イケメン従者とおぶた姫。
ショウは、とても驚いていた。

何がって…


「妹さんと一緒なんですかぁ?」

と、声を掛けてくる美女。それに対して、ショウと手を繋いでいるのを見せ


「娘と遊園地デートだ。」

リュウキはニッコリと笑みを浮かべ、ショウの手を引き足早にその場を去り美女をかわすが


「こんにちわ!突然、声を掛けてしまってすみません。」

「…いえ。」

「あの、実は場所を聞きたくて…。このアトラクションの場所を知りたいんですが教えてもらえませんかませ?」

と、パンフレットの地図を広げる美女数名に、リュウキは丁寧に教えてあげていた。そして、説明が終わると


「ありがとうございます。凄く助かりました!
良かったら、是非ともお礼がしたいんですがお時間大丈夫ですか?もちろん、妹さんも一緒で!」

なんて、言ってきた。

何度も何度も、こんな風に声を掛けられたら、さすがに疎いショウでも分かる。ナンパだ!


リュウキと一緒にいて、何度こんな風に声を掛けられた事か。

自然を装って、声を掛けてくる。中でもビックリしたのは目の前で体調が悪いフリをして、心配してくれたお礼がしたいと誘って来た美女もいた。

大丈夫かな?なんて本気で心配したショウは、それがリュウキの気を引く為の演技だったという事を後で知り、人の心配を返せとちょっとイラッとした。

凄い人なんて、とにかくリュウキがカッコいい、タイプだと褒めまくり、自分と遊ぼう、絶対面白いし飽きさせないよ!と、胸を押し付けたりして自分をアピールする美女なんかもいた。

リュウキが姿を見せるだけで色めき騒つく。
次から次へと、止めどなくナンパされる。

つまり、リュウキはモテモテだった。

ショウは不思議だった。

容姿なら、サクラやシープの方がリュウキなんかより断然イケメンだ。なのに、サクラ達が声を掛けられたのなんてあまり見た事もないし、騒つきチラチラ見られる事もない。

ロゼの場合、猫ちゃんの姿なので外しておく。

ヨウコウやゴウラン、ミミ、ミオが、たまにナンパされてるのを見た事はあるが、こんな感じではない。

ヨウコウ達に、声を掛けてくるのはちょっと遊びに行こうよ程度の軽い調子だ。

それに、リュウキみたいに周りが騒つきキャーキャー色めき立つって事もない。

何と言うのか…必死さが違うのだ。

イケメン具合なら、ヨウコウとさほど変わらないと思うのだが何故こうも違うのか。ショウには全く理解できなかった。


「…みんな、見る目ないよね。よりにもよって、お父さんをナンパするなんて。」

なんて、毒吐く娘にリュウキは驚いた。


「お前の口から、ナンパなんて出てくるとはな。」

「お父さん、私の事バカにし過ぎだよ!それくらい、私だって知ってるし!!」


しかしながら、今日はやたらと毒吐きツンツンしている娘にリュウキは反抗期が来たか…と、苦笑いしていた。

「…たまに、ヨウコウ様やミミさんがナンパされたの見た事あるし。ヨウコウ様やミミさんが、色んな人達をナンパしてるから知ってるもん。」


…やれやれ、アイツらはショウに悪影響しか与えないなとヨウコウとミミの素行の悪さに呆れつつ、リュウキは気になっていた事を聞いてみた。

「ショウは、サクラとロゼにプロポーズされたそうだな。返事はしたのか?」

なんて、いきなりそんな話を持ちかけてくるもんだからショウは、キラキラ夢見る乙女のメルヘンクレープという名の可愛らしいデコレーションのされたクレープを落っことしそうになって慌てていた。


「…は、はわわっ!あ、危なかったぁ〜!」

何とか、クレープ落下を防ぐことのできたショウはキッとリュウキを睨んで「お父さんが、いきなり変な話するから落っことすとこだったよ!もうっ!!」と、ぷりぷり怒っている。

…う〜ん…やっぱり、今日はとてもご機嫌斜めの様だ。

生理でも来たのかと思ったが、初潮の話はまだ聞いてないからそれは違うだろう。だが、どうしてこんなにご機嫌斜めなのだろうか?

