イケメン従者とおぶた姫。
「お、お父さんっ!」


美人にナンパされているリュウキに、声を掛けるショウ。その声のする方向へと振り向いたリュウキは驚いた。

何故なら、久しぶりに見る我が娘は
何故かプリプリと怒っていたのだから。


「久しぶりだな、ショウ。」

と、リュウキはショウの目の前に立つと、ショウの髪が乱れるのも気にせずに容赦なくぐしゃぐしゃ撫でた。

ロゼは初めて見るショウの父親を見て


…ほぉ〜!

この方が、お主様のお父上か

と、目をキラキラ輝かせ見ていた。
リュウキも、ショウの肩の上に乗っているロゼに気がつき挨拶代わりに小さく笑って見せた。

ロゼも、それに応えるように背筋をピーンと伸ばし、親子の久々の再会を邪魔しないよう「ゴロニャーン!」と、ご機嫌に返事をして二人のやり取りをジッと見ていた。

それを見てリュウキは、なかなか賢い奴だなとロゼに少し好感を持った。

ロゼはロゼで、大好きなショウの父親に認めてもらいたくて必死である。

サクラは、ショウを独り占めされてムスッとしていた。それに気がついたリュウキは相変わらずだなと苦笑いした。

少し、遠くに目をやれば、オブシディアンとシープがショウの見送りを終えペコリとリュウキに頭を下げたので、リュウキは小さく手を挙げ“ご苦労”と合図をした。その合図で、二人はどこかへと姿を消した。

そのごく短いやり取りを終え、ご機嫌斜めの娘の為に大きな体をかがめ

ショウの目線に合わせると


「…どうした?」

と、少し困った表情を浮かべ、ショウの機嫌の悪さの原因を聞いてきた。

すると、ショウはプクゥ〜っとホッペを膨らませリュウキから目線を逸らすと


「……だって!」

「ん?」

「だって、お父さん知らない女の人と楽しそうにお喋りしてたからっ!お父さんは私のお父さんなのにっ!!」

と、プリプリ怒ってきたショウに、リュウキは驚いたようで凛々しい目をまん丸くした。

かと、思ったら


「……プッ!」

「…?…」

「アハハッ!そうか、そうか。それは、悪かった。」

なんて、全然悪いだなんて思ってないだろうってくらい吹き出して、可笑しそうに笑うと
何度も「…そうか、そうか」と、連呼して何故か嬉しそうにしていた。そして

「それは、悪かった。」

と、言って大きく逞しい腕でショウを包み込んだ。だが、たまに「ハハ!」と笑い、ショウの背中を優しくポンポン叩いてくる。

こっちは、こんなに怒ってるのに、どうしてそんなに楽しそうなのかとショウはもっとプリプリしておいた。


「ところで“お前ら”は、何でここに居るんだ?見送りなら、もう大丈夫だ。ちゃんとお前らのホテルも用意してたはずだ。自分達の時間を存分に楽しんで来い。」

と、リュウキはサクラとロゼに向かって言った。すると


「俺はショウ様の“家族のつもり”だ。」

「我もゆくゆくはお主様と結婚し家族になる故、問題なかよ?」

なんて、ドヤ顔して言ってくる二人にリュウキは、やはり、そうきたかとニヤリと笑みを浮かべた。そして、直ぐに悩む素振りを見せ


「そうか、そうか。お前達は、ショウの家族だったか。それでは、もし“恋人になりたい”だの“結婚したい”だの言ってきても、俺はそれを許す事はできないな。
…なんせ、家族とは結婚はおろか恋人にもなれんからな。」

なんて言ってきたのだ。それに対し二人は


「…………ッッッ!!!?」

「…ニャ、ニャヌッ!!?」

目を大きく見開き、何を言ってるんだとばかりに勢いよくリュウキを見てきた。


「いやぁ〜、残念だ。家族という事は、親や兄弟という事だろ?或いは、祖父母。ああ、ペットもだな。今、この場にいるのは家族のみとなっているはず。なのに、ここにお前らがいるって事は、そうかぁ〜、そうだったかぁ〜。」

