黙って俺を好きになれ
「俺が言ったことか?・・・そこまでお人好しじゃねぇよ」

表情も変えずに低く言い、期待も空しく運転手さんは扉の向こうにあっという間に消えた。

玄関の鍵がかかる音が聴こえて、一人置き去りにされたリビングが急にしんとなった。手渡された紙袋の中をのぞけば、新品のTシャツや着替えらしきものが。幹さんのだろうと思ったら下着もぜんぶ女性もので、コンビニによく置いてあるお泊りセットまで入っていた。

こんな気遣いができる人なのに。純粋な愛情じゃないと知ってしまった以上、会うのはこれで最後にするしかないんだろう。

幹さんの言葉が嘘だったなんて思わない。・・・まして私と結婚してほしかったなんて夢にも思ってない。だからと言って愛人になんてもっとなれない。

・・・あなたは最初から分かってて私を抱いたんですか。

どうして。

私を欲しがったんですか。

私の気持ちはどうでも、思い通りにしたかったんですか。

「・・・・・・ひどいです、幹さんは・・・」

床の上に座り込んだまま項垂れて落ちた涙が、紺色のスカートに点々と色濃い跡を残すだけで。


誰も、なにも、答えをくれない。
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