黙って俺を好きになれ
考えがまとまらない内に一台のセダンが私達の前を過ぎると、路肩に寄せて少し先に停車した。運転席からネクタイもスーツも真っ黒い山脇さんがわざわざ降りてきたのを、自分の思考回路も停止しかける。

「・・・あ、あのねエナ、あれは先輩じゃなくて」

彼女と交互に見やって、そのまま二の句が継げない。大股で車の後ろに回り込み、後部ドアに手をかけた彼の挙動に釘付けになる。まさか。中から悠然と現れた黒いコート姿の長身が目に入った途端、足が勝手に動き出していた。

「幹さんっ」

「・・・待たせたな」

不敵そうに笑んで駆け寄った私の頭をやんわり撫でる掌。驚いたけど嬉しくて自然と笑みがほころんだ。

「山脇さんだけだと思ってました」

「野暮用だったんだが間に合ったついでだ。・・・それで、後ろはお前の友達(ツレ)か?」

自分の頭上を流れた目線に我に返る。慌てて振り返れば、元々くっきりとした瞳をさらに大きくしたエナが、呆気に取られたような顔でそのまま固まっていた。
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