黙って俺を好きになれ
・・・結婚相手の人を思えば、決して手放しで喜べないのは分かっている。気の毒だとか自分を上に見ているつもりもない。だけど。幹さんを、幹さんの傍にいることを、どうしたって譲ったりできない。

名前も知らない“彼女”を傷付けて、・・・筒井君を泣かせて。誰かを愛する幸せと残酷は背中合わせなんだと初めて知った。一人の想いが叶えば、どんなに願っても叶わない悲しい一人が生まれる。どうにもならないから、それを運命と呼びたいのかもしれない。

私達の恋はずっと見えない糸で繋がっていた。だから再会して結ばれる運命だったんだと。半分は本気で、あとの半分は・・・罪悪感の裏返しに。

「イトコ」

低い声で甘くキスを強請るあなたの眼には私しか映っていない。それを嬉しいと思う自分は勝手ですか・・・?そうまでして私を望んでくれてるんだと、愛しさを募らせる自分は酷いですか。

唇を離して間近で見つめ合う。

「・・・あのボーヤにくれてやる気は、さらさらねぇよ」

今になって何のことかと目を見張った。
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