せっかく親子水入らずで過ごせる、短い時間なのだから笑顔で楽しく過ごしてもらいたいものだ。


「で?二人からのプロポーズ、どうするつもりなんだ?」

リュウキは、クリームのつきまくっているショウの鼻やほっぺをハンカチで拭き取り世話をしながら質問を再開した。

自分の顔にクリームがついていた事が恥ずかしかったのか、ショウは「教えてくれたら、クリームくらい自分で拭けるのに!恥ずかしい!!」と、キーキー騒いでいた。

もう、どうしたらいいのかリュウキは苦笑いするしかない。

人気のアトラクションは、長蛇の列で待ち時間がとても長い。待ち時間を飽きさせない為の工夫もあるが、リュウキは待ち時間を利用してショウとお喋りがしたいと考えていたのだ。

いつも多忙のリュウキは、ショウと過ごす時間もごく限られている。だから、少しの時間さえも惜しいのだ。


だけど、こんな時間も…ああ、幸せだと感じてしまう自分は親バカなんだろうかと、自分で自分がおかしくなる。


「…どうしたら、いいのかな?」

…お?と、リュウキは思った。ショウは顔を真っ赤にして俯き、リュウキから視線を逸らしている。


「何に悩んでいるんだ?」

結局、最後はショウ自身が決断しなければならない事だが、できるだけショウが後悔の残らないよう自分がその道しるべになってあげられたらとリュウキは考えている。

結局の話、ショウが幸せならどんな形だって構わないのだが。


「…あのね…。お父さんにとって凄く残念な事言っていい?」

ショウが、物凄く言いづらそうにゴニョゴニョと言ってきた。
何事かと、ドキリとするリュウキだが、できるだけショウが喋りやすいように、ショウの頭に大きな手をポンと乗せると


「大丈夫だ、言ってみろ。」

なるだけ柔らかな声を出した。

すると、しばらくの間、俯きモゴモゴしていたが意を決したようにチラリとリュウキの顔を見ると


「…凄くいい辛いんだけど、私ね。全然モテないの。」

と、言ってきた。

どんな事だろうかと覚悟して聞けば、そんなくだらない事かとリュウキは、その内容に思わず「…ブフォッ!!?」と、吹き出しポンポンとショウの頭を軽く叩きながら


「それが、どうしたんだ?安心しろ。お前がモテない事くらい知ってる。」

リュウキは、大きな声で笑いたいのを何とか堪え、ショウに思ったままの事を伝えると、
一瞬ショウは大きく目を見開き、羞恥で顔を真っ赤にしミルミルと目に涙が溜まってきていた。

それを見てリュウキは、しまった!と、思ったのだが


「…お父さんは私の親だから、私が全然モテないって知ったら悲しいかなって思ったの。」

とても深刻そうに話す娘に、リュウキは


「笑ってすまなかった。お前が、いいづらい事を俺に打ち明けてくれたのにな。」

そう言って、ショウの体を抱きしめた。抱きしめた胸の中でショウは泣いていた。

そんな娘の頭を撫でながら、
ショウの悩みの内容がリュウキにとって、とても可愛らしく思えて、思わず笑ってしまった事をちょっとだけ申し訳なく思った。
ショウにとっては、こんなにも深刻な悩みなのにな、と。

だが、ぶっちゃけ超モテ男のリュウキには、ショウのモテないという悩みが分からなかった。悩み相談の人選ミスである。


優しくポンポンと背中を叩き、ゆらゆらと左右に体を揺らしてショウをあやしながらリュウキは、はて…?と、思った。


「モテないと言ってるが、お前は誰もが羨むくらいのいい男二人にモテモテじゃないか。
…それとも何か?お前は、大勢の人間にモテたいのか?」

と、リュウキはそんな超ハイスペックの二人に好かれるなんて恐ろしいほど贅沢な悩みだぞ、と、いたずらっぽく笑った。
本当にモテないというのなら、誰一人としてお前に見向きもしないぞと。


