黙って俺を好きになれ
それから30分ほど車は走り、連れてきてくれたのは和風創作フレンチのお店だった。初詣でも有名な神社の参道脇にあって、佇まいも高級割烹かと勘違いしたほど。

店内は白と黒を基調にした和モダンの雰囲気で、数は多くない席のほとんどが埋まって見えた。年配の女性同士や私達よりちょっと上くらいのカップル。それなりの装いをしていて、普段の通勤服だったら間違いなく場にそぐわなかった。

幹さんて。黙って服をプレゼントしてくれたり卒がないし、イベントごとも気を遣ってくれるし、背も高くて格好よくて普通に言ったら理想の彼氏なんじゃ。

一皿一皿、丁寧に彩られた会席風のコースを堪能しながら今更の発見だった。・・・どこか他人事みたいに感心したのは、恋愛経験値が低くて比べる対象がないからかもしれない。






「少し付き合え」

場慣れしていない不作法もどうにか披露せずに済み、お腹も気持ちも十二分に満たされて車に乗り込むと幹さんが言った。

目的が知らされないのもいつものことで、頷き返せば頭の上に掌が。そのまま抱き寄せられ温もりに甘えきっているうちに微睡んでくる。途中で寝るなんて幹さんに失礼。懸命に闘ったつもりで呆気なく落ちていた。夢心地に・・・・・・。



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