黙って俺を好きになれ
これはどういう反応なんだろうと頭を捻りつつも、初対面同士を紹介する。

「エナ、あの・・・先輩の小暮幹さん」

「初めまして高橋です・・・・・・」

目の前に立った幹さんを見上げる彼女の動きは、油の切れかかった機械みたいにギコギコと音がしそう。

「幹さん。同期で仲良くしてもらってるエナです」

「ああ・・・聞いてますよ。これからもイトコの良い友人でいてやって下さい」

「・・・あ、ハイっ。それはもちろん!」

口の端で淡く笑んだ幹さんに、いきなり表情(スイッチ)が切り替わったエナ。エキゾチックな笑顔を咲かせながら私の袖を引っ張ると、勢いよく体ごと反転させて顔を近付け声を潜めた。

「この彼氏ってホンモノ?レンタルとかじゃないよね?!」

・・・えぇと。

「糸子のセンパイって言うから、もっと地味で大人しそーな(ひと)かと思ってた!ウソでしょ、え、なに?あんなスペックだなんて聞-てないし、地球が滅亡しても筒井が勝てるワケないし!」

・・・・・・色んな意味でエナのそういう正直なところ、嫌いじゃないかな。

「もうさ、逃がさないでさっさと結婚しちゃいなね?あんなの二度と捕まんないから、向こうの気が変わんないうちにゼッタイ!」

「あ・・・うん」

「筒井はカワイソーだけど、センパイ選んで大正解。結婚式(しき)には呼んでね、楽しみにしてるからー」

ひそひそ声でまくし立てた彼女はなんだか満足げにニンマリして、くるりと幹さんに向き直る。
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