「……ちょっと前までは、私もサクラと結婚するのかと思ってたの。」

そう、小さな声で打ち明けてくるショウに疑問が湧く。


「今は違うのか?」


「…ロゼがね。」

…ああ。ロゼのが現れて、どちらにしようか迷ってるといったあたりか。確かに、それは悩ましいな。と、リュウキは予想し考えていたのだが。


「どうしてかな?ロゼには、7人の素敵な人達がいる気がするの。その中でも2人はとてもとても強い気持ちがあるみたい。
でも、ロゼは私と一緒にいる事を選んだ。
…それが、よく分からない。
その7人の人達は、どの人もロゼとお似合いで…私が入る余地なんてないはずなのに。」

と、説明してくるショウに、リュウキは何の事を言っているのか今のところよく理解出来なかった。

だが、これはショウにとって、大きく立ちはだかる問題だという事だけはよく分かる。


「7人の事はまだ解決できてない。ロゼが、その中から誰を選ぶのか分からない。もしかしたら、全員を選ぶかもしれない。
だけど、ロゼはその人達とは、まだ出会ってないから私の事を好きだって勘違いしてると思う!」

つまり、ショウが言いたいのはロゼには、まだ見ぬ7人の恋人・嫁候補がいる。

ショウの事を好きだと言ってくれてるが、ロゼとその7人と出会ってしまったらロゼはその人達に惹かれショウから離れていく不安があるのだろう。


「でも、私に対するロゼの真剣な気持ちが伝わってくるの。だから、ロゼの本当に好きな人が現れるまで私、誰とも恋人にならないし結婚もしないって決めたの。」

と、言ったショウに、リュウキは極端な奴だなと思いつつも、これは少しまずい事になってるんじゃないのか?と、感じた。


ショウ自身、自分では気づいていないようだが、ショウはサクラとロゼ両方に心があるように感じる。それが恋かどうかは別としてだ。
その強い気持ちが邪魔をして、どちらかなんて選べない。

サクラもロゼも、ショウに本気で恋心をぶつけてきてる以上、ショウも本気で考え中途半端はよくないと自分なりに考えたのだろう。

もし、ここでサクラを選んでしまえばロゼは、どうなってしまうのか。ロゼを選んでしまったらサクラは…。

いや、ロゼを選べば後々、ロゼと恋人候補達の存在でショウは裏切られ、ロゼも辛い思いを引きずったまま過ごさなければならない可能性が非常に高いと思ったのだろうか?

だから


それくらいなら、どちらも選ばない。


だが、ロゼに運命が現れ、その人物と恋人になったとしてだ。
ショウはスッパリとロゼの関係を割り切り、心置きなくサクラと結ばれる…
はたして、そう上手くいくものだろうか?