なんて、非常に残念そうなフリをして大根芝居するリュウキにサクラは、非常に苛つきピキ…と額に青筋を立て全身ワナワナさせている。
ロゼは、それはいかん!と、ばかりに


「そ、そうじゃった、そうじゃった!いつも、お主様と一緒におるから勘違いしとったわ。
まだ、我はお主様とは家族ではなかったようじゃ。ナハハハ!」

と、焦って誤魔化していた。


…調子のいい奴だ

サクラとは容姿も含めタイプも正反対といったところか。なかなか、面白いな

しかし、これほどまでに完璧に獣の姿に変化できるとは素晴らしい能力だ

はたして、うちのフウライとどちらが優秀な魔道士なのか楽しみだな

しかし、能力もさることながら、なんと美しい美獣だろうか

優秀な魔道士は、飛び抜けた能力の分だけ美貌も備わってしまうものだろうか?

と、ロゼを見てリュウキは、フウライの姿…そして、ダリアの事を思い浮かべていた。

サクラはスラリとした細身なので魔道士か学者の類が似合いそうではあるが、残念ながら波動を得意とするゴッリゴリの武闘派である。
実は、もの凄い怪力の持ち主でもあったりする。

いよいよもって、サクラはリュウキに口負けし…グヌヌッ…!と、何も言えなくなったところで渋々観念したようだった。
あまりに悔しかったのだろう、サクラの奥歯がギリギリいっている。

近くで見ていたロゼは、…ハワワワ!サクラの顔が怖い…と、プルプル震え、ヒシーとショウの顔にしがみ付いていた。

サクラは自分を落ち着かせる為に一呼吸すると、地面に片方の膝をつきショウの手を取った。


「…とても寂しいですが、これから三日間私達は離れ離れになってしまいます。どうか、お怪我などされませんよう体調にも気をつけてください。
…もし、少しでも嫌な事があれば、なんでもいいです。必ず、連絡下さい。すぐに駆けつけますので。」

そう言って、ショウの手のひらにキスをした。
まるで、悪者によって引き裂かれる姫と騎士の様だ。


…うへぇ〜!

なんと、キザったらしいんじゃ

どうも、サクラはお主様の前ではカッコつけたがりのナルシストになってしまうのぉ

普段のサクラを知っておるゆえ、お主様といる時のサクラを見るとサブイボが出てしまうわ

と、ロゼは、シラけた顔でサクラを見た。


「我も、お主様と離れるの寂しいにゃ〜ん。
じゃが、せっかくお父上と会えるんじゃ。親子の時間も大切にの。じゃが、やっぱり寂しいにゃ〜ん!」

ロゼは、そんな事を言いながら、寂しい、寂しいと全身を使いショウにスリスリして自分の感情を表現していた。

いつもなら、スリスリの合間にチュッチュとキスもするのだが、父親が居る手前さすがに遠慮しておいた。
そんな中、父親が居ようが居まいが御構いなしのサクラの神経にロゼはビビっていた。


