黙って俺を好きになれ
金曜の仕事終わり、エナに誘われてカジュアルなイタリアンダイニングのお店に来ていた。居酒屋よりは落ち着いた雰囲気で、自分達と同じようなOLの姿が目立った。

お昼に急に誘われ幹さんには言っていない。性に合わないとかでメール的な連絡手段は嫌がる人だから、こういうとき不便かなと思う。忙しそうなのに大したことでもない用件で電話するなんて度胸は到底、私にはないのだ。

「お疲れー!」

カルパッチョやバーニャカウダ、オムレツやフリットをシェアしながら仕事の愚痴から始まる女子会。ひとしきりエナのストレス解消に付き合う。事業部は取引先も関わるし、聞いているだけで自分の胃まで痛くなりそうな。

「でね、筒井なんだけど」

グラスビールを一口煽った彼女が目線を合わせず、生ハムの盛り合わせに手を伸ばして唐突に切り出した。

「今日も誘ったのよ。そしたら来ないって言うから、糸子となんかあったんだろうなーって。もしかしてフっちゃったわけー?」

ストレートに貫かれて。
言葉もなかった。
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