それに、まだダリアの事も解決できていないというのに。


しかし、これでショウの“モテない”発言の意味が少し分かった気がする。

モテないと言っても、ショウの言っているモテないは二人から好意を寄せられても今のままでは二人の気持ちに応えられない。

ショウはこの二人以外には微塵もモテない。
そんなショウが二人を選ばないという事は、ずっと独り身であろうなと容易に想像ができてしまう。

多くの親が自分の子供の幸せ=結婚と直結させてる傾向がある。それを知ってか、ショウはそれができない事にリュウキが悲しむと思っての話だったのだろう。

まさか、ショウが親である自分の事まで考えてくれてる事に驚きつつも、それがとても嬉しく思えリュウキは少しむず痒い気持ちになっていた。


だが、しかし


我が娘は、頭が悪いとは思っていたが…
やはり、頭が悪く語彙力もない為に自分が思っている事を上手く説明できないでいる。

それをしっかりと読み取るのは、リュウキ的には難易度の高い数式を解く事と等しく感じる。

ぶっちゃけ、負けたようで悔しくて認めたくないのだが、ショウの考えている事や伝えたい事を瞬時に察ししっかりと理解できるサクラは凄いと思う。

なんで、奴はそんなにもショウの事が分かるのか。親である、自分でさえこんなに苦戦してるというのに。


「お前は、誰とも結婚しないと決めるのはいいが、サクラとロゼの気持ちはどうなる?」

「…それは全然、大丈夫だよ?だって、あの二人だよ?これから、二人に見合うようなもんのすごい人が現れるって思う!」


「…その、もんのすごい人が現れなかったら?」

「それに近いくらい、すっごい人がきっと現れるよ!」


もし、ショウが言うように、ロゼに素晴らしい運命的な人間がいるとしてだ

少し、考えてみれば分かる

生半可な気持ちでは、真の天守にはなれない。それをロゼはやってのけたという事、加えてショウに求婚までしている

俺は、ロゼの肩を持つ気はないが

何故、ロゼはショウの天守になる事ができたのか、堂々とショウに求婚ができるのか。その意味をショウは理解しなければならないな


「…つまり、二人のような超ハイスペックと一緒になる事で、様々な障害が出てくる事をお前なりに予想した。だから、面倒事から逃げたいと思っているんだな。
自分可愛さに二人の事なんてそっちのけで、戦う意思すら示さず離脱したいと。」


「…へ?」


「ロゼに関しては、ロゼの気持ちも考えずその7人にロゼを押し付けてしまえばいいと。
そうすれば楽だもんなぁ〜。

せっかく熱心に差し伸べられた手をこっ酷く振り払って置いて、その7人とやらとロゼが上手くいけば上手くいったで今度は、楽になったはずの自分が苦しくなって“どうして、こんな目に”“なんで、自分だけ”と、泣き寝入りするんだろう?

自分から振り払って置いてな〜、被害者面しそうだな。」


「…酷いっ!どうして、お父さんは、そんな意地悪な事ばっかり言うのっ!?」


リュウキだって、こんな事は言いたくない。

だが、ずっと考えていた事でもあった。

サクラという特別な存在。本人は不本意であろうが、周りはそれを許さず“特別”という括りにしてしまう。

それだけ様々に置いて特化した人物だ。

そんな超ハイスペックに好かれたら、どんな人間だって有頂天になると同時に恐怖するだろう。

自分はサクラに見合わないと日々、引け目を感じながら過ごさなければならない。
そして、自分よりいい女が現れたら自分はすぐに捨てられてしまうかもしれないという不安も付き纏う。周りからの嫉妬。
それが、積み重なった時、限界がきて耐えきれず逃げだす事だろう。