…しかしながら…


「よろしいですか?知らない人に声を掛けられても着いて行ってはダメですよ?」

「うん、分かった!」

「何か少しでも異変があった場合は、すぐに連絡して下さい。本当に、どんな些細な事でもいいんです。遠慮は絶対にしないで下さいね?」

この確認作業…いつまで掛かるんだ?もう、かれこれ10分以上はやっている。
しかも、まだまだ続きそうである。これでは、埒があかないと、リュウキは頬をひくつかせ


「そろそろ行くぞ。」

と、ショウの手をグイッと引き、二人から引き剥がし歩いた。


「…あ…」

ショウが離れていくと、ロゼは思わずそんな声を漏らし寂しそうにこちらを見ている。
サクラは引き裂かれる恋人かの如く溢れんばかりの悲壮感を漂わせていた。


「サクラもロゼも、またね!3日後に会おうね!」

と、元気良く手を振るショウに、ロゼは力いっぱい手を振り「お主様ぁ〜、お主様ぁ〜!」と、行っちゃ嫌だと言わんばかりにショウの名前を呼び続けた。

サクラは、小さく手を振り無理矢理に笑みを作って見送った。

たまに、後ろの様子を見ても、その場から離れず手を振り続ける二人。
結局、ショウとリュウキの姿が見えなくなるまでその場を動かなかった二人だった。


…何だか、悪者になった気分だな

と、リュウキは、どっと疲れた気がした。


さて、同じ天守同士、気になる事も多いだろう

今の機会を生かし、存分に話し合えればいいんだが…どうなるものやらだ

リュウキは、ショウから旅の話やどこで遊びたいかなど聞きながら、そんな事も考えていた。


「…お主様…」

もう、すっかりショウの姿が見えなくなった方向を見てションボリ項垂れるロゼ。何度見ても、ショウが戻ってくる様子もなく仕方ないのでピョンとサクラの頭にぶら下がった。


「…おまっ!!?何故、俺の頭に乗ってるんだ!」

「…別に、体重も感じないんじゃから良かろうて。我は…お主様が居らんで一気にやる気を無くしたんじゃぁ〜。歩く気がおきん。」

「このクソ猫が!!」

サクラは、図々しいロゼにいちいち構ってるのも癪だったので、居ないものとして扱うことにした。

そして、サクラはショウが戻って来た時に備えて、今のうちに学校の課題をやれるだけこなしてしまおうと考えた。

なので、さっそく用意されているリゾートホテルへと入り、脇目もふらず学校の課題に集中した。それを詰まらなそうにサクラの頭の上からロゼは眺めていた。

…暇だ…

すこぶる暇である。サクラが課題をこなしている姿を見たって、ちぃ〜っとも面白くない。

これがショウだったら、“勉強を頑張ってるお主様、かわいい”“分からなくて悩んでる姿も愛おしい”“お!解けたんじゃな!フフ!喜んでる。愛らしい”なんて、学校の課題を頑張っている姿を眺めているだけでも楽しい。
ショウがどうしても分からない所があったら教えてあげるのも、また楽しい。…大概は、サクラが教えてしまうので、ロゼの出番は滅多にないのだが。


あまりの暇さに、サクラの頭の上でゴロンゴロンと色々体勢を変えてみたが暇は暇だった。

暇だからといって、何処かに出掛けるのも億劫だ。

ダラリ〜ンとしているうちにロゼは、あまりの暇さに、ずっと考えていた事を口に出した。


「…のぅ。ダリアの事なんじゃが…」

そう口に出すと、ノートやパソコンで忙しいサクラの手がピタリと止まった。


「しっかりと分からず終いで終わってしもうたが、我は“天守の試験”とやらが引っかかっておったんじゃ。」

「…確かに、それは俺も気になった。
“天と思いが通じ合うまで、何度でも繰り返される”そんな話をしていたな。」

「…うむ。“強制的に植え付けられた気持ち”とは一体、何の事なのか。それが、天守の試験とどう繋がっておるのか。

それも、そうと気になるのはダリアの気持ちじゃ。“元”とはいえ、我らと同じ天守だったはずの男じゃ。
なのに、何故あんなにお主様を拒むのか。そして、あそこまで拒絶しておいてお主様に執着するのか。我には、それが理解できん。」

と、ロゼが言った所でサクラもそこが理解できないと頭を捻っていた。


「あんなに拒絶するなれば、さっさと自分に見合う者を見つけくっ付けば良いものを。
そうすれば、みんなハッピーじゃ!」

「…俺は、アイツが許せない。あんなにエリス様やアイル様を蔑ろにし裏切っておいて。側に置いておきたいなんてふざけ過ぎてる!」

ここからは、サクラとロゼのダリアについての悪口大会だ。思う存分に喋っていたら、気がつけば夜が明け朝日が登り始めていた。

喋り疲れた二人は、自然とそのまま眠りについていた。ショウが一緒でないと眠れないサクラもいつの間にか寝ていた。



そして、二人同時におかしな夢を見ていた。

ダリアについて、言いたい放題言っていたから、こんな夢を見ているのだろうか?


夢の中で、二人は不思議な空間にいた。

その空間はざっくり言って見た事もないような不思議な空間。何故、ざっくりかって?

