黙って俺を好きになれ
こうして出かけられるのも本当に久しぶりだった。グレーの三つ揃いに私がプレゼントしたネクタイを合わせ、ホワイトデーの夜を一緒に過ごしてくれる。恋人らしい気遣い。

それでも、まだ癒えていない傷を思うと手放しで喜んでいいのか複雑で。煙草の匂いがする胸元に顔を摺り寄せれば、優しく髪を撫でられる。

「・・・あの夜、お前に会えた強運に感謝しないとな」

思い出したように、ふっと笑んだ気配。だとしたら送別会って名前の苦行に運命の神さまが報いてくれたのかな・・・。心地よさに浸りそんなことを思う。

「本当はがっかりしたか?俺が極道者で」

小さく首を横に振る。

「・・・先輩は変わってなかったから」

だから。
私はどこまでも。
私の知っているあなたを好きでいます。
たとえ、血を洗い流した手に抱き締められても。
その指先で愛されても。

「幹さんが後悔してないならいいんです・・・」
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