それが、どんなスペックの高い女であってもだ。

正直、サクラに及ぶほどのスペックを持つ人物なんて、奇跡でも起きない限り見つからないだろう。

それが、ショウであったならその比ではないくらいの周りからの批判、劣等感を感じる事だろう。

だから、リュウキはそこを考えるとどうしてもショウとサクラが結ばれる事を快く思えない。
しかし、そこにサクラと同等のハイスペック、ロゼまで登場した。


だが、ショウの話を聞いていて、戦わず逃げてばかりでは後悔しか残らないのではないかと感じてしまったのも事実。

これで、いいのか?と。


正直、あの二人は超ハイスペックが仇となり、ショウにとってリスクだらけだ。ハイスペックな分だけ、ハイリスクとでも言うのか。

だが、ダリアの事もそうだが…

今までショウは、自分にあまりに自信が無く受け身でしかなかった。その為、彼らの恐ろしい程のスペックの高さに恐怖して、立ち向かった事はただの一度もない。


だからなのかもしれない。


サクラやロゼ、ダリアの件も何もかもが、何の決着もつかず平行線のままなのは。
これでは、みんなずっと苦しみ続けるばかりで何の解決もしない。

この問題は、ショウが動かなければ何も変わらない。ショウが、解決の鍵である事だけは確かなのだ。

ショウが動かなければ、なにも始まらないのだ。

ショウにとって、かなり苦しく辛い戦いになると思うが、ここでこの問題を何とかしなければ

この先、ずっと…

生まれ変わったとしても

辛く苦しいままだ。

今、変わらなくては。今、動かなくては。
ショウの幸せな未来は見えてこないだろう。

リュウキは我が娘の将来を案じ、心を鬼にしてショウにキツい事を言ったのだった。

本当は、逃げてもいい。俺がずっと面倒を見てやるからと言いたい。今の今まで、そうやって自分の懐に大事に大事にしまっておいたのだが…。

さすがに、それが出来なくなってしまう程に、事は大きくなってきている。
このままでは、いつの日にかみんな自滅してしまう。それだけは、何としてでも阻止したい。


「お父さん、酷い!」と、わんわん大泣きする娘をギュッと抱きしめながら、リュウキは心を痛めていた。

しかし、人気アトラクションの順番を待つ間までにショウの気持ちは少しずつ落ち着いていき、アトラクションに乗る頃には大はしゃぎですっかりご機嫌さんになっていた。

ショウにとって、恋愛よりもアトラクションの楽しさの方が勝ったようだった。

単純なお子ちゃまな娘で良かった、と、リュウキはホッと胸を撫で下ろした。

それからは、くだらない話をしつつ(リュウキがショウを揶揄って遊ぶ)、アトラクションやパレードなどを存分に楽しんだ。

その合間合間に、ちょくちょく屋台から食べ物を買っては食べる娘を見てるだけで、リュウキはお腹いっぱいになった気持ちになっていた。

時折、ショウが「お父さん、食べないの?美味しいよ?」と、食べかけの物を差し出してきても、甘いもの続きで3回目以降は胃が受け付けなくなってしまった。

当分の間は、甘い物が食べられそうにない。

この後、レストランで食事があるからほどほどにしなさいと注意しているが、ショウはまだまだ食べれると張り切っている。本当によく食べる娘だなぁと苦笑いするばかりだ。


夕飯に予約していたレストランで人気ショーを見ながらディナーを食べ、人気のリゾートホテルの最上階で景色を眺めながら楽しい親子の時間を過ごした。

ホテルの部屋は、人気キャラクターをテーマとした部屋とだけあり内装も細かな工夫や細工がしてあり心弾むものがあった。

ショウは、とても大はしゃぎで目をキラキラさせドスンドスン飛び跳ねて喜んでいた。

その姿を見て、リュウキはここを選んで良かったなと安堵でふぅーと短く息をはき、穏やかな気持ちで娘を眺めていた。


そして、遊び疲れたショウはベットにつくなり、すぐさま寝息を立てていた。

今日一日、楽しかったのか興奮のあまりお喋りが止まらず「今日は眠れそうにないよ!」とか何とか、目をギンギンにして喋ってたというのにと苦笑いしていた。



ちょっと(?)父親であるリュウキと喧嘩(?)したが、とても楽しい1日を過ごしショウは遊び疲れてグッスリ眠りについた。

それから、どれほど時間が経ったのだろう?


