん、いかん!お主様を見んようにしておったというに!ついつい…」

と、ションボリ耳と尻尾を垂れ下げて身を丸くしてただただ時間が過ぎるのをまだかまだかと待っていた。

…ちぃ〜とも時間が進まんじゃもん!

最悪じゃ。こんなのが午後もあると思うと憂鬱で仕方ないのぉ…。


なんて、時間を持て余し上から人々の様子を見下ろし


「…なんと愚かな人間共よ。神聖なる国と言われておっても少なからず心苦しい事をする輩もおる。絶対や完全というものは無いもんじゃのぉ〜。
ま!絶対や完全といえば、我のお主様に対する気持ちくらいじゃの!!絶対は我の為の言葉じゃ!ナ〜ハッハッハ!!!」

シ〜ン…

「••• •••。」

ショウがいない寂しさで、声に出して喋ってみるも虚しくてロゼはゴロリと仰向けになり青空を眺めながら考えていた。…自分についてだ。


…しかし、天守は常に天と共にある筈じゃ。

なのに、お主様は既に二回、転生してると聞いた。…いや、本来なればお主様は不老不死故、転生をするという事自体おかしい事なんじゃが…。

じゃが、サクラの話からするにお主様は記憶ごとそこから逃げ出したいと思ったやもしれん。ならば話も変わってこよう。
お主様が心の底から“そう願った”のであれば可能。

そこまでは、お主様が可哀想過ぎて納得したくはないが納得する話。

問題は、我とサクラとダリアとかいうブッ飛んだイカれ男じゃ。

何故に最初、サクラは神獣の姿で記憶を無くし遠く離れた別の国にいたのか。ダリアがお主様の天守、剣としてそこに立っていたのか。

…そして、我はその時どこにいたのか。

お主様が生まれているというのに天守である我が生まれてないなどある訳がない。だのに、あろう事か我にとって代わりダリアが天守としてお主様の側に居た。

お主様一度目の転生の時。サクラは実体の持たない不完全な物体として生まれ変わってしまった。ダリアは、お主様と同じ“人”として。

…では、その時我はどこに居たのか?

ーーーそして、ダリアが何かに封印されている今現在。

お主様は二度目の転生、サクラは今回こそは“人”としてお主様の側にいる事ができている。我も今はお主様といる事ができてはいるが…おかしい…。

天が生まれていたにも関わらず、我はお主様がこの地を訪れるまで生まれてくる事はなかった。

ドクン

…おかし…

ドクン

…何かが、おかしい…

何故、故郷の天上界ではなくこんな下層の世界に我々はおる?

しかも、我にしろサクラにしろ、お主様が生まれた所からこんなにも離れた場所に生まれておる?

本来なれば、我々天守はお主様をお守りする為お主様より早くに生まれお主様が生まれてきた時の為に様々準備をする。

何より、天守は天が生まれてくる場所のすぐ近くに生まれてくるはず。

それが、サクラは“別の星”に生まれ。
我なんぞ、お主様と同じ星であっても離れた国。しかも、今、生まれてきた。

もし、お主様がこの国を訪れなければ…我は…そう思うとゾッとする。


まるで、我とサクラは天守の欠陥品の様じゃ。


特に我は…お主様が辛く苦しい時も、側にさえ居なかった出来損ないの天守…天守と名乗るのが恥ずかしいくらいじゃ。

…悔しい…

…ヘッポコ過ぎるのぉ、我…

…情けなか…


しかし、そこでやはり引っかかってくるはダリアの事よ。

ダリアという男は一体何者なんじゃ?

何故に、そこまでにお主様に執着する?

何故に、ダリアは天守と偽りお主様の側に居続けたのか。


そもそも、お主様の正体を分からぬ時点で天守ではないがの。

お主様の事を分かりもせず、お主様を嘲笑い蔑ろにするとは…なんと愚かな男よ。

否。その前に我であれば、お主様が何者であっても無かろうとそれは些細な事にすぎんがな。
そこのところが、我ら天守とダリアとでは大きく違うのかもしれぬ。


しかし…と、ロゼは考えた。

自分は本当に、今初めて生まれたばかりなのだろうか?

ショウと離れた今、時間を持て余し余計な事ばかり考えてしまう。

…う〜ん、う〜んと思い出してみる。

だが、やっぱり記憶がない。

しかし、今現在の自分の容姿に違和感を感じている。

…はて?

自分はこのような中性的な容姿をしておっただろうか?

…なんか、もっとこう…

なんて懸命に思い出そうとしていた時だった。

…ん?

そういえば、我は…一瞬だけ本来自分の居るべき場所の風景が見えた筈じゃ。

…ドクン

じゃが、瞬間…真っ暗い闇に飲み込まれ…それからが記憶がない。

ドクン

…次にある記憶は…

ドクン…! 

…嫌な感じじゃのう。

なんか、考えれば考えるほど恐ろしい事の様な気がする…や、やめじゃ、やめじゃ!
こ〜んな、気のせいかも分からぬ事で不安になってどうするんじゃ。

…ハア…

はよう、お主様に会いたいのぉ。

…お主様ぁ〜。我、寂しい…

…クスン…

なんて、考えている内にいつの間にか寝てしまっていたロゼは

「…ムニャ…お、お主様ぁぁ〜ん。
…アッ…そ、そのような…!…いにゃぁぁ〜〜んっ!もっとぉ〜!
…にゃっ!?しょ…しょこわぁ〜アア〜〜ンッ!…にゃん、にゃん…にゃぁぁ〜〜〜んっ!!」

と、体中を熱らせ片足をピンと伸ばしピクピクし悶え喜んでいた。なんだか、とっても思春期真っ盛りな夢を見ているようで幸せそうである。

しかし、幸せな夢もここまで。


「……誰じゃ?我の眠りの妨げをする者は。」


ロゼは何者かの気配を感じとり、何者かが自分の前に来る前に起き上がり待った。

ショウ以外に、隙を見せるのが嫌だったからだ。


「…っっっ!!?
流石です。気配を消して来たつもりでしたが…。私が来るが分かっていらしたのですね。」

そう言って現れたのは……
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