イケメン従者とおぶた姫。

体に宿る記憶。

サクラとロゼが、ショウの精神の中に入り込み判明した事。それは、ショウの精神の中にダリアの心の欠片が侵入していた事だった。

ショウを苦しめるダリアの心の欠片を追い払う為、急遽ダリアの心の中に潜り込んだサクラとロゼだったが

ここで、ロゼの驚き発言により、みんなロゼの美的感覚を疑うのだった。


“…はあああ!?そのデブスが、絶世の美女だと?愛らしいぃぃ〜〜!!?お前の目は節穴かよ。それのどこをどう見たら、そう思えるんだ!!?”

と、ダリアは、疑いの目でロゼに聞いてきた。


「ふむ。逆に聞くが、そんなデブスに何故こうも執着するんじゃ?そんなに毛嫌いしてるなら、ソチが気に入った者と一緒になれば良かろう。」


“…ハ?ハァ"ァ"ア"ア"ア"ッッ!!?
そんな簡単だったら、こんな苦労してねーんだよっ!”


「う〜む。我は、いくらソチの心が流れ込んでこようともお主様を否定ばかりする気持ちが理解できぬ。こんな事を【本物】でない、今まで生きてきた気持ち・思いだけのソチに言うたとてしょうもない話なんじゃろうが…。」


ロゼとダリアの口論を聞いていて、サクラはある言葉に引っ掛かりを感じた。

「……?【本物】じゃない?どういう事だ?」

思わず、疑問を口に出すと


「…えぇ〜!?そんなのも分からんとは…フー…。仕方ないのぉ〜。」


ロゼは大げさに驚いてみせ、ヤレヤレといった風にドヤッ!と、していた。

その様子にサクラは、イラッ!としロゼを睨みつけた。


「アヤツは、【本物であって本物】ではない。」

「……は?なんだ、それは?」


ロゼのまどろっこしい言い回しにサクラは、イライラが募るばかりだ。

ショウは、自分がダリアに罵られてる事以外、難しい事ばかりで理解が追いつかずポケ〜…と、している。


「アヤツは、アヤツが生きていた頃の気持ちや思い出の【記憶】じゃ。つまり、我々は奴の過去の記憶と話をしておるって事になる。
今現在のアヤツの心(魂)は、ここには無い。ここにあるのは、アヤツの体と体が記憶している過去の記憶、思い出のみじゃ。」

と、説明した所で、サクラはある事を思い出していた。幼少期、お婆から聞いた昔話だが、物や体の細胞の一つ一つには、使っていた人や動物達の気持ちが宿るのだと。そんな話を聞いていた事があったが、まさかそんな事が本当にあるだなんてと驚きダリアを見ていた。

サクラに説明し終わったロゼは、再びダリアに話しかけた。


「まあ、そんなソチにこんな事言うてもしょうがないが。要するに、ソチは一番に世間体が大事なんじゃろ?」

ロゼに言われ、ダリアの精神に半分以上侵蝕されているサクラもそれを感じていた。
自尊心の塊であるダリアは全てにおいて完璧を求めている。【全ての者達に尊敬の眼差しで見られたい】【崇められたい】…など、そういった願望の塊でもあり、それが叶わないとヒステリックになってしまう。


「世間体が一番じゃから、周りの反応が一番欲しくて、それでいて一番恐ろしく感じておる。
じゃから、周りの目を気にして何もかもを最新のブランド物でガチガチに身を固めたいんじゃろ?
どうじゃ!凄いじゃろって周りに見せびらかしたいんじゃろ?」


「…テメー、ムカつく!」

その通りだが、それを言葉にされるとかなり腹が立つ。ロゼの言い方も悪いんだろうが。


「我とて、ソチがムカつく。いつまでも我の愛おしいお主様にまとわりつきおって。
そんなに世間体が大切なれば、世間体と結婚すれば良かろうに。」

本当にムカつく。何なんだ、コイツは!自分にこんなに楯突いてくる奴なんていなかったぞ!…いや、居たな。あのクソムカつく【ビクター】アイツだけは……クソッ!!
と、自分の思い通りにいかないロゼに腹が立って仕方なかった。


「安心せい。ソチが【デブス】【無能の】と罵るお主様の事は、我にとっては何を差し置いても掛け替えの無い唯一無二の愛おしい存在じゃ。」


そう言ってくるロゼの言葉は、今のダリアにとって未知なる世界へと突入し思考が止まりかけ焦っていた。

…は?