夢だから、細かいところまでサクラやロゼが想像できなかったのかもしれない。簡単に言えば、空間も何もかもが曖昧でボヤけた印象だ。

けど、二人の中で不思議だな〜という感想があったから不思議な空間という認識になったのだろう。

ここが、新しく誕生する天の“天守”を決める為の試験会場だって事も、当たり前のようにそうなんだと思っている。

…まあ、夢なのだからそんなもんだろう。


そこには、多種多様な人や生き物達が大勢いた。

その中で注目されていたのが、究極の美とも言える美貌の青年だった。

その青年の他にも、とても美しい女性や男性、中には絶世とも呼べる者達もチラホラいたのだが。そんな彼女達ですら驚き、魅入ってしまうほど。

それくらいなので、その青年の美しさは、
どうしても目立ってしまい注目の的になってしまっていたのだ。


と、いきなり場面が変わった。


ここは、最終試験。

そこに残ったのはロゼの他に、4名。その中に、当然のようにあの美貌の青年はいた。

最終的にこの5名に絞られたようだ。

だが、驚くべきは、この美貌の青年。

どの試験に置いても、他を寄せ付けない程にぶっちぎりに抜きん出ていた。


【最終試験】は、《シミュレーション試験》と、いうものらしい。

試験の内容は、“天との相性”。

幻術を使っての試験だ。

記憶を消された試験者達が、様々なパターンで天と出会い過ごす。

試験者達は眠った状態で、短時間に何度も転生のようなものを繰り返し天と出会いそこで互いの相性を見るようだ。


試験管の話では

『ここに残っている者達は、力や能力、忠誠心などに置いて他のもの達よりも抜きん出た優秀者ばかり。そして、何より、これから生まれてくる天にとって非常に強く魂が惹かれ合う者達ばかりだ。』

『最終試験内容は伝えたが、これから説明する事は非常に大事な事である。
いくら、強く魂が惹かれあおうとも、それは“恋”であったり“友情”、“憧れ”と様々な惹かれ方がある。しかし、中には“憎悪”、“嫌悪”といった類もある。』

『もう一つ。とても、大事な事があります。
この試験は、“幻術であってリアル”。この試験で経験した事は深く魂に刻まれ、良くも悪くも、後に大きく影響を及ぼします。』


『我々は、それを見極め“天守”を決める。』


と、説明がなされたと思ったら、息つく間もなくいきなり場面は変わった。

そこで、自分達は色んなパターンの人生を過ごした。

奴隷と王様。

平凡な家庭の幼馴染。

乞食と少佐。

歳の差。

先生と生徒。

同性同士。

などなど、時代も国もランダムで決まるらしく、本当に様々な設定になっているようだ。



〜シミュレーションテスト、
ロゼの場合。(一部抜擢)〜


ロゼはとびきりの美貌と天真爛漫でお調子者な性格で、いつも人の中心にいるような人に好かれ慕われる存在であった。

人好きなロゼは、いつも独りぼっちの人などにも声を掛け楽しく過ごしていた。
みんな友達、仲間!そんな風に考えていた為、どうしても独りぼっちの人や人の輪から外れた人達が気になってしまう。

どうせなら、みんなでいた方が楽しいんじゃないか。そう考えていたのだ。

裏表のない元気いっぱいのロゼは、まるで太陽のようにキラキラと輝いていて

みんなのアイドル的存在であった。

そんなロゼだから、いつものように独りぼっちのコに声を掛けた。それがキッカケだった。
ロゼは、何故かそのコの側にいるのが心地よく気がつけば、みんなといるより、そのコとばかり一緒にいるようになっていた。
一緒にいればいる程、大好きだって気持ちが膨らんでいき同時に幸せな気持ちで満たされる。

だが、周りはそれを良しとしなかった。

そのコは、見た目も普通よりやや劣っていて、勉強も運動もダメ。家も貧乏で、性格だって良いとは言えない。

ロゼの美貌は、県内では止まらず他県にまでカッコいい人がいると噂になる程。それでいて、文武両道。性格も良し!家柄も資産家の息子と文句の付けようがない、みんなのアイドル。

そんな二人が仲良くしているなんて許せないと嫉妬する者が多く、ロゼは自分の友達や周りの人達に貶められそのコと絶交状態になった。

多くの人VSそのコ

そうなれば、多くの証言や証拠を出されたら誰だって多くの人の方を信じるだろう。それは、ロゼも同じだった。

しかし、ロゼはその事を酷く後悔した。後悔しても、ロゼとそのコの溝は埋まる事などなく、もう取り返しのつかない状態だった。

そして、ロゼはそこから悲惨な人生を歩んでしまった。

周りから見ればロゼは順風満帆に見えていただろう。しかし、人前では元気いっぱいに振る舞っていたロゼであったが、後悔ばかりで心は荒み…人目のない所でいつも一人泣いていた。