ショウは不思議な不思議な夢を見ていた。


ショウは色んな世界が見えるおかしな場所にいた。自分が望めば、見たい所が空間全体に写し出される。まるで、その場に自分が居るかのように感じる立体映画館のようだ。

どうやら、未来や過去まで見れるらしく…ちょっと怖いなぁ…とも感じた。

眠っている人もしくは、幻術に掛けられてる人の意識の中にまで侵入できてしまうのには驚いた。


その中で、ショウが今、一番気になっていた映像が映し出された。

映像は真っ二つに分かれていて

右が、見知らぬ誰か
左が、ロゼ

が、映し出されている。


これは、いつの時代なのか二人の時代も違えば、見た事もないような衣服や装飾品を身に纏っている。

だが、一つ言える事はロゼはどんな格好をしてもよく似合ってるなぁ!カッコいい!!で、ある。


映像を見れば、何やら二人とももの凄く切羽詰まっているように見える。

何があったのかな?と、不安に思い何度、話し掛けてもロゼはショウの存在に気付いてはくれなかった。


その内、ロゼは


『ーーーを、苦しめてしまうのなら、それぐらいなら俺はーーー以外の全てを断ち切る!
ーーー、俺を信じてくれっ!!』

と、何故かショウに向かって必死に訴えかけている。自分の存在が見えない筈なのに、ちょうど自分がいる場所のせいかそう見える。

だから、自分に訴えかけてるのかと勘違いしてしまった。…恥ずかしい。

ロゼは、誰に向かってそんな事を言っているのか、グルリと周りを見渡してもそこにはロゼと自分以外の人の姿はなかった。

なのに、ロゼはショウの姿が見えていない。

一体、何がどうなっているのやら。


途端に、場面は変わり

ロゼを囲む大勢の人間達が見えた。


『いけない!そんなのに惑わされてはいけない。確かにその人は可哀想な人なのかもしれない。だけど、その為に君が犠牲になる必要はない!』

『あなた自身の幸せを考えて!』

『どうして、自ら不幸の道に飛び込もうとするの?冷静になって、よく考えて?』

『自分の全てを捨ててまで、その人一人の為にその身を捧げるなんてどうかしてる!』

『ソイツに、それだけの価値があるのか!?』

『なぜ、そのコに尽くそうとするんだ?どうして、そこまでする必要があるんだ!?絶対におかしいっ!!』


と、みんな必死にロゼを説得している。

それでも、ロゼはそれらを振り払い去って行った。

泣き叫ぶ人がいても、誰が何を言っても振り返る事もなかったのはロゼなりの決意表明だったのだろう。


『みんなの気持ち、凄く嬉しい。
俺は恵まれてるなぁ。みんな、ありがとう。
…そして、ごめん。』

誰も見えなくなった所でロゼは立ち止まり、空を見上げ涙を流しみんなに対して感謝の言葉を口に出していた。

まるで、生け贄か人柱にでもされに行く人のように見える。


ロゼはどうして、みんなが引き止めるくらいに不幸な道へ行こうとしてるの?

一体、何があったんだろう?

と、ショウはロゼがとても心配になった。


そこで、場面はガラリと変わり

またもや、映像の配置だろうか?ロゼは、ショウに向かって何か言い始めた。

まるで、ショウに語りかけてきてるかのようで一瞬ドキリとしてしまう。


『ーーー、俺を信じて!』

何を信じて欲しいのか分からないが、自分でない誰かがそれに答える。


『…あなたは、私と一緒に居ない方がいいよ。あなたには、たくさんの素敵な人達がいる。』

女の人の声がするが、当たりを見回してもそんな人物は見当たらない。

多分、ちょうどその女の人がいる場所とショウがいる場所がダブってるのかもしれない。
けど、ショウにはどうする事もできない。

だって、ショウはそこから体が動かないのだから。できる事と言ったら、周りをキョロキョロと見渡す事くらいだ。


『俺は、ーーーといる事を望む。』

『ダメだよ!みんなが言ってたよ?
それじゃあ、あなたが可哀想になるだけ。苦しむだけだって。…私も、そう思う。』

『不幸かどうかなんて、周りが決めるものじゃない!俺が判断するものだろ?俺はーーーと、一緒にいたい。』

『…ダメ。本当にダメ。あなたは優し過ぎるから…私みたいな残念な人を放っておけなかっただけだよ。』

『違う!』

『…私は、あなたの“運命”をたくさん“見せられて”きた。どの世界線もキラキラ輝かしいものばかり。あなたは、みんなに愛されてるなぁって思った。
…けどね。あなたが、可哀想になる世界線があったの。それは、私が関わる世界線。それを知ってるから言ってるの。』