「じゃから、ソチがお主様に感じるその気持ちだけはどうも理解しがたい感情じゃ。
じゃが、お主様がモテないというのならばラッキーじゃ!その分、我が大好きなお主様を独占できるんじゃ!最高に嬉しい!」


と、本当にそう思ってるのだろう。嬉しくて、思わずぴょんぴょん飛び跳ね喜ぶロゼの姿は、ダリアにとって驚きでしかない。

そして、その気持ちめちゃくちゃに分かるとサクラは、自分以外にそう思う人物の登場にショックを受けていた。

自分だけだと思っていたのに…と。


「ソチが嫌で嫌で堪らぬお主様に、我はゾッコン、メロメロじゃ。お主様を知れば知るほどに狂おしくも可愛らしゅうて毎日が楽しい!」


ロゼの気持ちや考え方に、過去では感じた事のない衝撃を受けたのだろう。
知らない思いに対処できず容量オーバーの為、ダリアの過去の記憶はスッ…っと消えてしまった。

それと同時に、ロゼは問題を解決したと判断しショウ達を連れショウの精神の中から脱出したのだった。

脱出した瞬間、サクラは自分の心はしっかりショウにある事が確認できると

先ほどまでのダリアの心に侵食されかけていた自分の気持ちが恐ろしくなり、思いが溢れ縋るようにショウに抱きつき…泣いた。


「…違うんです…違うんです。…申し訳…ありません…お許しください…」

多分、あの事だろうなとだいたいの察しはついているショウだ。

あの黒い少年によってサクラの心がおかしくなってしまったんだなという事は何となくだが理解していた。

みんなの話を聞いていて全部は理解できなかったが、部分的に何とな〜く分かった所もあったのだ。


「…サクラ、大丈夫だよ。サクラはあの黒い人のせいでおかしくなっちゃったんでしょ?
サクラは全然悪くない。それに、サクラとロゼが助けに来てくれたおかげで、もう変な声聞こえなくなったよ!ありがと!」

と、お礼を言ってきたショウに、サクラは嬉しさが込み上げてきて声をおし殺し泣いた。


「うむ!お主様が、無事で何よりじゃ。」

ロゼもご満悦そうに笑みを浮かべると、嬉しそうにショウをギュウギュウに抱きしめ頬ずりしてきた。


オブシディアンとシープは、無事に解決した様子のショウ達を見てホッと一安心していた。


大聖女達は、急に動き喋り出したショウ達に驚きを隠せない。
しかし、目を開いたサクラとロゼの何と美しい事か…思わず、ホゥ…と見惚れてしまっていたがショウが目に入った時、正気を取り戻した。

と、同時にディヴァインの様子が気になりそこを見ると先程まであった魔法陣らしきものは消えている。


「…な、何が起きたというんだ!!」

大神官は、よく分からないこの状況に狼狽えている。もちろん、大神官だけでない。大聖女達もみんな、何がなんだか分からなくパニック状態になっている。

それを見ていたロゼは、面倒臭そうに小さく息を吐くと


「…あ〜…、パニックになっとる所、すまんが…。はよ、そこにおる“美少年”を持ち帰ってくれんかのぉ。」

と、大聖女達に声を掛けた。

急に声を掛けられた大聖女達は、どうしたのかとロゼに注目した。


…うわっ!

面倒くさっ!!なんで、我がこんな事せにゃならんのじゃ…

サクラは嘘をつけない不器用者で機転も効かないし、こういう時役に立たないという事はこの数日でよぉ〜く分かったし。頼みの綱のオブシディアンはあいにく今の状況を判断できていない。オブシディアンが理解できていないのだからシープは論外。

と、なるとこの場を抑えられるのは自分しかいない。

ロゼは心底面倒であったが、このまま傍観してても面倒事が増えるだけだと判断し仕方なく動いたのだった。


「我々も、休んでいる所に急にその“美少年”が現れて驚いとったんじゃ。
ビックリし過ぎて、我らの主が何が起きたのかとパニックを起こしてしまっての。我とその者と二人力を合わせ、主の心を落ち着かせる“安らぎの魔導”を施しとったんじゃ。」

と、いかにも自分達は被害者です。困ってますという風に、最もらしい事を言って訴え掛けてきた。


「…そ、そうだったのですね…」

大聖女は、何とか冷静さを取り戻しロゼの訴え掛けを聞いていた。
その言葉を聞いてオブシディアンも、なるほどと思い様子を窺っていた。


「何故“その美少年”が、ここに現れたのか我々には分からぬが、もしかしたらこの場所が何か関係しておるのかの?分からぬが。」

ロゼは“不気味”とか、“怖い”といった類の言葉を使えば、ダリア(ディヴァイン)を崇拝している大聖女達の反感を買い面倒になると思い、慎重に言葉を選びながら話を進めていった。


ほんに、なんで我がこんなに気を使わねばならんのじゃぁぁぁ〜〜〜っっ!!!?