その時、ロゼは“もう、絶対にこんな過ちは犯さない!”と、強く強く心に誓った。

…しかし、次の世界線でも似たような感じで人生を終えるのだが、途中で…あれ?前にも、こんな事があった気がする!!と、デジャブを感じていた。

次の世界線では、最初あたりにデジャブを感じ、また酷く後悔し泣いて終わった。

次の世界線では、自分の目で見なければ噂など信じないようになっていた。
そのおかげか、周りの猛反対も押し切りそのコと幸せに暮らせるかと思ったが…
周りの弊害により、無理矢理にそのコと引き離され悲しいだけの一生を終えた。

次は、ロゼはある程度人と距離を置き、ジッと人を観察し人を見極めるようになっていた。
そして、例えそのコが悪者であっても何でも、そのコの事だけは絶対に信じよう。そのコが間違った事をしたら全力で止めればいい。

そう考えるようになっていた。

何度も何度もシミュレーションで痛い目をみて、魂に刻まれていったのかもしれない。

ロゼの場合、サクラとは違い人との関わりが多く、多くの人達に好かれる存在であったのが裏目に出ていた。“そのコの問題”で、色々と苦労したようだった。“見合わない”“釣り合わない”等。


このシミュレーション試験を行う事で、
ロゼの天に対する心は大きく大きく育っていき、ロゼにとって天の存在は何者にも変え難いかけがえのないものになっていた。


ただ、ここで言える事は

前の人生で、何か強い思いや気持ち、決心があったとして、次もその気持ちを覚えているか、生かせるかと言えば…否である。

次となれば、例外を除き前の記憶が消えてしまうのだから。

だから、少しずつの変化であろうと
どういう理屈かは分からないが、例え記憶が無くても自分を変えていけるロゼが凄いのだ。


…だが、しかしだった。


ロゼに関して、試験管達は大いに悩んでいた。何故なら、天に対する思いは恋愛の様だが、これが問題だった。

ロゼは人好きで、人からもとても好かれる存在だ。その為だろうか。
ロゼは、天の他に7名程想い合う相手が存在している。それも、全て恋愛である。

ロゼの場合、恋愛以外でも友愛や兄弟愛など人との繋がりが非常に強く想い合う人間がとても多い。それも、運命人といってもいいくらいの熱い友情や家族愛、先輩後輩関係などに大いに恵まれている。

ロゼがこの試験に参加となった理由は、これから誕生してくる天とロゼが運命人であった為ではあるが。それにしてもだった。

天も天で、恋愛での運命人が2人いるという珍しい運命の持ち主であって試験管達を驚かせ悩ませてしまっていた。

ロゼの運命人は天のみ。

しかし、恋愛に対する7人の運命の糸は、非常に強くその中でも2人は運命人に匹敵するくらいに強かった。
しかも、7人が7人、容姿もさることながら性格も器量も良く申し分ない者達ばかり。