『輝かしい事と幸せは違うだろ?』

『私ね。あなたに幸せになってほしいの。』

『なあっ!?俺の話を聞いてるか?
ーーーは、みんながって…そればっかりだ。
周りの話ばっかりで、俺の気持ちは無視するのか?俺の気持ちはどうなる?』


『…不幸になる、あなたを見てられないよ。
…バイバイ。』


そう女の人が言った瞬間。


ロゼは、心配するみんなの元へ戻っており


『…あれ?俺は、一体???』

と、さっきまでの出来事を忘れているようだった。周りにいた人達も、何でみんなここに集まっているのか忘れてしまっている様で混乱するも少し会話して元の生活へと戻っていった。

…だが、ロゼはいつも通り日々を過ごしている筈なのに、何だろうか?この喪失感は?
ポッカリと胸の中に穴が空いたようだ。どこか虚しく寂しくて何故か泣きたくなる。

そして、あまりの虚しさと寂しさによりロゼは、それに耐えきれなく心身ともに参っていた所にある人物がロゼを襲ってきた。

突然襲い掛かってくる敵にロゼは驚き、最初こそ防衛本能で抵抗するも戦っている内に


何の為に抵抗してるんだろう?

何の為に戦ってる?

ここで生き延びて何になるんだ?

と、いう気持ちが強くなっていき、徐々に抵抗するのも馬鹿らしくなっていき戦う気力も失っていった。


…もう、どうでもいいや…


ロゼは、そう思った瞬間

すっかり戦意喪失し全身ダラリンと力が抜け人形の様に動かなくなってしまった。

そして、ロゼはそのまま相手の中に飲み込まれていった。

だが、そこで自分と相手と同化していく最中に、部分的ではあるが相手の非常に強い思いや記憶がロゼの心に流れてきた。

そこでロゼは、幸か不幸か天の存在を思い出したのだ。


これだ!!!


ロゼは、そう直感した。

と、同時に胸には希望が満ち溢れ、生きたい!そして、天に会いたい!!そう、強く思った。

それは、日を追うごとに大きく膨らんでいき、天に会う事を生きる糧にし自分を取り込もうとする敵に懸命に抗い完全に乗っ取られる事だけは阻止できた。

だが、だいぶ敵に取り込まれていたせいで、そこから抜け出す事は非常に困難になっていたのだが。

今にも途絶えてしまいそうな朦朧とする意識を何とか保ち、天と会える希望を捨てず、敵に飲み込まれまいと必死に戦い続けながら

長い長い時を敵の体の中で過ごし、変わりゆく街並みや人々の様子を見ていて

ロマンチックな花言葉を覚えた。

時代が変わっても花言葉に興味を持つ少女や女性が多く、そのうち長い時間を過ごす中で自分の気持ちと花言葉を重ねて思うようになっていた。

それが、更にロゼのモチベーションを上げていた。

数々ある花言葉の中でも、ロゼが気に入ったのは薔薇の花言葉だった。情熱的で、色や数によって意味合いが違う事にも感動した。

なら、自分は天を思う気持ちを薔薇で伝えよう!

そう思い立ち、天を思いながら微かに残る魔力を込め丁寧に丁寧に、ロゼの気持ちと魔力のこもった薔薇を作った。

しかし、不自由な体と朦朧とする頭、微量な魔力の為、一本の薔薇をつくるにも数年という気の遠くなるような作業をロゼは天を思い祈りながら作り続けた。

ロゼは自分がやれるだけの事を精一杯やり続けたのだ。

…それから、気が遠くなる程のロゼの戦いが始まったのだった。常人ならば、すぐに根をあげ投げ出してしまいそうになる程の事をロゼは、膨大な時間を腐らずに敵と戦い続け薔薇を作り続けた。