…しんどい…

本っっっ当に、面倒くさくてかなわん

終わったら、いっぱいお主様に慰めてもーらお

と、内心、プンスコプンスコ怒っていた。


「とにかく、我々は“美少年”が現れたと思ったら、ソチ達も押し入ってくるわで意味の分からん状態での。」

あくまで、被害者面を押し通していると


「それは、非常に申し訳ない事をしました。こちらにおります、あなた方のいう“美少年”とはこの国の神であり王なのです。私達は、ここへ王を迎えに来たのです。」

と、この国の者でない人達が聞けば、ちんぷんかんな話ではあるが…

さっさと、ここから立ち去ってほしいロゼは


「ソチ達の事情は分からんが、早よ用を済ませてくれんかの?我は、とても疲れてるゆえ早く休みたいのじゃ。」

と、自分なりに控えめに控えめに言った。


「…そ、それは、疲れている所申し訳ありません!ですが、こちらの用事はまだまだ時間が掛かります。…ですので、もし宜しければですが。こちらで宿を用意しますので、あなた方がこの国に滞在する間そちらでお寛ぎ下されば幸いです。」

大聖女が、そう御好意をくれたのでショウ達はそれに甘える事にした。

だが、シープはかなり不服であった。何故なら、大聖女や大神官達の態度がオブシディアンとロゼでは全く違っていたからだ。
何故ロゼが喋るだけで、こんなにスムーズに話が進むのか理由は分かってる。容姿の違いだ。

何事においても容姿が整っているだけで断然有利な世の中である。容姿が整っているというのも才能の一つではあるが。

それは、生まれ持ったものだから仕方ないが。

だけど…だけどだ。

だけど、理不尽過ぎて悔しい。何が聖なる国だ!何がみんな平等だ!全然違うじゃないか!悔しい、悔しいっっ!!

人は生まれた瞬間から、差別があるのかと世の中を恨んでしまいそうだ。

と、怒りに燃えたぎっているシープもとても美しい青年なのだが。ただいま、本人はその事さえ忘れオブシディアンの代わりに悔しがっていた。

その様子を見てオブシディアンは、何故こうも人の為に思いやり怒れるのかと驚きつつもシープが自分を思って怒ってくれている事に心が救われたような気持ちになっていた。


そして、ディヴァインのいるこの部屋を出る時、ショウは何故か後ろ髪が引かれる思いがして悲しい気持ちになっていた。

同時に、黒ダイヤの中にいるディヴァインの目から涙が流れ出した時には、大聖女達は何が起きたのかと、またパニックになっていた。


それを、横目で見ていたロゼは


…ほんに、難儀な奴よのぉ…

と、ダリア(ディヴァイン)の事を気の毒に思ったが、自業自得と割り切って部屋を出るのだった。

そして、ロゼはいつものように猫に似た獣に変化して、ショウの肩に乗ったのだが…


「…あ、あれ!?ロゼの姿が変わってる!」

と、ショウの驚きの声があがった。

コロコロした愛らしかった姿は、今は、シュッとカッコいい子猫と変わっていた。毛並みも、ミッドナイトブルーで美しい。


「…我の今の姿は、気に入らないかえ?」

不安そうな様子でショウを見るロゼに、ショウはギョッとして


「そ、そんなつもりで言った訳じゃないよ!
ただ、ロゼの姿が変わってビックリしただけなの。前は前で可愛かったけど、今はカッコいいと可愛いが両方あって…前の時も今も、ロゼはかわいいよ!」

と、慌てて弁解した。だって、普通に考えていきなり容姿が変わっていたら誰だって驚くだろうに…。

ロゼは、ショウにいっぱい褒めてもらえてパァァ…!と、ハッピーな気分になり嬉しくて、ゴロゴロ喉を鳴らしながらショウに全身を使って頬ずりをしていた。

それを見ていたサクラは、面倒くせー奴とシラけた表情でロゼを見ていた。
魔法衣のフードで顔を隠してはいるが、長年サクラを見てきたオブシディアンは何となくサクラの思っている事が分かり、人の事は言えないと思うなと心の中で苦笑いしていた。


一方のゴウランは一日のトレーニングを終え、全身筋肉痛でもがいていたという。

その様子を、ヨウコウやミオ達はたった一日でコレかよと呆れていた。これは、トレーニングは明日はないなと内心侮って見ていた。

ミミは、新しくできた彼氏の不祥事にあんなのと付き合ってたとか黒歴史だと思ったが、ミミにはい〜〜〜っぱい彼氏がいるので一人くらい消えたってヘッチャラだと開き直る事にした。

けど、やっぱ犯罪者と深い仲だったのは気色悪くて、そのモヤモヤを晴らす為に今日はクラブでいっぱいい〜〜っぱい遊ぶ予定だ。

ミミは今日も元気である!

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