黙って俺を好きになれ
幹さんも無理はせずに、休日の残りは巣ごもりをして二人きりで過ごした。キッチンでご飯の支度を始めるとレンジフードの下で煙草を吸ったり、何をするでもなく私の手許を傍で眺めていたり。

かかってきた電話の回数は片手で足りるくらい。聞かせられる内容じゃないのか自室に籠もることも。タブレットに目を走らせる姿に、邪魔になるかとソファから腰を浮かせば黙って腕を引っ張られる。

あの頃よりも甘い仕草で甘い声で、満足そうに笑うあなたを見ているだけで幸せ。愛しむような眼差しで柔らかく見つめてくれるだけで、幸せ。


「晩(メシ)はなんだ?」

「いろいろ余ってるので水炊きにしようかと思ってますけど」

「・・・鍋はあんまりな」

好き嫌いはないと言いつつ実は苦手が多い幹さん。攻略方法を見つけていくのもなんだか楽しそう。

何気ないお喋りが散らばる何気ない日常も。両親と暮らしていた頃は守ろうとしなくてもそこに在った。

始まる新しい日々はきっと当たり前には続かない。思いながら願った。手にしたものを決して自分から諦めないように。優しい世界が永遠に奪われませんように。・・・と。



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