ここだよ。

ここに、自分はいるよ。

と、いつ、会えるか分からない。…いや、永遠と会えないかもしれない人を思いながら。

敵にほとんどの体を飲み込まれ、永遠ともとれるほど長い時を経たせいで自分の過去はすっかり忘れてしまったが、天を思う気持ちだけは忘れなかった。それどころか、まだ見ぬ天に思いを馳せ気持ちが募る一方だった。


全ては、天と会う為。

ずっとずっと一緒にいる為に。

願わくば、伴侶となり永遠の愛がほしい。

…もう、離れるなんて絶対に嫌だ。考えたくもない。

会いたい、会いたい…今すぐ会いたい!!

絶対に会って、自分の思いを伝えたい!離れず側に居たい!!


そこで、ロゼの映像は消えてしまった。


すると、残ったもう一つの映像が強制的に流れ出した。

サクラやロゼで美形耐性のあるショウですら驚くほどの美貌の持ち主がいて腰を抜かしそうになった。

最初ロゼと同時に映像に出てきてはいたが、見知っているロゼにばかり目がいき、その人物をしっかりとは見ていなかったのだ。

男性とも女性とも取れる中性的な容姿で、ビビって腰を抜かすほどの美貌だ。

…ん?

だけど、あれ?

この人、知ってる気がする

と、考えた所で思い出した。


あ!

ロゼを乗っ取ってた人だ!

そう。大聖女達がディヴァイン、サクラ達がダリアと呼んでいた、えげつない程の美貌の少年!!!

映像で映し出された姿が、大人の姿だったので直ぐにその人だと気付けなかった。
だが、絶対そうだ!こんな美貌と全身真っ黒、髪の毛先と目の色が紫と、特徴的な容姿を持つのは彼くらいしかいない…はず!!

サクラ達がダリアと呼んでいたから、ダリアと呼んでおこう。


ダリアは、鬼の形相で何かを喚いている。


…え…なに、この人…めちゃくちゃ怖い…

絶対、関わり合いたくないなぁ…

と、その鬼気迫る形相にショウは恐怖でオシッコを漏らしそうになった。


『…こんなモノッ!こんなのがあるから、俺様は縛られるんだっ!!それくらいなら……捨ててやるっっ!!こんな“感情”邪魔でしかねぇっっ!!!?』

そう言って、自分の血で複雑な魔法陣を描き長い呪文を唱えるとダリアの胸から、スゥー…っと透明な青い玉が出て来た。それを手に取るとダリアは

『……こんなモノ、ぶっ壊してやる!!!』

と、言って、それを握りつぶしパーンと粉砕した。


『…やった、やってやった!これで、俺様は自由になった!もう、何者にも縛られる事もねー!!』

そう言って高笑いしながら、その場を去って行った。だが、何故だろう?喜んでいる筈なのに、どこか苦しそうで…笑っているのに涙が出ていたように見えた。

…笑い過ぎて、涙が出てしまったんだろうか?


しかし、ダリアが去った後、ショウは驚きの光景を見てしまった。

ダリアの中から取り出し、壊した筈の透明な青い玉が徐々に再生していき元の美しい透明な青い玉に戻っていたのだ。

手のひらサイズのその玉は、そこに生息する狼を見てグニョグニョと形を変え

狼のようで、狼でない美獣へと変化していた。

ブルーがかった白銀の毛並みに、アイスブルーの目。とっても美しい獣。

おそらく、元々形を持たなかったものが最初に見たものの形を真似て姿を形成させたのだろう。


その獣は、キョロキョロとそこら中を見渡し困惑していた。


『……ここは、どこだ?…俺は一体…?
…だが、俺の場所はここじゃない。
…早く、早く俺の場所へ帰らなければ!』


美しい獣は、そう言ってすぐに何処かへ飛んで行ってしまった。

何をそんなに、急いでいるんだろう?



と、そこでショウは目が覚めた。


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