黙って俺を好きになれ
結婚はできないと本当のことは言えない。だからといって嘘で塗り固めたくもない。先のことは分からない思わせぶりで彼女の関心が薄まればそれでよかった。

カップのグリーンスムージーをテーブルに置いたエナは「そっかー」と、どことなく思案顔をする。

「ほら初彼で、糸子が盛り上がりすぎてないかなって。男の本性なんてすぐには分かったもんじゃないしねー」

フォークで巻き取ったパスタを口に運び、二口目を前にこっちを見やってニンマリ笑う。

「でもよかった、早まってなさそうで。とにかく相手をよーく観察して、ヤなとこが30(パー)超えたらスッパリ別れたほうがいいから!」

「そう・・・なんだ」

「熱が引いてくるといろいろ見えてくんの。・・・あ、もしかして明後日のバレンタイン、彼氏と会う?イベントは要チェックだからね?」

興味津々なこの質問攻めはどこまで続くのかと、内心で溜息を漏らしながらも自然な会話を取り繕う。

「ううん。仕事で遅いみたいだし、・・・家も近くじゃないから」

「社会人同士だもんね、しょうがないかー。ね、彼氏の写真は?」

一枚も撮っていないと伝えるとエナは心底残念がり、そこからようやくフリーター彼氏の愚痴と惚気に話が逸れていった。
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