天さえいなければ、こんなにも素晴らしい人達がロゼの恋人、結婚相手になる可能性は非常に高い。

誰もが羨む将来が約束されたも同然なのだ。

そんな素敵な人生を歩める人物に、はたして天と一緒にいてそれ以上に素晴らしい時を過ごせるかと言えば……微妙である。


そもそも、天には恋愛の運命人が2人も存在するのも問題だ。


ロゼは多くの人達を惹きつける人柄や人望。
加えてスペックが非常に高い。中でも、魔導に関してはNo.1と僅差でNo.2という天才であった。

だから、こんな素晴らしい人材を天守から落したくはない。

…が、ロゼの将来の事も考えれば悩んでしまう。

それくらいなら、いっそのこと天とは引き合わないよう配慮し離すべきなのではないかとも考えてしまう。

だが、非常に残念な事に運命とは引き合うもの。

それが、運命人ともなれば……

本当に悩ましい。


試験管達は平等に厳重な審査をしなければならない身ではあるが、ロゼの人柄の良さに絆されロゼが幸せな未来を歩めるよう手を差し伸べたい気持ちが強くなり……つい……


試験管の中の何人かが、やってはいけない事をしてしまったのだ。



ーーーーーーーー


…そして…


サクラとロゼは、同時に自分達ではない別の誰かのシミュレーション試験を見ていた。


その人物は、圧倒美貌と才智、カリスマ性により、どの世界線でも早いうちから地位も権力も自分の力で勝ち取っていた。

もちろん、自力ではどうする事もできない問題もあったが、自分の類い稀な美貌と戦略を使い上へと上り詰めるのだった。

その人物は、全てが順調で何不自由なく過ごしていた。

ただ、一つを除いては…

その人物は、どうしても目に付くコがいた。

だが、そのコは自分には不釣り合いの無能だった。自分が気に留めるに値しない底辺。何一つ、いい所がない。

でも、気になって気になって仕方なかった。

何故、こんなに気になるのか。気がつけば、そのコの事ばかり考えてしまうのか分からない。最悪だと思った。

なんで、この俺様があの無能の事を考えなきゃいけないんだ。

と、ムカついたその人物は…

事あるごとに、そのコに近づき馬鹿にして虐めるようになっていた。だが、幸いとでもいうのか…体を傷付けるような暴力だけはしなかった。

それに、自分以外の奴がそのコを虐めるのは絶対に許せなかった。

それを目撃した時には全力で止め、いじめっ子を必要以上に痛めつけ精神的にも再起不能にしてやった。

だが、その人物が毎日毎日そのコを虐めるので、そのコはその人物がすこぶる苦手になり…嫌いになっていったようだ。


その人物で少し面白い所は、シミュレーション試験で様々な設定パターンが用意されているのだが、その設定によって態度が全然違う所。

しかし、結局最後には似たような形で終わってしまう。

そのコに、かなり嫌われて逃げられてしまうというオチ。

だが、その人物はそのコに対しての執着心が異常に強く、そのコが自分の側に居ないと恐ろしいくらいに狂い当てつけとばかりに極悪非道な事ばかりする狂人と化す。


それくらいなら、大切にすればいいものを…


どうしても、世間体が気になる・人の目が気になる。常に脚光を浴びたい・羨望の眼差しで見られたい・チヤホヤもてはやされたい。

虚栄心、見栄っ張り、自尊心の塊であった。

だから、世間的に底辺であるそのコの事は、どうしても受け入れられない。

だけど、そのコを想う気持ちは誰よりも強い。


そのコを思う気持ちと、自尊心・虚栄心とで、天秤がグラグラと大きく揺れたまま止まる事はなかった。


これは、何度も何度も色々なパターンで設定を変えようとも結果的に全く変わらなかった。


他の試験者達の何倍も、シミュレーション試験をさせられてる所を見ると

試験管達も、その人物が他を寄せ付けない程、天守としてとても優秀だったので落とすにはあまりに惜しい人物だと思い

少しでも、いい変化があればという強い気持ちで試験を繰り返していたに違いない。


〜結果〜


天守に選ばれたのは

盾…未定

剣…未定

で、あった。


最終試験で5名残ってはいたが、天守として、ロゼとその人物の2名が飛び出て優秀だった為に残りの3名はここで落とされた様だった。

つまり、ロゼとその人物は落とされた訳ではないが一旦、保留といった形で試験は終了となった。


それを不服とし、その人物は抗議した。

抗議しても、その結果は覆る事はなかった。



だから、その人物は……



と、そこまで見て、ハッとサクラとロゼは夢から覚めたのだった。



ドックンドックンドックン…!



何だったんだ?今の夢は…!?

二人は、嫌な汗をダクダク流しながら飛び起きたのだった。


「…何なんだ…今の夢は…?」


「な…なんじゃ、この夢はっ!?」



そして、同時に飛び起きた事により、二人は顔を見合わせていた。



天守としてロゼは保留だった筈が、何故こうやって天守の剣としてここにいる事ができているのか。

そもそもの問題、あの試験会場にサクラは居なかった。天守の試験すらしてないサクラが未完全とはいえ何故、天守の盾になっているのか。



…やはり、ただの夢か…?



…いや、何故か分からないが、これがただの夢だとは思えない。

二人は、嫌な予感しかしなく顔を見合わせたまま硬直していた。

< 87 / 119 >

この作品をシェア

pagetop